7章ー41:暴君闇鳴
「リオル様っ!!!」
雷の試練の霊峰で待機している一行の中で、レムアが突然立ち上がった。
「なっ、何じゃレムア!?びっくりするではないか!!」
「もっ、申し訳ございませんティアス様・・・。ただ、その・・・」
胸に手を当て、レムアはとても不安そうな顔を浮かべる。
「リオル様から・・・何やら怒りと、不信に満ちた情念が、流れ込んできて・・・。それが、何と申しましょうか・・・。心を締め付け、潰してしまいそうな程に、熱く・・・」
目を閉じ、眉間にシワを寄せ、苦しそうな表情へと変わるレムアを見て、皆の心は揺らぐ。
リオルとパスが繋がってから、彼女がこんな表情を浮かべたのは初めてだったから。
「心の試練で、何か不吉なことが起こったのでは・・・!!」
「滅多なことを口にするでないアンドラ。リオルはこれまで四つの試練を踏破してきたのだぞ。奴に限ってそんなこと・・・」
かくいうスラギアも、レムア程ではないが、不穏な気配を感じ取っていた。
「百聞は一見に如かず・・・っていうでしょ?心配なら見に行けばいいだけじゃん」
「しっ、しかしカダチ。殿はたったお一人で尋常に試練に望まれている。潔く見送った我らが足を運ぶのは如何なものか。ここは成功を信じ、座して待つ方が・・・」
「アンドラ。レムアが今までこんな苦しそうな顔したことある?心の試練が行われておる場所で、何かあったのは確かだよ。不確かな期待より正確な情報を得るのが忍竜達の本懐・・・。そうだろミツタネ?」
「・・・・・・カダチの言う通りだ。殿。ここは遠目からでも、状況を見てくるのが得策と愚考致します」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「分かった。とにかく皆で、心の試練の場に向かおう。何もなければ、もっと近くで、リオルの帰りを待てばいいだけの話じゃ」
代理リーダーのスラギアの決断の下、一行は心の試練が行われている北を目指した。
◇◇◇
「ネブラの霧が晴れたと思ったら、闇属性の巨大な渦が・・・。何が起こった?」
上空から様子を窺っていたティラエも、心の試練の場での異変を目の前で見た。
「・・・・・・飛び込むしかないか」
五龍門の試練の裁定者として、試練の進行に関わる事態は見逃せず、ティラエは竹林全体を囲う膨大な闇属性の渦の中に飛び込んだ。
「ネブラとリオルの気配が近い・・・。奴ら一体何を・・・」
二人の気配を感じ取ったティラエは、竹を数本押しつぶし地上に降り立った。
「なっ、なんだ・・・?」
ティラエが目の当たりにしたのは、傷だらけのネブラを一方的に蹂躙しているリオルの姿だった。
「その程度か!?源龍族!!」
地上を俊敏な動きで走り回りながら、試練で使うのと同じ霧の毒を吐き散らすが、リオルの“平闇”で周囲に展開された膨大な闇属性によって、すぐに掻き消える。
「“ヒノモト流竜術・剛手打ち【闇籠め】・十連”!!」
一秒にも満たない間隔でリオルは、ネブラに闇属性を込めた打撃をぶつけ続ける。
その様は、猫がヤモリを好奇心から嬲っているようにも見えた。
「がはぁ・・・!!!ふぐっ!?」
10撃目を与えたところで、リオルはネブラの頭を地面にぐりぐりとねじ込む。
「凝りぬ奴だのぅ。頭を地に付けるのはこれで何度目じゃ?軍門に下るか?下らんのか?」
身動きが取れない状態で、ネブラはリオルに向かって、先に花弁状の顎が付いた長い舌を突いて脱出した。
「いい加減にしろ。俺はお前に従うつもりないから」
ネブラは身体を透明化させ、死角から舌による刺突を浴びせる。
硬化したネブラの舌により、リオルの身体のあちこちに穴が開く。
「そうか?よいよい。その方が・・・」
ネブラの舌がリオルに迫ったその時、リオルは百竜丸で舌を斬った。
切り落とされた舌の断面が弾け飛び、ネブラの姿が露わになった瞬間、リオルが一気に間合いを詰めてきた。
「わしも嬲り甲斐がある!」
リオルは至近距離でネブラにツバメバチではない、純然たる闇属性の光の塊による弾幕を浴びせた。
「ぐはぁ・・・!!!」
全身に深手を負ったネブラは、リオルの闇属性のせいで阻害された治癒能力を強引に行使し、同時に自分の中の闇属性を最大解放する。
「“龍宝・|苦界隠し”!」
生命の危機を感じ取ったネブラは、五龍門の試練では禁じ手とされる源龍族の必殺技、“龍宝”の使用に踏み切った。
上体を上げ、口からまき散らす心を砕く霧の毒は、リオルの張った闇属性の渦すらも塗り潰す勢いで広がる。
「これが貴様の本気か。不快極まれり」
“平闇”で展開された闇属性の渦がリオルの元へと集束し、リオル自身、漆黒の光に包まれていく。
「“真ヒノモト流竜術・承ノ域・烈闇の柱”!!」
咆哮とともにリオルから闇属性の光の柱が生じ、広がりながらネブラの霧を無に帰していく。
「くっ・・・!!まっ、まだまだ・・・!!」
「大技の綱引きになると思ったか?」
「っ!!!」
闇の光の柱の向こうから、百竜丸を構えたリオルが向かってくる。
「もう飽きた。消えろ」
百竜丸の切っ先がネブラの首にかかろうとした、その時・・・。
「む?」
ネブラの姿はなく、リオルの一太刀は空ぶった。
「もうこれ以上は我慢できん!」
リオルが横を向くと、ネブラを背負ったティラエがいた。
「ほう?貴様もわしに楯突く気か?ティラエ」
「何があったか知らんが、随分と様変わりしてしまったな。リオル」
ボロボロのネブラをそっと寝かし、ティラエはリオルに牙を剥く。
「神聖な五龍門の試練を荒らしたその裁き・・・大人しく受けてもらうぞ」




