第30話
「それじゃあ、もうそろそろ帰ろうかな」
「え......」
「ん?」
「......せっかく来たんだから......もう少し一緒にいたい」
このくらいの我儘は許されるよな。
そう思いながら樹を見ると、顔を真っ赤にしている。
......どこに照れる要素がある?
「光希さん、それ反則です......」
「な、何が?」
「可愛さの爆弾やろがぁ!!」
......樹が壊れてしまった。
どうしよう。
まぁ、いつものことか!
僕はリビングを出ようとしていた樹の手を取り、ソファへと導くと、ゆっくりと座らせた。
そして僕はその樹の横に並んで座りテレビをつける。
なんだか、無性に甘えたくなったので、僕は樹の肩に頭を擦り付ける。
すると、樹の身体がびくぅっと揺れたので抗議の視線を送った。
「......ちょっと。揺れないでよ」
「だって、こんなの拷問だよぉ......」
「?」
「ハァ。分からないならいいよ、もう。こっちの気も知らないで......」
最後の方はなんて言ったか聞こえなかったが、僕が何かしてしまったらしい。
でも、僕の知った事ではない。
樹が帰るまでこうしてのんびりしていよう。
――樹の心臓が爆発しかけていたのには気づかなかった。
***
翌日、ドラマ撮影現場。
今日も樹は"ジュナ"と言うアイドルとして現場に立つ。
そんなジュナに近寄る一人の少女。
最近何かとテレビ現場がかぶったり、このドラマでも"ダブル主演"として舞台に立つ絶賛売り出し中のアイドル"花恋"である。
「ジュナさぁん、今日もよろしくお願いしますぅ」
「あぁ、花恋ちゃん。よろしく。」
――はっきり言おう。ジュナはこの花恋が苦手である。
甘ったるい喋り方、必要以上に近寄せてくる身体。
もう何もかもがダメである。
「ジュナさぁん。出番までお話してましょうよぅ」
花恋がそう話しかけてきた時だった。
樹のスマホが鳴った。
――相手は愛しの光希である。
「ごめんね?少し席外すから」
そう言うと、樹は人気のないところに移動した。
「もしもし!」
『もしもし、樹? 今大丈夫?』
「うん。出番までまだまだ時間かかりそうだから」
『そ、っかぁ。......今日もウチくる?』
「え、行っていいの?」
『い、嫌なら無理しなくても......』
「いえ! 行きたいです!!」
『フフッ。必死』
先程まで憂鬱だった空気が浄化されたかのようだ。
それほどまでに光希の存在は樹の中で大きくなっている。
恋人同士になってからはなおさらだ。
『それじゃあ、夜待ってるから』
「うん。それじゃあまたね」
通話を切ったところでガサリと音が聞こえた。
振り向くと、花恋が立っていた。
「電話のお相手はどなたですかぁ?」
「君に言う必要あるのかな?」
「......私ぃ、本当にジュナさんのことが好きなんですぅ」
「......ごめん。オレには大切な人がいるから」
ジュナはキッパリと花恋の告白を断った。
しかし、花恋は笑みを崩さず――
「......その相手ってぇ、HIKARIちゃん、ですかぁ?」
花恋の言葉に樹は思わず固まった。
それは肯定と捉えられるであろう。
――その様子を見て花恋は"勝った"っと確信したのであった。




