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2章ー21:起死回生、一世一代の作戦

 スラギア君・・・。


 さっきのは、演技だったんだ。


 僕のこと、売ろうとなんか、しなかったんだ・・・。


「ううっ・・・えぇん・・・」


 胸からすごく熱い物がこみ上げて、僕は下を向いてむせび泣いた。


「リオル・・・!!」


 スラギア君が抱きしめ、僕たちは男どうしの熱い抱擁を交わす。


 ああ・・・最高のシチュだ・・・!!!


「感慨に耽るのは一旦預けようっ!!とかく今は、この状況を打破するための起死回生の手を考えねばならんっ!!!」


 パッと向き直したスラギア君は、何だかめっちゃ慌てていた。


「どっ、どうしたの急に・・・」


「ガブナチャ達が離れてわしを尾けておる!怪しまれぬよう離したが五分が限界じゃ!!」


 ごっ、五分!!?


 つまり五分でカワミが一発逆転できる作戦を考えなきゃならないってワケか!?


 今ここでっ!!!


「あの時のように、わたくし達だけでトーウミト領の大将首を獲りましょうっ!!」


 最初に手を挙げたのはレムアだった。


 確かに身体の小さい僕たちなら、シノナとの戦いの時のように奇襲を仕掛ければ・・・!!


「無理じゃっ!!」


「え?」


「どうしてですスラギア様!?」


「敵の陣地の島は護りが固すぎるし、そもトーウミトの領主・バナデウスは全長が40mをゆうに超える、超大型の水竜リバイアサンじゃ!わしらのようなわっぱが太刀打ちできる相手ではないっ!!」


 全長40m!!?


 シロナガスクジラよりデケェ!!!


 そんなんがこの世界にいるのかよ・・・。


「ならばいっそ、わしの意を伝え、軍を再編し改めて突撃しては・・・!!」


「スラギア様の先程の振る舞いが芝居と分かればリオル様を追い出そうとする派閥の勢いが増してしまいます。最悪謀反に、繋がりかねないかと・・・」


 スラギア君の提示した案を、今度はレムアが却下した。


 確かにスラギア君が手のひらを返して僕とレムアを受け入れるとなればガブナチャを始めとする魚類型の水竜リバイアサンに火に油を注ぐことになるし、やぶれかぶれになってゲレドみたいにカワミを裏切るかもしれない・・・。


 くっそ・・・!


 どれもいいように行くとは限らない・・・。


 もっと何か、いい作戦は・・・。


「リオル様は何かありますでしょうか!?」


「え、僕?」


「そうじゃ!リオルはその年で敵将を討ち取り、人質から旗本にまで上り詰めた!!何か妙案があるのじゃろう!?」


「えっ、ええっ・・・!!?」


 食い気味に聞いてくる二人に、僕はすごく困惑した。


 でも・・・期待してくれてるんだ。


 考えなきゃ・・・考えろっ!!


 なんかあるはずだ!!


 なにか・・・なにか・・・!!!


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「・・・・・・桶狭間」


「おけ?えっ?」


「何じゃそれは!?」


「あっ、いや。何でもない」


 一個思い出した。


 サンブロドの領土は、日本の昔の地名に似通ったものばかりであるということを。


 オリワ=尾張おわり、ミーノ=美濃みのとか・・・。


 となると地理的に考えて・・・。


 カワミ=三河みかわ、トーウミト=遠江とおとうみと考えるのが妥当。


 そこで僕の頭をよぎったのは・・・『桶狭間の戦い』だ。


 織田信長が、数で圧倒的に勝る遠江の領主・今川義元いまがわよしもとの軍勢を、桶狭間で奇襲して勝利を収めた、日本史をかじってる程度ならすぐに思い出す有名な戦だ。


 それを思い出したことがきっかけとなって、僕の脳内であれよあれよとアイディアが溢れてきた。


「・・・・・・援軍で奇襲を仕掛けましょう」


「なっ、何じゃと!!?」


「“援軍”って、どこから・・・?」


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


「ミーノと、オリワから」


 間を開けて言った僕に、レムアとスラギア君は口を開けて驚いた。


「ミーノとオリワが加勢に出れば、三国の同盟は決定的な物になって、トーウミトとシノナは相当パニク・・・驚くはず」


「同盟を阻止するはずが却って裏目に出てしまった・・・ということじゃな?」


 スラギア君の質問に、僕は頷いた。


「確かにこれなら敵を相当混乱することができるぞっ!ただ・・・二つ、懸念があるな」


「オリワの説得と戦場いくさば・・・」


 ミーノは最初からカワミと同盟を結ぶ前提の方向だから援軍を出してくれるだろう。


 だけど今回の話を、おそらくほぼ聞かされてないオリワも同じようにしてくれるとは限らない。


 跡取りの身で言うのはなんだが、ウチはまだまだ弱小領土だ。


 そう易々と貴重な人材を出してくれるとは思わない・・・。


 もう一つが、戦う場所だ。


 地竜ドレイクのオリワ軍と、陸戦型の飛竜ワイバーンを多く抱えるミーノ軍は、海の上じゃ戦えない。


 トーウミト軍を、陸地まで誘い込まないと・・・。


「・・・・・・わしが行こう」


「え!?」


「同盟を交わす領主どうしが交渉の席に着けばオリワの主・・・リオルの父君も首を縦に振る目も見えてこよう」


「でっ、ですがスラギア様!!あなた様がここを離れたら、カワミ軍はどうなるのです!?そもそもここを離れてオリワに行けるのですか!?」


「案ずるなレムア。任せよ」


「えっ、ちょっ!?あっ、うわわわわわわわわわわわ!!?」


 スラギア君は器用に首を後ろにやって尻尾を噛むと、『ぶちぶちぶち!!!』と引き千切った。


 そしてボートの端を取って、痛みを堪えながら何やら書き始めた。


「なっ、何してるの・・・?」


「はぁ・・・!!はぁ・・・!!くっ・・・!!友を売るのに呵責を感じたわしが、お主を心中したという旨をここに書いておる!!ミーノとではなく、シノナと同盟を結ぶことも、加えてなっ!!この尾はその・・・印じゃ!」


 自慢げに答えるけど大丈夫なんか!?


 自分で自分の尾っぽ噛み千切ったんやぞ!!?


「安心せい!!また生えてくる!」


 あっ、トカゲやウーパールーパーと同じになってんのね。


「って、いやいや!!殿様が死んだと聞かされて、誰がスラギア君が不在のカワミを預けんのさ!?」


「母上がおるっ!!」


「クルラさん!?いや絶対無理やんっ!!息子死んでんだよ!?」


「大丈夫じゃ!!」


 スラギア君が、遺書の木片と尻尾をくくり付けたものを『どん!』と叩きつけて見せてきた。


「ここ。ここを見よ」


 スラギア君が指で差したところに、何やら記号が彫られていた。


 ◎で、外側の丸に小さな三つの三角がある変わった記号だ。


「『隠し文字』じゃ。母上に叩き込まれた。これは『敵軍を三つの軍勢で包囲する』という意味がある。尻尾を添えたのにも意味がある」


 意味・・・あっ、ああっ!!


 そういうことかっ!!


 また生えてくる尻尾を添えることで、生きて戻ってくることを指してるんだっ!!


 まるで“小豆袋の中のビー玉”みたい・・・。


「きっと母上ならば、わしが戻るまで時間を稼いでくれるはずじゃ。巻牙城巣まききばじょうすを明け渡す儀を執り行うという名目で、トーウミト軍とシノナ軍を海峡端の干潟に招き入れてのぅ!!」


 そこまでそう都合よく行くかどうか、まだはっきりと言えない。


 だけど息子にここまでの隠密スキルを叩き込むクルラさんなら、あるいは・・・。


 とにかく、これで準備は整った。


 後は・・・時間だ。


 潮の満ち引き、帰るまでの時間、オリワでの交渉、クルラさんの引き延ばし工作、援軍の出陣から到着までを考えると・・・。


「猶予は丸二日・・・明後日の昼まで・・・!!」


 僕の口にした時間に、スラギア君は大きく頷いた。


「スラギア君っ!一番近い陸地まで行ってレムアを降ろして!!レムア!殿とスディアの方様の説得、絶対に!!」


「お任せを。噛んで引っ張ってでも連れてきますっ」


 真っ直ぐな目で答えるレムアに、僕は自然と微笑んだ。


「よしっ!そんじゃあ・・・作戦開始っ!!」


 スラギア君は自分の尻尾がくくり付けた偽造遺書を海に投げ入れると、一番近い陸地までボートを引っ張った。


 よってここに、カワミを救う一世一代の作戦が開始されたのだった。

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