第29話
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その日の夜。
僕は落ち着かない気持ちを料理をしながら誤魔化していた。
――これから樹がこの部屋に来る。
そう考えるとドキドキして、鼓動がうるさい。
「よし。こんなものか」
あまり凝ったものを作るのもなんだったので、ここはオムライスとオニオンスープで勝負。
出来上がったものをテーブルへと運んでいるとインターフォンが鳴った。
――来た。
僕はドアをガチャリと開けた。すると――
「ただいま光希ぃい!!」
「うわ!! ちょ、危ない!!」
「光希ぃ! 会いたかったよー!!」
「......昼間あったばっかりだろ」
......本当は僕も会いたかった。
だがそれを口にするのにはまだ抵抗があった。
「ん? なんかいい匂いがする......」
「......ご、ご飯、作ってある」
「へ?! 光希の手作り?!」
「う、うん」
僕が肯定すると、樹は顔をパァっと輝かせた。
......嬉しそうにしてくれて僕も思わずニヤけてしまいそうになる。
「さ、冷めちゃうから早く食べよ」
「......光希」
「? んン」
振り向きざまに樹がキスをしてきた。
――今までにはなかった長めのキス。
「よし! 満足!!」
「~~!! いきなりすぎる!!」
「え? 嫌だった......?」
「い、嫌とかじゃなくて!!」
不意打ちにされると心臓に悪いのだからよしてほしい。
でもそんなキスもたまになら......と思ってしまう自分がいる。
......なんだか最近樹のペースに乗せられていないか?
僕は少しだけ不満に思ってしまった。
僕は思わず、樹の足にけりを入れる。
「痛っ! 痛いって光希さん!!」
「うるさい!! お前が悪いんだ!!」
「えぇ......」
僕は顔に熱が集まっていくのを自覚した。
その顔を見られたくなくて、痛がる樹を置いてリビングへと向かった。
その後ろを大人しく樹がついてくる。
「うわぁ!! オムライス!! 美味そう!!」
「そ、そう?」
「食べよ食べよ!! いただきまーす!!」
「......どう?」
言ってはなんだが料理の腕には自信がある方だ。
しかし、好きな人......"恋人"に手料理を振舞うなんて初めての経験すぎて緊張する。
「これもう店出せるレベルじゃん!! オニオンスープも美味い!!」
「......良かった。口に合わなかったらどうしようかと」
「? 光希の手料理ならなんだって食べるよ?」
ほら。こうやって僕のことを甘やかす。
......ところで、ご飯を食べた後って一体どうするつもりなんだ?
「樹、今日は泊ってくの?」
「へ?! み、光希さん?! それはまだ早いと思って我慢していたんですが......」
「?我慢?なんで我慢する必要があるんだよ」
「もー、ヤダこの子!! 鈍感にもほどがあるでしょ!!」
泊るなんて友達同士でもするんだから、恋人なら当たり前なんじゃないのか?
そんな事を考えていると、樹は真剣な顔をして見つめてきた。
「な、なんだよ......」
「光希、恋人同士が夜を一緒に過ごすってのは特別なんだよ?」
「特別?」
「そう。例えば......SEXしたりとか、ね」
「は、ハァ?!」
そんな、断じて僕はそんなつもりで言ってはいない!!
「......やっぱりそこまで考えてなかったか」
「う......」
「いいんだよ。オレらはオレらのペースで進んで行こう?」
こういう時までオレに甘い。
だがそんなところも、好きだ。
樹の言う通り僕達のペースで進んで行けばいいんだ。
――この時はそんな甘い事を考えていたが、まさかあんなことになるとは思ってもみなかった。




