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7章ー38:過去に溺れる・前編

 あの頃の僕は、仕事に全く熱がなかった。


 新卒1年目、大学の卒業研究と並行してやった就職活動。


 エントリーシートと一次面接で落ちてばっかで、嫌になって、泣いちゃう日もあった中で勝ち取った内定先。


 大手のゼネコン会社のグループ企業、夢の社会人生活が始まると思ってた。


 だけどフタを開けてみれば、簡単な書類仕事、屋外トイレの清掃などの現場の雑用、自分より2、3倍は年食ってる作業員に指示出して、ウンザリされる毎日・・・。


 おまけに休みは取れず残業はしょっちゅう。


 上司のやり残した仕事を手伝って0時回ったこともあった。


 はっきり言って、キラキラした社会人生活とは程遠かった。


 入社後半年、一緒に入った同期二人が辞めてったのも、やる気の低下を僅かながら後押しした。


「あっ、あのぉ・・・すいません!」


 場面が変わり、立たされた僕が上司の小倉さんに震え声で話しかけている。


「なんや?」


「さっ、さっきの対応・・・ちょっとやり過ぎじゃ、ありませんか!?」


 工事の現場において重要な安全会議で居眠りこいて、厳しい対応をされるのは、今となっては当たり前に思う。


 だけど、やり場のない鬱憤を溜めてたあの頃は、我慢できなかった。


「やり過ぎって思うんならなんで寝んねん?」


「いや・・・その・・・」


「お前が寝てたのがアカンのちゃんうんかい?そうやろがい!?」


「でっ、でも・・・!!やっぱり会議中に立たせるのは、やり過ぎだと思いますっ!!」


 それからもしばらくは押し問答は続き、小倉さんの方から「確かにさっきのはやり過ぎやったと思う」って、ある程度の理解は示してくれた。


 だけど・・・。


「やけど折田、会議中に寝るなんて有り得んことやからな。次から二度とすんちゃうぞ」


 その言葉を聞いて思った。


 “ああ。結局僕の言い分は通らへんのやな・・・”って。


 仕事が終わってすぐに、僕は部長に「辞めたいです」って電話した。


 そっから正月の帰省終わりに大阪の支社に呼び出されて、部長、支社長、面接でお世話になった役員(大学のゼミの知り合い)と面談することになった。


「もうちょっと頑張ってみたら?」


「えっ・・・?あっ、いやでも・・・僕・・・」


「まだ一年しか経ってないんやしさ、折田がこの先一個の現場任されるかもしれんやん。入って一年で辞めるなんて勿体ないって!それに決まってんの?次」


「いっ、いいえ・・・」


「今後の生活もあるしさ、残った方がええと思うな」


「そうだって折田君!君はあのゼミの卒業生なんやから頑張れるって!先生も評価してくれてたよ?」


「ここが頑張りどころやから。な?あと2、3年もしたらめっちゃ成長してるって!!」


 引き留められ、僕は絶望した。


 “自分で辞めることすらできないのか?”って。


 そして僕は、退職代行業者に頼んで、翌年の春に辞めた。


 家族にバレるのが嫌だから、「大阪の方に移動になった」とウソついて、仕事着に着替えて実家を出て、ネカフェで時間を潰した。


 だけどそんな日が続くワケもなく、二週間後にスマホのGPSアプリで親に仕事に行ってないのがバレて、勝手に会社を辞めたことを白状した。


流一(るいち)・・・あんたって子は・・・」


 母親は泣いた。


「早よ次見つけへんかったら荷物持って出てってもらうで」


 父親は冷静にブチ切れた。


 身一つで追い出されるのが怖かったから、僕は一ヵ月後、大阪の測量会社に再就職した。


 前職で図面書くこともあったから、上手くやっていけると思ってたっけ・・・。


「折田君!そこ鉄板だから三脚の近く絶対踏まんといてな!水平おかしくなるから!」


「はっ、はい!!」


 また場面が変わった。


 この小太りのヒゲ面は・・・西野さん。


 二社目で僕とよくペアになった人だ。


 この現場は・・・梅田の再開発で建設途中だったビルだ。


「あっ・・・!!」


「殺すぞお前っ!!!踏むな言うたやろっ!!!」


 僕はこの人が・・・心の底から嫌だった。


 初めの内は優しくしてくれたけど、僕がどん臭いと分かった途端にパワハラの毎日。


 手こそは出なかったものの、暴言が多かった。


「墨出しのポイントずれてんやんけ!」


「なぁ早く機械出してくれへん?」


「すごいなお前wwwこんだけ言っても出来へんってwww」


 もう嫌だ!!


 これ以上は見たくない!!


 何なんだよ!!


 僕だって頑張ってんのに、なんでこんな言われなアカンねん!!


「先輩ばっかに運転さすなよ」


 あっ・・・。


 この眼鏡をかけた痩せ型の人は串山さん。


 西野さんと結構仲が良くて、僕が二番目に苦手だった人だ。


「すっ、すいません・・・」


「折田君免許持ってんのやろ?なのにいっつも俺ばっか運転してるやん。何回も言ったよな?運転代われよって」


 僕はペーパードライバーで、社用車を運転するのが怖かった。


 絶対事故るって、思ってたから・・・。


「明日現場一緒やったら絶対運転してもらうからな。もう我慢できへんで」


 えっ!?


 いっ、嫌だ!!


 僕なんかが運転したら事故るに決まってる!!


 時間取れなくてロクに練習もしてこなかったやからっ!!


 串山さんのこの態度・・・もうのらりくらりすることはできへん・・・。


 どうしよう・・・どうしよう・・・。


 お願いだから明日同じ現場にならないで!!


 心の底からそう願ってた時、社員のグループLINEで次の日のスケジュールが出てきた。


『2/8。○○病院。串山・折田』


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 もう・・・嫌だ。


 早く楽になりたい。


 どうすれば、いいんだ・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 そっか。


 死ねばいいんだ。


 今死んだら、この苦しい毎日から逃げ出せる。


 次に映ったのは、自室のクローゼットからネクタイを出して、それを取っ手に結ぶ僕。


 輪っかにして、恐怖で荒く呼吸し、首にかけ、体重を乗せて身を任せる・・・。


 ・・・・・・・。


 ・・・・・・・。


 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!


 やめろやめろやめろぉ!!!


 これ以上・・・僕の過去を・・・見せるなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

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