7章ー29:親友の胸中
「うっ、ウナトゥさん?どうしてここに?」
「愚痴を聞かせて」といきなり横に座ったウナトゥに僕は戸惑った。
「レムアと決めまして。「互いの夫の胸中を聞いてあげよう」って」
「レムアと?」
「ええ」
ということは、スラギア君のトコにはレムアが行ってるのか・・・。
当事者どうしじゃダメなら、せめて奥さんにってか・・・。
「考えましたね」
「不仲な夫どうしの仲を取り持つのも妻の役目。それが親友の間柄なら、尚更です」
そういえばレムアはウナトゥのことを、“武将の妻の先輩”として、出会った頃より慕ってたっけ。
二人ならこの先良きママ友になれるだろう・・・。
「うう~ん・・・。じゃあ、聞いてくれる?僕の本当の気持ち・・・」
「はい。ご遠慮なさらず」
ニコッと抱擁感があるウナトゥに促され、僕はスラギア君に対し抱えてる本音を語った。
「・・・・・・仲直りしなくちゃ、って気持ちはあるんです。上洛のために協力してもらいたいのは勿論ですけど、僕とスラギア君は、小さい頃から親友で、僕が駄目でも、天下を獲るのを託せるって思えるほど、信頼してるんです。だけどお恥ずかしながら、彼に対する苛立ちが、まだ残ってって・・・。子どもっぽいって自分でも自分が腹立たしいんですけど、どうしてもそれが抑えられず・・・」
僕の告白をウナトゥは、なんの口出しもしないで、黙って聞いてくれた。
「ごめんなさいスラギア君への愚痴じゃなくて自分に対する愚痴になっちゃいましたね」
「いいえ。別に構いせんよ。むしろホッとしました」
「ホッと?」
「自分に苛立っているのは、リオル様も同じだと分かって」
「どういうことです?」
ウナトゥは僕が氷の試練に出かけている間のスラギア君の様子を聞かせてくれた。
「主人は我が身を大切にしないリオル様に、確かに苛立っていましたが、それ以上に、リオル様のお身体について気付いてあげられず、ご無理をさせた自分に、苛立っておいででした。“もっと強く、賢くあれば、親友に無理を強いることはなかったのに”と。実際、リオル様が氷の試練に挑んでおられる間、常に気を張っていましたから。あの方、試練が行われている場所から、片時も目を離さなかったのですよ?」
そうだったんだ・・・。
・・・・・・確かになぁ。
慧正寺の焼き討ちからこれまで、僕、自分にかなり無茶をしてきた。
マハリ領への反撃だって、今回の上洛の時だって・・・。
勝手な推測だけど、焼き討ちの時に怪我で反撃に加われなかった頃から、ずっと気にしてたんだろう。
そこに火の試練で僕がアンドラとの思考の疎通を可能にして、自分の身体に更に鞭打つことをしたもんだから、抱えてたモンが決壊しちまったんだろう。
我が身を大切にできぬ者は天下を獲る器ではない。
今思えばあれは、僕に無茶させないように放った、最大級のキツイ言葉だったんだろうな・・・。
「・・・・・・ウナトゥさん」
「はい」
「僕の代わりに、改めてスラギア君に、雷の試練への協力を打診してくれませんか?ある条件つきで」
「かしこまりました。して、その条件とは?」
「それは・・・」
◇◇◇
「恐ろしいのだ。この上なく・・・」
話を聞きにきたレムアに、スラギアは「話すことはない」と突っぱねていたが、ウナトゥの提案であることの説明と、彼女自身の懸命な説得により、ようやくその固く閉じた口を開いた。
「恐ろしい・・・ですか?」
「リオルの背中の痛みと、濃くなってゆく痣・・・。奴が闇属性を使う度に強くなるその代償は、やがて奴を変えてしまいそうで・・・。鬼が出るか蛇が出るか、その行く末は分からぬ。分からぬからこそ、恐ろしい・・・。親友として、奴にはこれ以上、無理をしてほしくない。だがわしには、今の奴と肩を並べられる程の力がない。それが歯がゆくて仕方がない・・・!!ならばいっそ、奴との関係を絶ってしまおうとまで考えた」
「それであのような邪険な態度を?」
「ああ。だが・・・無理だったようだ。奴を憎む気持ちを、奴を失う恐怖がすぐに塗りつぶしてしまう・・・!!わしには奴を・・・リオルを見放すことなど、できぬ・・・」
レムアに打ち明けたスラギアは、グッと目を閉じて壁を殴り、やり場のない怒りと恐怖をぶつけた。
「・・・・・・氷の試練で、私は闇属性の力を使いました」
「っ!?」
「リオル様のご推察が正しく、私の中に、闇属性の力の芯とやらが宿っているならば・・・と思っての賭けでした。スラギア様。私も、怖かったのです。リオル様が、どこか遠くに行ってしまいそうな気がして・・・。ですが、たとえどのように変わろうと、どこに行ってしまおうとも、リオル様を置いていくことなどしない、あの方が変わってしまうのならば、私も変わろう、あの方が遠くに行ってしまうのなら、私もついていこう・・・そう覚悟しました。そうしたら、気が楽になりました。氷の試練で闇属性が使えたことは、大きな僥倖でございました。私は、リオル様と添い遂げられる。いつまでも・・・」
穏やかな笑みを湛えながらスラギアに語るレムア。
彼女を見て、スラギアはある決断をした。
「レムア。リオルに伝えてくれ。雷の試練、協力してやると」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「その代わり条件がある」
「条件、でございますか?」
「ああ。それは・・・」
◇◇◇
「レムア」
「ウナトゥ様」
それぞれの伴侶との語らいを終えたレムアとウナトゥは、帰りの道中でばったり出会った。
「どうでしたか?スラギアの様子は」
「胸中を明かしてくれて、心が晴れたように見えました」
「それは良かったです。あなたの夫も、心に溜めていた思いを遠慮なく吐き出してくれました」
「そうでしたかぁ・・・。」
感慨深い顔をするレムアを前に、ウナトゥは「フフッ・・・」と微笑んだ。
「気難しい主人を持つと、苦労しますわね。お互い」
「そう・・・ですね」
「これからも、ともに支え合っていきましょう。武家の嫁どうし」
「はい!あっ!そうだ。リオル様に急ぎ伝えなきゃいけないことが!!」
「私も主人に言いにいかなくちゃ」
「雷の試練はスラギア様が主導するって!!」
「雷の試練は主人に一任するって」
「えっ・・・」
「あら・・・」
考えの一致に関係修復の兆しが見え、二頭の武竜の妻は嬉しそうに笑い合うのだった。




