3章ー10:いつかは突然に
・・・・・・・。
・・・・・・あ~ダメだっ。
集中できん・・・。
爪で書きかけの石板を、手で『そそっ・・・』と脇にやって、僕はため息をつく。
昨日の稽古で、ティアスは僕とレムアの関係が一向に進展しないことに業を煮やしてることを告白し、タイミングよくその日の晩ごはんで、レムアは僕に対してよそよそしくなった。
かと思えば、寝ている時になんだか積極的になって・・・。
もうワケ分かんねぇ~よ・・・。
今朝のレムアは、ご飯の時は至って普通だった。
だけど送り出す際に、『切り火』をされた。
昔の時代に、健闘を祈る意味を込めて、火打ち石を『カンカンッ!』てやるアレだ。
今日は城で事務仕事で、危険な目に遭わないから「なんで?」ってなったよ。
しかも無言でやってきたかんね、すげ~恥ずかしそうに・・・。
昨日今日でレムアの態度が明らかおかしい。
はっ!
もしかして・・・僕にやったみたいにレムアにもティアスが「行っちゃえ、行っちゃえ!!」的なことを言って、腹を括ったレムアが僕に対して猛アプローチを仕掛けてきたとか!!?
「・・・・・・ポジティブ過ぎんだろ」
いい加減自分の好きな子に「ひょっとして向こうも僕のこと好きなんじゃないの?」なんて下らない妄想をすんのは止めよう。
小5の時にそれで好きだった子に告ったら半笑いで「ごめんなさい・・・」って言われたの忘れたか?
あ~思い出すだけでも頭重くなる・・・。
それ以来僕は、恋愛に対してどんどん奥手になって、いつしか二次元の女の子にしかなびかない、いわゆる『痛いヲタク』になっちまった。
そんな僕に久しぶりに・・・を通り越して、転生して最初に恋心を抱いたレムア。
はじめは、僕なんかよりよっぽど酷い、生きる気力さえも失せているうつ状態の彼女を心から憐れんで、勝手に親近感を持った。
自分と同じ心情の奴なんて、日本にいた頃は一人も近くにいなかったから・・・。
だけどレムアは、僕と違って、親の仇という超ド級のトラウマを乗り越えて、どんどん元気になっていった。
それに比べて僕は、前世の記憶に引っ張られて、たまにうつがぶり返したり、パワハラを受けてた時の夢を見たりする。
・・・・・・やっぱり僕みたいな根暗で面白くなくて、顔もそこそこな男が、あんな可愛い子をモノにできるワケないし、その権利すらない。
ティアスには悪いけど、このまま自然消滅を待つしかないか・・・。
半ば諦めが着いたその時、小姓の飛竜が戸を開けた。
「失礼いたしますリオル様。殿がお呼びでございます」
ディブロが?
「分かりました。ちょっと待って下さいね」
何やら急ぎの用事らしいので、僕は慌て気味にディブロの部屋へと向かった。
「殿、リオル様がお見えになりました」
「入れ!」
部屋の前で待機してたディブロ専属の小姓に通され、僕は部屋に入った。
「あれ?」
部屋にはディブロとスディアはもちろん、ティアスもいた。
「何しておる?わらわの横に付け」
「しっ、失礼いたします」
ゆっくりティアスの横に座った僕は、ディブロとスディアの顔色を窺った。
なんかとっても神妙な顔をしている・・・。
あっ!まさか・・・!?
「きっ、昨日の・・・姫様との、稽古の件・・・でしょうか?」
稽古の場とは言え、雇い主の娘さんを叩きのめしてしまったんや。
怒るのも無理のないことだ。
「いや。そのことについてはボロスから報告を受けておる。骨を折ってティアスに付きおうてくれたようで感謝する」
「はっ、はぁ・・・」
昨日のことじゃない?
じゃあ一体なんで呼んだんだ?
「昨日のことではないのですか父上?では何故リオルだけでなくわらわまで・・・」
ティアスも自分が呼ばれた理由を知らないのか?
「リオルの今後のことにティアス、お前も深く関わることになるので呼んだ」
僕の今後・・・?
って、おいおい!!?
僕の脳裏にティアスとの縁談でも持ち掛けられるのかとよぎったが、すぐに引っ込んだ。
そんなこと絶対起きないし、何よりディブロの表情に見覚えがあったからだ。
この感じ・・・あの時僕が人質になることが決まったのと似てる・・・。
「では、単刀直入に申す」
僕はこれからディブロの言うことが何となく分かっていて、心の半分で「どうか違いますように・・・」って祈った。
「リオル。明後日を以ってミーノ領への人質としての役目ならびに旗本としての任を解き、オリワ領へ世継ぎとして返還する。現在行なっておる領地改革はティアスに引き継ぐようにっ!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
僕の中で、格言としてる言葉があった。
『いつかなんて日は来ない。自分でその日を作らない限り』
この言葉に従って、僕は人生のターニングポイント・・・特に離就職に関して時に強引な決断をしてきた。
だけど社会で経験を積む内に、その認識は徐々に変わっていった。
いつかは来るんだ。
全く予想だにしないタイミングで・・・。
・・・・・・いつか、この日が来ることは分かっていた。
僕はあくまで、オリワ領の領主の息子の地竜。
いつまでもミーノ領に居れるワケではない。
だけど・・・だけど・・・。
「・・・・・・やっぱ急すぎんよ」
聞こえないように精一杯気を付けて、僕は不満を独り言で出した。




