2章ー23:背負うべきではない重荷
ルビィとの再会を終えて、僕とスラギア君は町を超えた先の巣にやってきた。
半年ぶりに戻ってきた、僕が生まれた巣・・・。
奥にはハーリアが僕を産んだ鳥の巣タイプのベッドがまだ置いてある。
「こんなに小さかったんだなぁ・・・」
巣を一通り見回して、僕は独りごとを呟く。
半年しか離れてないのに、僕は卵から生まれ、一年を過ごした城巣がやけにちっぽけに思えてきた。
「お館様!!ならびにハーリアの方様ぁ!!」
大きく張った声とともに、巣の奥から青色の地竜と、桃色の地竜がお出ました。
この世界における僕の両親の、ルータスとハーリアだ。
オリワ領の領主とその奥方様を前に、僕とスラギア君は深々と頭を下げた。
「久しぶりですね、リオル」
ハーリアの心地よい優しい声が、耳を撫でる。
「お久しゅうございます。父上と母上に申しては相変わらずご壮健のようで」
「お前ほどじゃあないがな」
「はい?」
「ディブロ殿から文で聞き及んでおる。ミーノに着いて一週間足らずで初・・・しかも大手柄を立てたそうだな?」
なんだ~聞いてたんだ。
「はい。その甲斐あって旗本に任ぜられました」
「それも聞いておるっ!」
自慢げに答えるルータスに、「すっかりディブロとメル友やん・・・」って思った。
同盟の担保に人質として送り出した息子が、その出先で出世してることに鼻高々なんだろな。
「それで、そんな果報者の息子が、一体どういう用向きで半年ぶりに帰ってきたのだ?」
「・・・・・・その件に関しては、こちらの方から事情を」
僕は下がって、代わりにスラギア君が前に出てきた。
「其方は?」
「カワミ領領主・スラギアでございます。此度はルータス殿にどうしてもお頼みしたいことがあって参上しました」
「カワミ領領主!?あの水竜の国か!?」
やっぱこんな子どもが殿様だと知ったらビックリするわな・・・。
ルータスは一旦気持ちを落ち着かせるために、「すぅ~・・・!!」と大きく呼吸した。
「むぅ~・・・。カワミ領の領主が病で見罷れたとは聞き及んでいたが・・・その角と背中の鈍く光る雷光・・・。間違いなくかの一族のものだ」
身体的特徴から、スラギア君が病死した父親の跡をついで殿様になったことを、ルータスは理解したようだった。
「それで、頼みとは何だ?カワミの新しい主君よ」
「はい。実は・・・」
◇◇◇
「・・・・・・ということでございます」
スラギア君は全て話してくれた。
僕がカワミに同盟の使者として来たこと、その同盟を妨害するためにシノナ領がカワミと犬猿の仲のトーウミト領に肩入れしてきたこと。
「どうかここは!!カワミ領、ミーノ領、そしてオリワ領の三国の同盟の先駆けとして、是非加勢をお願いしたくっ!!何卒・・・!!」
スラギア君はルータスに深々と頭を下げた。
それはもう、額に地面が付くほどに。
自分たちより小国の殿様に頭を下げるなんて、日本の戦国時代でも有り得ないことだ。
それだけスラギア君の気持ちが、マジだって証拠だ。
「・・・・・・スラギア殿、表を上げて下さい」
『ガバッ!!』と顔を上げたスラギア君に、ルータスは問うた。
「何故、そこまで?」
やはりルータスも、子どもとはいえ、自国より格上の国の殿様に頭を下げられたことに、驚いてるらしかった。
「・・・・・・このサンブロドに、天下太平を成すために!!」
それを聞き、ルータスの目の色が変わった。
そして、しばらく黙り込む。
「・・・・・・乱世というのは、かくも容赦がありませんなぁ~」
独りで愚痴るかのように聞いてくるルータスに、スラギア君は目をパチクリさせた。
「本来であれば、楽しく野を駆け、海を泳ぐことが役目の子どもにも、背負うべきではない重荷を背負わせてしまう。かたや同盟を約束するための人質として差し出され、かたや幼子にして領主に任ぜられてしまう・・・。かく言う俺が、前者なのだがな。息子には、大変申し訳ないことをしたと思っている・・・」
面と向かわず、しかし同席する中で、ルータスは僕をミーノへの人質として差し出した後悔の念を吐露した。
こういう形でしか謝れないほど、ルータスは死ぬほど申し訳なく思ってるんだろう・・・。
だって顔が、そう言っているから・・・。
「だが・・・我が息子はその荒波に揉まれながらも奮闘し、奇しくも息子と同じ志を持った幼き主君を伴って帰ってきた。これは、罪滅ぼしの機会が巡ってきたと言えよう・・・」
ルータスは重い腰を上げ、自分の小姓を呼びつけた。
「兜と鎧を用意しろっ!戦の支度だっ!!」
「でっ、では・・・!!!」
歓喜の顔をするスラギア君に、ルータスは大きく頷いた。
「あっ、ありがとうございますっ!!!」
頭を下げるスラギア君を背に、ルータスとハーリアは退室しようとした。
「・・・・・・ちっ、父上!!」
暗く沈んだ顔をしながら行こうとするルータスを、僕は慌てて引き留めた。
「ミーノでの暮らし・・・!!そんなに悪く、なかったですよ!?確かに送り出されて数日で初陣で命の危機こそありましたが、それに見合うものは手に入りましたっ!!友達とか、夢を叶えるために必要な立場とか・・・。今の僕・・・結構楽しくやってますっ!!」
「・・・・・・そうか」
若干憑き物が落ちたような笑顔を見せ、ルータスは部屋を後にした。
ハーリアも、安心したような微笑みで一瞥し、僕とスラギア君だけが残された。
「リオルよ・・・」
「父上、ちょっとは気が楽になったかな?」
不安げな僕の肩に、スラギア君がそっと手を置いた。
「この騒動が片付いたら、土産話を聞かせてやればよい。それこそ欠伸が出る程長く・・・な?」
「・・・・・・うん!」
励ますスラギア君に、僕は笑顔で返事した。




