7章ー51:不思議の国の龍皇子・肆
『パラレ・・・なんだ?』
『平行世界のことだよ。この世界とは別の、こう・・・なんて言うのかな?世界を一本の線として見て、それに並ぶ形でもう一本別の世界があるって考えだよ。私達が今いるこの世界が元になってて、そっから枝分かれしていって生まれるんだけど』
『だが私の世界と希未の世界には、一切の分岐がないぞ?』
『もしかして・・・。単にもしもの繋がりしかないのかも・・・』
『どういうことだ?』
『考え方が根本的に違ったんだよ。私達がいるこの世界が本流じゃなくて、世界の一つ一つが層みたいに重なってて、この世界も、クロバの世界も、その一つに過ぎないってこと。『もしもドラゴンがいる世界があったら』、『もしもドラゴンが日本を治めていたら』・・・。ってな具合で』
『なるほど・・・。つまり私の世界は、希未たちの世界の一つ上の層にあるから、帰ることも存外難しくない・・・ということか?』
『そうそう。あと、これはついさっき思いついたことなんだけど・・・繋がり自体は、ないことはないのかもしれない』
『え?』
『クロバが話してくれたサンブロドの現状ね・・・。あれ・・・日本も同じ歴史を辿ってるの』
『同じ歴史を!?』
その証拠として、希未はスマホで千年以上前の日本の歴史を見せてくれた。
かつて日本は朝廷・・・サンブロドの龍廷に当たる組織が支配していたが、『侍』という、武竜と同じ体制と伝統を持つ存在が、彼らに代わって徐々に力を付け始めた。
朕が驚いたのは、武士という言葉だった。
侍も、武竜も・・・二つの世界で同じ呼び名を持っていた。
『細かいトコは違うけど、ほとんど一緒でしょ?まさか異世界がパラレルワールドだったなんて・・・。これは大きな発見だよっ!!』
『それでどちらが!?』
『どっちって?』
『どちらが日本の覇権を握ることになったのだ!?』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『侍だよ。『幕府』っていう組織を作って、およそ200年日本を支配した。まぁでも、それまでに『戦国時代』っていう、武士どうしで争う時代があったんだけどさ』
希未は言いにくそうにしたが、ありのままにあった歴史を、朕に言った。
侍が日本を治めた。
それは、“亜竜族が源龍族に勝った”と言われたのも同じだった。
『クロバ達が負けたって捉えられる歴史を言うのはさすがに・・・。でも源龍族が勝つ可能性だってまだまだ・・・!!』
『いや、いいんだ希未。逆に安心しているのだ』
『安心?』
『・・・・・・今のサンブロドは、この世の地獄だ。天災を起こせる源龍族が、生を、尊厳を、自由を得ようと戦う亜竜族を、雑草の如く踏み、小石の如く蹴散らしている。天は荒れ、地は崩れた。私は皇子として、次期龍皇として、国に平和をもたらすにはどうすればいいかと、幼くて物を知らぬ頭で必死に考えた。考えて、考えて・・・。武士が・・・武竜が、戦いに勝利する歴史を辿れると知れたなら安心だ。彼らは、自由を、手にすることができるのだな』
『クロバ?』
朕は改めて、庭から見渡せる、夕陽が反射する日本の街に目をやった。
『この国はいい。天地は穏やかで、命は健やかで、何より民が平穏に暮らしている。戦なぞ無く、どこまでも太平で、欠伸が出てしまうほどだ。私の求めていた平和とは、これのことだったのだな。このまま帰れなく、この地に骨を埋めるのも、悪くないやもしれんな』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『やっぱりクロバはサンブロドに帰るべきだよ』
『・・・・・・なに?』
『当たり前の日々が当たり前に過ぎていくことって、昔の多くの人達が、血と汗を流して、必死に必死に作ってきた、大切な、大切な宝物なんだよ。『同じ毎日の繰り返しなんて退屈だ』ってたくさんの人が言う。だけど、私は思う。退屈こそが平和なんだって。毎日ご飯を食べて、毎日仕事や学校に行って、たまの休みに旅行したり、イベントに行ったり、買い物したり・・・。そういう、当たり前が当たり前として与えられる時代を、私達は、大事にしていかないって思うんだ』
長い思いを口にして、希未は凛とした眼差しで朕を見た。
『クロバは皇子様で、平和な日本っていうのを、その目で見てきた。だからこそ、この世界と同じ平和を、サンブロドに持って帰らなくちゃいけないんだよ。クロバが繋ぐんだよ。この世界の平和を、自分の世界に』
・・・・・・希未は心根は優しかったが、決して妥協などしなかった。
芯が強く、利発的で、誰よりも平和を尊んでいた。
安易な道を行こうとした朕を、希未が引き戻してくれた。
『・・・・・・ありがとう、希未。私・・・この国の平和を、サンブロドに持って帰る!!戦禍に苦しむ私の国を、退屈な、太平の世にしていきたい!!!』
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『そうこなくっちゃ!』
希未は嬉しそうな顔で、朕の頬を指で持ってこすった。
『とりあえず!夕ご飯にしよっ。クロバの好きなシャウエッセン、買ってきたよん♪』
『本当か!?』
希未のおかげで大きな決意を持てたこの日の夕餉は、いつもより美味かったと覚えている。




