2章ー19:厄介者を生贄に
『激ヤバ水竜ウェイクボード』での逃走劇から数時間後の、その日の夕方。
カワミ軍の陣地では、巻牙城巣から駆け付けたクルラさんも入れての緊急会議が開かれていた。
議題は・・・『リオル《僕》をどうするか?』
長年いざこざが続いていたカワミ領とトーウミト領に、本来ならば外野であるシノナ領が介入してきた。
カワミとミーノが結ぼうとしている同盟の計画を潰すために・・・。
サンブロド中部で最も影響力の高いシノナの後ろ盾を得たトーウミトが本腰を上げて攻めてきたら、もう小競り合い程度じゃ済まなくなる。
一気にカタを着けようとするはずだ・・・。
トーウミトとの決戦を避け、かつカワミの存続が約束されるためにしなければならないことは一つ。
僕の身柄を、向こうに差し出すこと・・・。
そうすれば、トーウミトとの全面戦争を回避できるだけじゃなく、より強大な力を持ったシノナと同盟を結ぶことも夢じゃない。
ショック状態から立ち直った僕が参加してから数時間が経過したが、話し合いは平行線のままで白熱の一途をたどっていた。
「この者らが来訪せねばシノナが出しゃばることなどなかったのだ!早いところ差し出し、此度の戦は手打ちにすべきじゃ!」
「それでは時間を先延ばしにするだけではないかっ!リオル殿が来ようが来まいが、いずれはシノナと事を構えることは目に見えておった!!」
「ロアードル殿の言う通りじゃ!彼奴等が鳴りを潜めておる今こそ!起死回生の一手を考えるのが先決じゃろう!?」
「泳ぎが上手い貴様らはいいよのぅ!!危うくなれば逃げれるからなぁ!!」
「何じゃとおどれぇ~!!?」
ロアードルが中心の『は虫類型』とガブナチャ中心の『魚類型』で意見が真っ二つに割れている。
このままだと、マジで殺し合いが起こるレベルだぞ?
内輪揉めをしているカワミ軍を前に、僕は申し訳なさでお腹がきりきり痛くなってくる・・・。
他人の喧嘩ほど見るに堪えないものはない。
自分がその発端となれば尚更・・・。
「こうなったら・・・!!」
ガブナチャ派の武将が立って僕のトコにやってきた。
「コイツの首を噛み千切って、シノナとトーウミトへの手土産にしてくれるわぁ・・・!!!」
大口を広げて迫ってくる武将に、同じくミーノからの使者として同席していたレムアが立ち塞がる。
「どけ小娘っ!!」
「リオル様の首を獲ろうとするならそのガマ口・・・更に裂けることになりますよ?」
「面白いっ!!やれるものならやって見せよっ!!」
「・・・・・・いいのか?」
「っ!!?」
子どもとは思えない眼力で凄むレムアに、水竜の武将は思わずたじろぐ。
正直僕も引いてる。
だってレムア・・・いつもと違ってめっちゃ怖い・・・。
いや心強くはあるし、ギャップ持ちヒロインは好きなんだけどね?
でもいざ目の前にしたら・・・。
「双方、牙を収めなさい」
「しっ、しかしクルラの方様・・・!!」
次の瞬間、クルラの背びれに電気が走って、『どん!!』っとまるで落雷のような音が陣地に響く。
「「収めなさい」と言っておる」
凄まじい気迫を見せるクルラさんに臆して、水竜の武将は席に戻った。
だけどレムアは僕の前を離れようとしなかった。
「レムアちょっと・・・」
「あの程度の気迫、スディア様で慣れております。リオル様には指一本触れさせませぬ」
さすがは武家の娘。
クールさが一切ブレてない。
しかし・・・カッコイイ女の子に守られる今のシチュ、アニメとかなら「てぇてぇ!!」ってなるんだけど、リアルにその立場になるとすんごく情けなる・・・。
好きな子には頼るより、頼られる方になりたい・・・。
「このままでは埒が明きません。やはり殿にご意見を委ねるべきです」
クルラさんの一言で、全員がスラギア君に注目した。
「わしは・・・わしは・・・」
突然に意見を求められ、スラギア君はすごく困惑した。
そこにクルラさんが一言・・・。
「己の心に身を任せなさい、スラギア」
「・・・・・・母上」
この時クルラさんは、迷うスラギア君に対し殿様ではなく息子として接した。
クルラさんに背中を押され、スラギア君は意を決したように立って、僕とレムアのところにやってくる。
僕はゾッとして声が出なかった。
その時のスラギア君の顔が、ものすごく冷徹だったからだ。
「ミーノ領のリオル・・・」
感情のこもってない顔と声で僕とレムアの前に立つスラギア君。
やめて・・・聞きたくない。
聞きたくない・・・!!!
「お主の身柄をトーウミトとシノナとの手打ちの品として献上する」




