2章ー25:曇天、静かなる開戦
オリワを出発した次の日のお昼前、いよいよ僕たちはカワミ領、バケットガップ海峡の一番端、巻牙城巣の一番近い干潟になってるところの近くまでやってきた。
「全速で疾く参ったのが功を成したようだなスラギア殿」
「ですね・・・ルータス殿」
バケットガープ湾を一望できる崖の上で、ルータスとスラギア君、そして僕はかがんで下に張られた陣を見る。
あそこでトーウミト軍とシノナ軍が、カワミ軍に巻牙城巣譲渡の式をしてるんだ。
僕ははっきりと、そう断言できる。
なぜなら、ものすごくデカい水竜が見えるからだ。
闘牛みたいな湾曲した角が生えて、銀色のブヨブヨした肌に、リクガメみたいな前足だけで後ろ足がなく、クジラみたいな背びれを持った尻尾が二又になってる、ゆうに50mはありそうなドデカい海洋生物・・・。
あれがトーウミト領の殿様のバナデウスか・・・。
マジでめっちゃくちゃ大きいやん・・・。
あんなんどうやって倒すっていうねん・・・。
「城巣が攻められていないのを見るに、スラギア殿の母上の首は飛んでないようだな・・・」
ルータスに同調して、スラギア君もホッとするが・・・。
「だけどここからでは、あそこで何が行われてるか見えませんね・・・」
スラギア君の言う通りだった。
この国には望遠鏡がないから、遠くの様子を詳しくみることができない。
つまり、誰かがあそこに行って様子を見る必要がある。
となると・・・。
「・・・・・・僕が見に行きます」
なんの躊躇もなく名乗りを上げた僕に、スラギア君とルータスはビックリした。
「リオル正気か!?」
「敵地に単身で行くとな!?」
「大丈夫です。敵のいるところに潜入しに行くのは初めてじゃないですから」
まぁ前は臭いで即効バレたんだけど・・・。
でも、今回は味方もあそこにいるわけだし、何よりバレないように『対策』も考えてある。
「もちろん危ないのは分かってます。だから・・・」
僕は後ろの森で同じように身を潜めている味方を一瞬見た。
「兵にはすぐにも飛び出せるように行って下さい」
「どういうことだ?」
「これから僕はあそこに行って、ちょっとした“騒ぎ”を起こします。それが・・・出陣の合図です。それが見えたら、この崖を駆け下りて背後からトーウミト軍を背後から奇襲して下さい。相手は水竜・・・。満潮じゃない陸地ならこっちに地の利があります」
「この規模の手勢ならトーウミト軍は凌げるが、シノナ軍はどうするのじゃ?」
「・・・・・・カワミ軍で抑える」
「なぬっ!?」
「僕は向こうにいるクルラ様にバレないよう接触する。“騒ぎ”を手伝ってもらうために。ついでにオリワ軍が突っ込んできたら率先してシノナ軍を抑えるように頼み込む。まっ、スラギア君が生きてることが分かったらみんな目の色変えて戦ってくれると思うけど・・・。オリワとトーウミト、カワミとシノナ。二軍ずつであの陣で戦えば、入り乱れての乱戦になるのは必須・・・。さすればミーノ軍が到着するまでの時間稼ぎには十分なると思うよ?」
僕の提案に、ルータスとスラギア君は、顔を見合わせて何も言わず目で相談した。
「・・・・・・いいだろうリオル。その年で旗本に召し抱えられた奴の策だ。喜んで乗ってやろう」
「母上のこと、よろしく頼む・・・!!」
「・・・・・・ありがと!!」
二人にめいっぱいの感謝を言って、僕は崖を下りようとした。
って、そうそう!!忘れてたっ!
「あっ、ちょっと待って!」
僕はスラギア君の人差し指にあるものを付けた。
そう、僕の守り爪だ。
「これは・・・」
「これからカワミ領の命運をかけた戦だからさ、一応お守り。これね!結構効くんだよ?前に付けてあげた時にも効果テキメンだったんだからっ!」
「“付けた”って、誰にじゃ?」
「えっ・・・?えっ~と、ねぇ・・・」
「レムアか?」
「・・・・・・・。」
「誰だよ?レムアって」
沈黙を破ったのはルータスだった。
「リオルがのぼせている女子でございますよっ!」
「本当か!?なぁおいリオル!一体どんな娘なんだ!?」
「そっ、その話はまた後でぇ~!!」
むっちゃくちゃ恥ずかしくなった僕は、急いで崖を下りていった。
なんか締まんないなぁ・・・。
と思ってると、太陽が分厚い雲に隠れて、冷たい潮風が頬を撫でる。
こうして、後の世で有名な戦として語られる『バケットガップ海峡の戦い』が曇り空の下、静かに始まったのだった。




