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3章ー8:煮え切らない同士、しかし両想い

 屋敷に戻る道中、僕はティアスに怒られたことが心のトゲになっていた。


 あんなキレなくたっていいやんか・・・。


 そりゃ~ね?僕もレムアと付き合い気持ちはあるよ?


 でも僕みたいな内気でコミュ障で、話もおもろくない、顔面偏差値50以下のブ男なんかが告ったって上手くいくわけないやんか・・・。


 自分がイケてないってのは自分が一番よく分かってる。


 なのになんであんな言い方するかなぁ~・・・。


「・・・・・・人の気持ちも知らんでえらっそうに!」


 叱ってくれた相手にイライラしちゃうのは前世からの悪い癖。


 でも今回ばかりは僕の気持ちを知ってほしかった・・・。


 悶々とした気持ちを抱えながら、僕は屋敷に帰ってきた。


「ただいま~」


「あっ!おっ、おかえりなさい、ませ・・・」


 引き戸を開けるとレムアが屋敷の廊下を掃除してる最中だった。


「あっ、うん・・・」


 びっくりした後に僕と中々目線を合わせないレムアに、ちょっと気まずくなる。


「今日は、その・・・こちらで?」


「うっ、うん・・・。仕事一区切りついてさ。三日ぶり、だね?」


「そっ、そうですね・・・」


 なんやこのフワフワした感じ・・・。


 ちょっと落ち着かないなぁ・・・。


「すっ、すぐお風呂のお仕度いたしますねっ!」


「ああ、いいよゆっくりで・・・!」


 僕の言葉を聞かずに、レムアはバタバタとお風呂の用意をしに行った。


「なんか・・・おかしいな」





 ◇◇◇





「なんじゃ~?まだ告白しておらぬのか?」


 話は一昨日の夜、リオルが仕事先で外泊していた屋敷にティアスが晩ごはんを食べに来た時だった。


 ティアスはリオルにまだ告白していないレムアに、呆れつつ驚いた。


「決心しようとした日は幾つもありました。しかし、中々勇気が出ず・・・」


「どうしてじゃ?レムアは気立て上手で、しかも可愛いときた。想いを告げればリオルもコロッと落ちようて」


「リオル様はそんな安い男じゃありませんっ!!わたくしみたいな家事と炊事しか取り柄がなくて、戦場いくさばに立つと粗暴になってしまう醜女しこめなんかより、もっと気品溢れて、礼儀作法がなっている女子おなごの方がお似合いなんです・・・」


 故郷をシノナ領に滅ぼされ、塞ぎ込んでいたレムアは、この四年ですっかり生気を取り戻した。


 しかし、それでもまだ治っていない自己肯定感の低さに、友達として、時には姉のように接してきたティアスは「参ったな・・・」と思いながら頭をポリポリ掻いた。


「まぁ、うぬがそこまで言うのならわらわとて無理強いはせん。じゃがずるずるしておると急ぐ必要のない善まで逃してしまうことを頭の片隅にでも入れておいた方がよいぞ?」


「はい・・・」


 忠告をするティアスに、レムアは自信無さげな返事をした。


 ティアスはレムアを心配に思う一方、好きなはずなのに彼女に告白していないリオルにもどかしさを感じた。





 ◇◇◇





 お風呂から上がって居間に行くと、お味噌汁とイネウミブドウ、そしてほぼ白身しかない『ワタナシサンマ』の姿焼きが用意されていた。


 どれもカワミ領の特産品だ。


「あれ?これ・・・」


「スラギア様からの、お品です。「そろそろ秋が近いだろうから」と・・・」


 そっか~。


 そういえば最近、夜が涼しくなってきたからね~。


 こっちの世界は日本と違って夏と秋の境目がはっきりしてる・・・。


『令和ちゃん』もこれくらい、ほどほどに仕事してくれたら良かったのに。


「まぁいいや。レムアも食べよ食べよ。冷めちゃうし」


「はっ、はい・・・」


 ぼ~っとするレムアはハッとして向かいに座ると、僕たちは夕食にすることにした。


 あ~やっぱポン酢に大根おろしのサンマは美味い。


 しかもこれ、『ワタナシサンマ』っていうくらいだから、はらわた部分まで白身っぽくて苦みもない。


 サンマのわたは残す派だった僕としては、意外とめっけもんの食材だった。


 心ン中じゃ結構喋ってるけど、実際は黙食だ。


 僕もレムアも、一言も発さず『もっ、もっ・・・』とご飯を無言で頬張る。


 最近は大抵こういうシチュエーションだ。


 だけど今夜は、なんだか輪にかけて気まずい感じがする。


 なんでだ・・・?


 もしかして僕、知らぬ間にレムアの気に障るようなことしちゃったのかなぁ・・・?


 でも心当たりなんかないし・・・って!?


「ああっ・・・!」


 ぼんやりしてると、前足の肘で味噌汁のお椀を倒してこぼしてしまった。


「ただ今お拭きしますのでっ!」


「大丈夫大丈夫!!自分でやるから!!」


 急いでこぼした味噌汁を拭こうとしたその時だった。


 ふきんを持った僕とレムアの指と指とが触れ合い、『むにゅ・・・』と右と左の頬っぺたがくっついた。


「ああ~!!?ごっ、ごめんなさいっ!!」


「いっ、いえ・・・!!」


 あと数十cmズレてたらキスになってた体制から慌ててそっぽを向いて、僕とレムアは無言でこぼれた味噌汁を拭く。


「どうぞ・・・」


「ありがと・・・」


 レムアが出してくれた代わりの味噌汁に「ずずっ・・・」と口を付けると、僕たち二人はまた無言でご飯を食べ始める。


 はぁ~・・・。


「ホントだめだな、僕・・・」

「ホントだめだな、私・・・」


「え?」


「え?」


 独り言を聞かれたことへの恥ずかしさと、なんでレムアも息ピッタリで同じこと言ったのかへの戸惑いで、僕は顔を真っ赤にしながら固まった。


 レムアも、顔を赤くして微動だにしなかった。


 気まずい空気で見つめ合う僕たちを余所に、外では増え始めた秋の虫たちが元気よく鳴いていた。

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