2章ー24:彼のために死ねるか
リオルとスラギアがオリワ領に赴いているのと同時刻・・・。
ミーノ領が金砂城巣では、レムアの報せを受けたディブロとスディアにより、広間にて緊急会議が開かれていた。
勿論、リオルとスラギアの名代として馳せ参じたレムアも同席の上で。
「シノナの軍を率いておるのはゲレドで間違いないのだな?」
「はい。リオル様がその目で確かに見たと・・・」
レムアの報告を聞いたディブロは、オレンジの瞳をギラつかせ、雄牛のように熱くて白い鼻息を漏らした。
「我が娘を手土産にシノナに寝返った謀反者が、偉くなったものだのう・・・」
低く冷静な言葉が、かえってディブロの内なる怒りを際立たせる。
「今カワミに援軍を送れば、同盟を決定的にすることができ、かつ殿と奥方様、そして姫様の命を脅かし、ミーノを滅亡へと追い込むのに端を発した逆賊の首を、今度こそ獲ることが叶いましょう。リオル様、そしてスラギア様の名代としてお頼みします。どうか!カワミに加勢を出して下さいっ!!」
ディブロの怒りに集まった将たちに緊張が走る中、レムアのみが臆することなく、大きく張った声で進言した。
その心意気を見込んでか、ディブロも少し溜飲が下がった様子だ。
「・・・・・・ボロス!」
「はっ」
「兵を集めさせよ。支度が出来次第、カワミに進軍じゃ」
「承知いたしました」
「あっ、ありがとうございますっ!!」
ディブロが加勢に出ることを承諾してくれて、レムアは深々と頭を下げた。
「遠路はるばる疾駆けで報せに来てくれて大義であった。事が済むまでお主はここで待っておれ」
「いえ。わたくしもカワミに戻って、リオル様と戦います。」
「戻る」というだけでなく、「戦う」とまで言ったレムアを前にディブロの目の色が変わった。
「女子の身で戦いに出るじゃと?何故じゃ?」
「戦いにおいて、リオル様のお背中を守る者が必要です。これはあの方の傍付きを命じられた、わたくしにしかできないお役目・・・」
「それは些か侍女として逸脱した奉仕のように思えるが・・・」
「お前様、ここはレムアの心意気を汲もうではありませぬか」
困惑するディブロの代わりに、スディアが口を開いた。
「この娘とて、リオルとともに敵将を討ち取り、我がお家の危機を救ってくれた恩人・・・。“一介の地竜の侍女”と断じるわけもいきますまい。この娘にも、戦場で牙と爪を振るう気骨がある」
『ミーノの黒槍』と呼ばれ畏敬の念を持たれるスディアに太鼓判を押されたとあってはさすがにノーとはいえない。
レムアが戦に参加することを、ディブロは無言で了承した。
「あっ、ありがとうございまする。スディアの方様」
助け船を出してくれたスディアに、レムアは深い感謝を示した。
「変わったのぅ、貴様。およそ半年ほど前までは生きる意味を見出さず、深き胸の内で死を望んですらいた生きる屍が、かように目を輝かせるとは」
「リオル様が、わたくしに、道を示してくれたお陰です・・・」
頬を赤らめながら答えるレムア。
その顔を見て、スディアは「すん・・・」した態度になった。
「よほど主を好いておるのだな?」
「・・・・・・はい」
「そうか。然らば主のために死ぬことはできるか?」
「え?」
唐突な問いに、レムアは固まる。
「リオルが戦場で死の危機になった時、代わりに死ぬことはできるかと聞いておる!」
語気を強めるスディア。
一瞬「ビクッ・・・!!」したものの、レムアはその問いに答えるべく、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・・・できませぬ」
「なに?」
眼光を鋭くさせるスディア。
武骨な飛竜であってもたじろぎかねないその気迫を前に、レムアはこれまで以上に凛とした態度を示す。
「わたくしはリオル様のお背中を全力でお守りする、その覚悟はできております。ですがリオル様を庇って死ぬことなんて毛頭思っていません」
「それは何故じゃ?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「あの方の作る、天下太平の世をこの目で見たいからです。老若男女、身分を問わず、誰もがよく笑い、よく食べ、よく遊べ、よく寝られ、よく恋ができる・・・。天上の如き幸せを、普遍の物として享受できる・・・そんな世を。それを見るまでは死ねませんし、リオル様も死なせません。それに・・・」
「それに?」
「これは過ぎた考えですが・・・わたくしのお命は、もうリオル様とともにあります。もしわたくしが死せることがあれば、あの方はきっと半身・・・いいえ。魂を抉られたような痛みと悲しみに悶えることになり、生きる意味を失ってしまいます。草葉の陰からその様を見るのは、耐えられない・・・。故に、わたくしにはリオル様を守って死ぬことなど、できませぬ」
「・・・・・・“恋するリュウコクナデシコ”か」
「ふぇ!?」
スディアの口にした言葉に、レムアは『ぽっ!!』と顔が赤くなった。
「くっ・・・!ははっ。誠に貴様は妾を興じさせてくれるようになったな?まるで若い頃の自分を見ているようじゃ。のう?お前様?」
返答を求めるスディアに、ディブロは赤面して俯いた。
「そこまで申すのならもう何もいうまい。貴様に心からの賛辞を送ろう」
「すっ、スディアの方様・・・」
「武器庫に行って貴様でも扱える得物を探してこい。愛しき主人に会う前の“おめかし”は必須じゃぞ?」
「はっ、はい!しっ、失礼いたしますっ!!」
スディアの言葉の意味をあまり飲め来ないまま、レムアは広間を後にした。
「はぁ~・・・」
「さっきの言葉、あの朴念仁に聞かせてみたかったのぅ~?」
広間の前で心を落ち着かせるレムアに、ティアスが茶化した笑顔で近づいてきた。
「ひっ、姫様!?もしかして、全部お聞きに・・・?」
「うむ!」と頷くティアスにレムアは「はうう~・・・!!」と赤面した。
「そう恥ずかしがるなっ!其方とわらわの仲じゃ。レムアの恋路、応援しておるぞいっ!!」
首に肩を回すティアスに、レムアは何も言えなくなってしまった。
「あの・・・今夜のこと、リオル様にはどうかご内密に・・・」
「約束するっ!『恋は己で実らせろ』ともいうからなっ」
何故か二つの意味を孕んでそうな物言いに、レムアは訝しんだ。
まるで“自分以外もそうである”かのような・・・




