7章ー37:黒霧の中へ
「はぁ~・・・!!ああ~・・・!!もぅ~・・・!!」
山々が連なる霊峰の出口で、僕は震える両足をパンパン叩いて、深いため息をして丸くなる。
「かかっ!すごい緊張っぷりじゃな。背中でもさすろうか?」
「ええっ?いやいいですよティアス様・・・」
「そうじゃったそうじゃった!妾としたことが余計なお世話を。それは女房の役目だしな♪」
ティアスはニヤニヤして横にいるレムアにジト目を送る。
「へ?じゃっ、じゃあ・・・///」
レムアは丸まってる僕の背中を、そっと撫でた。
「ごめんなぁ~・・・」
最後の“心の試練”に挑みに行く僕をみんなが総出で見送りにきてくれた。
みんなの厚意、すごい身に沁みて嬉しい!!
すごい嬉しいんだけど・・・!!
プレッシャーが一気にこみ上げてきたっ・・・!!
ここまでみんなの期待を寄せられて、「はい!失敗しましたっ!!」なんてことになったら・・・。
考えただけで怖い!!
怖いですよぉ~!!
「ねぇ~これいつまでやるの~?早く行けばぁ~?」
カダチ急かさないでぇ~・・・。
ってか殿様が最後のチャレンジにたった一人で挑もうとしてんのに「いつまでやるの~?」は失礼すぎるでしょ!?
とんでもない決心が必要なんだよっ!!
「お気持ちは重々承知しまする。あの子には、後で私から言っておきます」
僕の心を読んだレムアが肩をさすってフォローを入れてくれた。
「ありがと・・・。でもあんまキツイことは言わないでね?」
「心得ておりまする。余計にむくれますからね」
「うん・・・」って噛みしめて頷き、僕は「よぅし!!」って覚悟決めて立ち上がった。
「決心ついたようだな?」
「はい。すいませんティラエ様。直前でもたついて・・・」
「堪忍してやってくれティラエ殿。この男は、ここぞという局面で中々踏ん切りがつかんのだ」
「バカ!スラギア君!恥ずかしいこと言うなやっ!」
「でもな・・・緊張に緊張を重ねて踏み込めば、必ず成し遂げる男じゃ」
スラギア君・・・。
「リオル。長い付き合いじゃ。今更「自信を持て」とは言うまい。お前はそういう奴じゃ。ならば、緒を締め、驕ることなく進め。さすればお前は、必ず事を遂げられる」
スラギア君・・・。
「そうです殿!あなた様が勇み足を踏まず、怯えながらもご決断をしてくれたお陰で、我らオリワ家中は幾度も苦難を乗り越えられたのです!」
アンドラ・・・。
「確かにお前は煮え切らん奴じゃが、断じて諦めはせんかったな。妾が人質に取られたあの時、お前が諦めんでくれたから、妾の命も、ミーノ領も続いている」
ティアス・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
ビビりで卑屈で豆腐メンタル。
そんな僕でも、前の世界に比べたら、みんなを助けることができてたんだな。
前の世界に比べたら、かなりマシだな・・・。
「みんな・・・。本当・・・ありがと・・・」
泣きそうになりながらみんなに頭を下げると、レムアが後ろから抱きしめてきた。
「レムア・・・」
「どうです?お気持ち、ほぐれましたでしょうか?」
「・・・・・・うん。バッチリ!」
よ~し!!
やったる・・・やったるで!!
「行ってきますっ!いい報せ持ってるくるから、気軽に待っててよ!!」
見送りにきてくれたみんなに大きく手を振って、僕はティラエと一緒に霊峰を後にした。
◇◇◇
ティラエとともに北の方へと歩いていると、森に生えている樹に竹が混じっているのに気が付いた。
そういえば・・・今までの試練のように、大きく環境が変わったようには見えない・・・ん?
「あれ?何これ?」
なんか足元に、見るからにヤバい赤黒い霧が漂ってんだけど・・・。
「ティラエ様、何ですかこの霧・・・え?」
さっきまで一緒にいたティラエがいつの間にか結構後ろの方に立っていた。
「ここから先はお前だけで行け」
「え?付いてこないんですか?」
「お前も気付いているだろう?その霧」
「これがどうかしたんです?」
「ここから先はそれが深くなる。霧の中に入れば、まろでもただでは済まない」
マジで!?
そんだけヤバい物なの!?
「時折空から様子を窺う。いいか?奥で見る物聞く物は、全てまやかしだ。それを心に留めておけよ」
そう言い残しティラエは翼を広げて飛び立った。
「おいおい・・・マジかよ・・・」
前を向くと、ティラエの言うように、赤黒い霧が濃くなってきている。
「・・・・・・ああ!もう!!」
ここで止まってても何も始まらないから、僕は先を急ぐことにした。
霧はどんどん濃くなって、生えてる竹も増えてきてる・・・。
そしてとうとう、1mすら先も見えなくなってしまって、僕は深い霧に包まれた竹林で立ち止まってしまった。
「こっから何があるってんだよ・・・」
たった一人で黒い霧の中に取り残されてるこのシチュエーション・・・。
まるでホラー映画の冒頭みたいで、めちゃくちゃ怖い・・・。
何が起こるかも全く知らないし・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「アカン耐えられへん!!いったん来た道戻ろ・・・」
『折田。お前もう立っとけ』
・・・・・・え?
聞き覚えのある声がしたと思ったら、周りの景色が一変した。
プロジェクターが映し出された会議室。
左側は空調服を着た作業員で占められて、右端の二列の席に緑色の服の施工管理会社と思しき人が9人ほど。
その最前列で、寝ぼけた顔の眼鏡の若者が、司会をしている社員に睨まれている。
あれって・・・もしかして・・・小倉さん?
頭が痛くなって、ドクンドクンと激しく脈打ち、呼吸が苦しくなる。
やがて眼鏡の男は泣きそうな顔をしながら席を立ち、そのまま会議が続行された。
あれは・・・僕だ。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
思い出した。
この光景は、新卒で入った土木施工管理会社の、現場安全会議。
冬に配属された広島の現場で、僕は会議中に居眠りしてしまい、現場代理者である上司・・・社内で怖いと評判の人に立たされた時の光景・・・。
前世の僕の・・・うつ病の始まりとなった光景だった。




