7章ー28:怒り、引っ込みつかず
いま動けるのはスラギア君しかいないと悟った僕は、レムア、ティラエと一緒に空蓮の庭に戻ってきた。
彼の協力を得るためには、仲直りするしかない。
だけど、めちゃくちゃ口喧嘩した挙句、取っ組み合いにまで発展してしまった以上、和解するのは結構ハードルが高い。
そして一番の問題が・・・。
実は僕自身・・・まだアイツに、ちょっとキレてる・・・。
「天下なんか獲れるワケがない」と言われたことが、心に針のようにチクチク刺さってる。
僕のこと心配してくれるんは嬉しいよ?
やけど、なにもあそこまで言うことないやんか・・・。
僕だって必死にやってんのに、ぁんのボケ言いたい放題言いやがって・・・。
「リオル様」
ハッとしてレムアを見ると、少しお怒りの様子。
さっきの心の中の罵声、バレちゃった・・・。
「ごめん・・・。頑張って穏便に解決するようにやるからさ・・・」
「頼みますよ、本当に。スラギア様のご機嫌を直すことに、次の試練を受けることがかかっているのですからっ」
「はい・・・」
「にしてもどうして、お前達は争っているのだ?リオルの身体に何か関係あるようだが・・・」
「いっ、いえ~別に!!ティラエ様が気にすることではございませんっ!!」
全試練の立会者を務めているティラエに、僕の体質を打ち明けるのは悪手だ。
試練を行なう貴族に手の内をバラされる危険がある・・・。
だから上洛が終わるまで、読心と背中の痛みについては黙ってることにした。
さて、不安いっぱいで来た道を戻ってると、スラギア君達が休んでいるトコに到着した。
「リオル!!」
「リオル殿っ」
「殿っ!!」
カダチ、ミツタネさん、アンドラが駆け寄ってきたけど、スラギア君はこっちを見向きもしない。
夫に気を遣って、ウナトゥも僕たちに視線を送ったものの、オロオロした表情で動こうとしなかった。
「氷の試練は!?どうでございましたか!?」
「一応・・・合格した」
「ミーノのお姫様とギガレクスは?どうして一緒じゃないのさ?」
「結構深手を負ったから休ませてる。でも大丈夫!!命に係わるほどじゃないからっ!!」
「はぁ~・・・!!良かったぁ~・・・。もう~あんた等が無事か、すんごく心配したんだからっ!!」
「ごめんごめん。ミツタネさん。意識戻ったみたいで何よりです」
「お痛み入り感謝します。ですがまだ、四肢の先の感覚が鈍く、全快というわけでは・・・」
よく見ると目の焦点も怪しい。
やはりカダチの匂いによる酩酊状態から抜け出せていないか・・・。
僕は足取り重く、背を向けて座っているスラギア君の近くまで行った。
「すっ、すすっ・・・スラギア・・・君・・・。じっ、実は・・・折り入って・・・お願いが・・・」
「雷の試練の助太刀をしろ・・・と言いたいのじゃろう?」
背中を向けたままスラギア君は、僕の頼みをズバリと言い当てた。
やっぱ察しがいいな・・・。
「うっ、うん・・・。ティアス様とギガレクスは動けないし、カダチとミツタネさんも本調子を出せない・・・。それに今度の試練の場は、嵐の霊峰なんだ。火を使うアンドラじゃ、相性が悪い・・・。だから・・・!!」
「くどい。さっさと言え」
っ!!
コイツぅ・・・!!!
じゃあせめてこっち向けや・・・!!
「おっ・・・おっ・・・お願い、です・・・。次の試練・・・どうか・・・手伝って、下さい・・・。あの時のこと・・・謝るから・・・」
下げたくもない頭を無理やり下げて、僕はそっぽを向いたままのスラギア君に、謝るとともに頼み込んだ。
「断る」
・・・・・・は?
「なっ、なんで?」
「言ったじゃろう。“下らぬ策にわしらを巻き込むな”と。お前のことじゃ。どうせレムア達に闇属性を打ち込んだのじゃろう?火の試練の時のように」
「いっ、入れてねぇし・・・。ちゃんと正々堂々、それぞれの実力で突破したし・・・」
「そうか?ではミツタネ。リオルの背中の痣はどうなっておる?」
「え?はっ、はい。私見ではございますが、濃くなっておられると」
ミツタネさん余計なこと言うなや!!!
「お前のことじゃ。どうせ強敵を前に闇属性を酷使したのだろう考え無しに」
あっ・・・ああ!?
もっ、もう我慢できねぇ・・・!!!
「あっ、あのさぁ・・・!?僕がせっかく頭下げてんのに、その態度ないんじゃないの?」
「お前が頭を下げているかどうかなど知らん。もしや虚言かもしれん」
「だったらこっち見ろや・・・!!いつまで顔反対にしてんだよ!?」
「先程、ちと寝違えた。あ~首が痛うて敵わんのぅ~」
「・・・・・・!!へっ、へぇ~そうなんだぁ~・・・!!なら僕がほぐしてやるよオラァ!!!」
「リオル様そこまでっ!!」
スラギア君の首をボキッ!!て真正面にしようとしたところ、レムアが羽交い絞めした。
「だぁ~!!!もう~!!!いいわっ!!誰がテメェなんかに頼むかバカがっ!!僕だけでどうするか考えますわ!!ほなのぉ!!」
ブチ切れた僕は地面に向かって垂れる空蓮の根をかき分けて走った。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「はぁ~・・・。全っ然アカンやん・・・」
雲が薄っすらかかる西日を浴びて、僕はガックリうな垂れた。
一ミリも怒り引っ込みついてないやん・・・。
ただでさえこっちの世界で成人して、心に至っては28歳のおっさんやで?
なんで恥も怒りもキレイさっぱり忘れることができないんだよぉ・・・。
日本と異世界。
合算したら40手前なのに、それでもまだ持ち続けてる子どもっぽさが心底イヤになる・・・。
思い返せば僕、昔っからアンガーマネジメント苦手だったっけ・・・。
キレたらすぐに顔に出て、そのせいで小中はすぐケンカになったり。
大人になっても仕事大量に用意されたらイラついて床をドンッ!!って蹴ったりして・・・。
態度に表れやすいんだよなぁ~・・・。
「・・・・・・もし、仲直りできなくて、このままずっと仲が悪い、ままだったら」
心の中で大きなざわめきが起こった時、後ろで『ドス、ドス・・・』と足音がしてビクッと振り返ると・・・。
「・・・・・・ウナトゥ、さん?」
「ここに居ましたか」
空蓮の根をかき分けたウナトゥは、穏やかな顔で僕の横に付いた。
「良かったらお聞きしますよ?スラギアの愚痴」




