3章ー11:いいのか、これで?
ディブロから人質としての解放と、旗本の解任を言い渡され、僕は呆然としていた。
「おい、大丈夫か?」
「あっ、はい。ずいぶん急に決まったんっすね」
動揺を抱えたまま我に返ってしまったせいで、素で聞いてしまった僕。
ディブロは僕の態度に少々怪訝になりながらも、すぐに平静に戻った。
「しばらく前からお前の父と文を交わしておってな。この四年間、お前は我が領の護りを盤石にしてくれて、民の暮らしを潤した。しかしてお前はオリワ領の跡取り息子・・・。ここで得た知見を自国で活かし、元服を迎え父の地盤を継ぐまで、ゆっくり力を養うべきだと思うた」
「はぁ・・・」
「お前とて、いつまでもここでくすぶってはいられまいて」
・・・・・・その通りだ。
僕は生まれ育ったオリワ領を良くするために、ここでたくさんの経験を積んだ。
元居た現代日本と同じように、安定した暮らしを住んでる人に届けられるように。
僕が良くしたいのはあくまでオリワ・・・ひいてはこのサンブロドそのものなんだ。
ずっとここのご厄介になるワケにはいかない。
「どうしてわらわがリオルのお役目を継がねばならないのですか!?」
「姫として下々の者たちの生活に慣れ親しみ、より良き方へ導くのが務めであると妾が決めました」
「リオルほど適任はおりませぬっ!!せめて元服まで待つべきはありませぬかっ!!」
「くどいぞティアス!!これは父君とオリワの領主で決めたこと!お前がとやかく言う出番はないっ!!」
「っ・・・!!」
珍しくスディアに厳しく叱られ、ティアスは納得しないままだったが、大人しく発言を控える。
「奥方様の言う通りですよ姫様?大人が決めたことに、子どもであるわたくし共が口を挟むのは無作法というもの」
「なっ・・・!?くっ・・・!!」
すんなりと受け入れる僕を、ティアスはバチバチに睨みつける。
そんな顔ですんなよ。
上の決めたことにいちいち逆らっても、余計にこじれるからしょうがないやんか・・・。
「では、リオルには二日の間に身の周りの整理をしてもらう。何か要望があれば、あとから申しても構わんぞ?」
「ありがとうございます」
厳かに頭を下げ、僕はディブロからの人事を受け入れたのだった。
◇◇◇
「はぁ~・・・」
身辺整理のために城の中の専用の書斎に来たけど、イマイチ捗らなくて縁側でぼんやりしていた。
何をどう整理したらいいんや?
マジで急に言われたから全く手ぇ付けへんのやけど・・・。
「おい」
ぼ~っとしてると庭の方からティアスが歩いてきて、何も言わず僕の横に座った。
「何ですか?まだ怒ってるんですか?」
「いや。あの場でのことはつい感情が先走ってしまったと反省しておる。うぬの言う通り、たとえ親であれ殿の決めたことに口を挟むのは無礼だった・・・。それに、うぬを引き留めること、即ちうぬの夢の邪魔をするも同義・・・」
しょんぼりしてるティアスの表情が、夕陽にうまいことマッチしてて、なんだか綺麗だった。
僕が見惚れていると、ティアスは怒ってるような、悲しんでるような顔を急に向けてきた。
「じゃがうぬは・・・!!これでいいのか!?」
「なっ、何がです?」
「レムアに想いを告げぬまま去って・・・!!心残りとは思わんのか!!?」
「っ・・・!?」
僕はどうしてティアスが、あの場で僕を引き留めるようなマネをしたのか。
そして彼女の心意に気付いた。
ティアスは、友達として・・・本気で僕の恋路を応援していたんだ。
でなきゃ雲の上の存在である両親に異議を唱えたり、今この場でこんなに悲しそうな顔で聞いたりしないもん・・・。
ティアスの気持ちは伝わった。
嬉しいけど・・・僕は怖くなった。
まるでプールの飛び込み台に立った時のような。
飛び込んだ瞬間、息が出来なくなる。
だけどそれさえ乗り越えれば、ものすごく爽快な気分になれる。
怖い・・・。
怖いけど・・・一歩踏み出したい。
「もう一度問うぞ。本当にいいのか!?これで!」
揺れ動く僕の背中を押すかのように、ティアスは更に語気を強めて聞いてきた・・・。




