7章ー46:龍皇ファブ・クロバ
心の試練の場の竹林を北に進むこと、およそ二時間。
薄暗かった風景に明かりが差し、なんだかいい匂いもしてきた。
花でも咲いてんのかな?
「水の音が聞こえる・・・。川でも流れているのか?」
「泳いでいくか?龍京の水はとても清らかだぞ」
ネブラを担ぎながら歩くティラエの冗談に、スラギア君はとんでもないと言わんばかりに首を振った。
千年間も部外者を入れなかった禁足地の川なんか畏れ多くて泳げんわな・・・。
やがて竹林の終わりが見えてきて、その隙間から向こう側が見えないまでの眩い光が差してくる。
「着いたぞ。お先に」
ティラエに先を譲られ、僕たちは竹林から出た。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「ああ・・・」
僕たちの前に広がっていたのは、幾つかの透明な水が流れる清流、赤・青・黄・緑・紫などの、様々な花を付けた樹々、真夏とは思えないほどの涼やかな風が吹く盆地だった。
これぞまさに・・・御伽噺に出てくる桃源郷。
神様の住む楽園としか、言い様がない。
「五龍門の試練を乗り越えし勇敢なる九頭の亜竜族たちよ。龍京へようこそ」
ここが・・・龍京。
僕たちの・・・ゴール・・・。
できたんだ。
上洛・・・。
花々が咲く樹々を通り、柔らかい土を踏みしめる度に、目標を達成できた喜びを噛み締める。
「すごく涼しいなぁ~・・・。ここホントに夏?」
カダチの言う通りだ。
怖いくらいに気温と植生が一定に保たれてる。
「龍皇様の闇属性のお力で、この地は常に春と同じ気候になっている」
マジか・・・!!
季節を春に固定できるなんて・・・。
神様以外の何者でもないじゃん龍皇様!!
そんな人にこれから会いに行くのかよぉ~・・・。
緊張して・・・吐きそ・・・。
「大丈夫ですよリオル様。リオル様のご意思をしっかり伝えれば、龍皇陛下も必ずご理解して下さります」
ニッコリと微笑みながら励ますレムアに、僕の中の緊張はちょっとほぐれた。
「あれが龍皇様のお住まい、『皇域』だ」
盆地の中心に最も高くそびえ立つ岩山があり、全体的に、京都御所に似た造形に彫られている。
見るからに、帝の屋敷って感じやな。
一番下の門から中に入り、階段を上がって真ん中辺りにやってきた。
内部には幾つかの部屋があり、壁には窓や支柱があって外が見渡せる。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「どうしたリオル?置いてくぞ」
「えっ?ああ、すいません!」
「どうしたのだ?呆けた顔で外を見て。眺めに見惚れたか?」
「別にそんなんじゃ・・・。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・・・・懐かしい感じがして」
「なんだそれは!ここに来たのは初めてだろうに!」
ティラエに笑われた。
僕だってざっくりとしか言えないんだからしょうがないのに!
だけど・・・なんか・・・懐かしいだよなぁ・・・。
「ここが謁見の間だ。いいか?くれぐれも、粗相のないように」
ティラエに強く念を押され、僕たちは龍皇に会う部屋へと入った。
「あ・・・」
“火龍公ニイズ・ティルオ”
“水龍公リンド・ダイン”
“氷龍姫ヨルム・ニヴァーリ”
“雷龍公シュルガ・トニト”
ここまでの試練の試験官が一同に揃っていた。
ティラエとネブラも入れると、龍廷貴族がこの謁見の間に勢揃いしたことになる。
「おいおい!!ひっでぇ~ザマじゃねぇか!!ネブラ!」
「鴉竜で報せは受けていたが・・・!!派手にやられたな!!」
「死ななくて良かった」
「ああ・・・!!なんて痛々しいお姿なのでしょう!!」
他の貴族から口々に心配されるネブラに僕の胸がギュ~ってなる・・・。
マジでごめんなさい!!!
「俺のことはいいから。それより陛下は?まだ来てないの?」
部屋の前には御簾が掛かった舞台があり、どうやらあそこに龍皇様がお目見えされるようだ。
「ああ。まだ来てねぇ。で!?獅子女!!本当にコイツ等ぁ~全部の試練に成功したってことでいいのかよ!?」
「裁定者であるまろが決めた。この者達は、龍皇陛下に謁見する権利がある」
「俺ぁ~どうにも、まだ納得がいかねぇぜ!!こんな礼儀知らずな奴らが陛下に会うなんてよぉ!!」
「諦めの悪い殿方は嫌われましてよ!!そんなではいつまで経っても嫁の貰い手がないですわよ!!」
「なんだとニヴァーリ!!テメェこそちまちま恋愛小説書いてっと男寄ってこないぜ!?」
「なんですって!?」
「ああ!?やるかぁ!!!」
おいおい喧嘩始まりそうじゃないの!?
止めなくていいのかティラエ!?
「元気が有り余ってるな、其方ら」
「っ!!!」
御簾の向こう側から声がした途端、ニヴァーリとトニトは喧嘩を止め、貴族全員が跪いた。
「他愛ないことで喧嘩ができる・・・。実に平和なことだ。朕は喜ばしいぞ」
低くてとても落ち着いた声音。
だけどすごく威厳を感じる。
「時に・・・今宵は見慣れぬ客人が来ているみたいだな」
御簾の向こうの存在が僕たちに気付いた瞬間、神々しく、圧倒的な気迫を感じ、僕たちも跪いた。
「もっとも、そこの赤い地竜のことは、すでに存じているが。慧正寺での奮迅ぶり、見事だった」
僕のことを知ってる?
それに慧正寺の焼き討ちのことも・・・。
「朕は其方を、ずっと待っておったぞ」
御簾がめくられ、声の主が姿を現した。
紫紺の身体に縁がギザギザになった鱗、シャラシャラとした黒い結晶が垂れ下がったH字型の角・・・。
昔の天皇の冠の『冕冠』って言うのかな?
僕はその神々しい姿を見た瞬間、独りでに立ち上がった。
「リオル様!?」
「リオル!?御前だぞ!?何を考えて・・・」
「いいのだティラエ」
「しっ、しかし・・・!!」
「この者は、来るべくしてここに来たのだから」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「やはり・・・あなただったのですね。僕が初めて闇属性を使える時に、夢に出てきたのは・・・」
「東の小国、闇属性の使い手、右腕の刃・・・。縁とは、何とも奇妙な物だ」
感慨深い表情を浮かべ、目の前の源龍族は翼を大きく広げた。
「朕こそが、龍皇ファブ・クロバである。歓迎するぞ、リオル。オリワから来れし、我が末裔よ」




