7章ー24:滾る氷心
レムアの氷モーニングスターで顔面を強打して、壁に叩きつけられたニヴァーリ。
左半面が陥没して眼球が潰れてしまってる様はとても痛々しかったが・・・。
「リオル様・・・」
「うん。そりゃ、そうなるわな」
ニヴァーリのベコっと凹んだ半面は、紙風船を膨らました時みたいに元通りになって、破裂した目玉も数回の瞬きの間に治癒した。
「棘弾の鎖鎌・・・。見たことがない武器です。名は?」
「“もーにんぐすたぁ”、という人族の武具だそうです。夫に、教えて頂きました」
「カッコいいでしょう?いざってときは、これで身を守れって言いました!まぁ~乱世の男女の必需品みたいなモンです。どうです?この精巧な造り。レムアの氷属性は、児戯なんかじゃない・・・でしょう?」
「・・・・・・綱のようにしならせた氷をあそこまでしならせるのを見てしまうと、認めざるを、得ませんね」
ニヴァーリが納得した!!
これには僕も鼻が高い!
「しかし、あなたも解せませんね」
「何がでしょう?」
「勝ち目がなく、下手をすれば命すらも危うかったのに、何故あのような無謀なマネを」
「え?好きな女の子が危ないのを助けるのは当然じゃありませんか?それが妻なら尚更」
レムアの顔がポッ・・・///と赤くなって、ニヴァーリはポカンとした。
「ぷっ・・・!うふふ・・・」
ニヴァーリは顔を少し沈めて笑った。
それはまるで、“尊い!!”という気持ちを押し殺しているように見える。
「数百年ぶりにわたくしの心が・・・滾りました・・・!」
その言葉の直後、氷の試練場の吹雪が勢いを増していく。
「どうやらあなた方夫婦には・・・多少本気を出した方が良さそうです!!」
ニヴァーリの後ろ向きに倒れていた一本角が、キバタンみたいにバキッ!!と六本に逆立つ。
その輝きは、まさにサファイア。
それとともに吹雪が一瞬で止んで、一面青色に染まる。
「もっとわたくしに見せて下さい。あなた方の愛を。そして燃えさせなさい!!わたくしの熱き氷心を!!!」
「・・・・・・ええ。見せてやりますとも。そりゃ~もう・・・尊死させるほどに!!」
ニヴァーリが首を振りながらブリザードを吐く。
僕とレムアは同時にジャンプしてそれを避ける。
レムア!!
(はい!!)
横向きに生えた氷柱にモーニングスターを絡めたレムアは、ニヴァーリに向かって僕を蹴飛ばす。
「“鋭爪一閃”!!」
爪を立ててニヴァーリに突っ込む僕。
ニヴァーリは氷ブレスを吐きながら回転して飛び立つ。
「頭にお気を付けを」
見上げるとニヴァーリの吐いたブレスが、数個の氷塊になって頭上に振ってきた。
「“黒蟲の守玉”っ!!!」
咄嗟に呼び寄せたツバメバチで闇属性のエネルギー弾を展開して防御する。
「っぶね~・・・!!」
僕は滞空するニヴァーリにツバメバチの光弾を発射するが、簡単に避けられてしまった。
「軌道が読みやすいですね。それでは当てることができ・・・っ!!!」
ツバメバチの光弾は、氷柱から飛び降りるレムア左腕に集まり、造られる氷の刃と混じってニヴァーリの氷に守られた翼膜を切り裂く。
墜落したニヴァーリの前に、右腕にモーニングスター、左腕にブレードを纏ったレムアが降り立つ。
「あっ、あなた。今、自分から光を拾いに行きましたね?どうやって・・・」
「・・・・・・『愛の御業』です。愛した者どうし、考えることは手に取るように分かります」
ニヴァーリを狙ってるようにカモフラして、レムアに光弾を拾うように思念を送った。
「なるほど。ですが闇属性を使えるわたくしは、すぐに傷を癒すことができ・・・っ!?」
切れた翼膜を再生できなくて驚くニヴァーリ。
レムアの左腕の氷刃は、ツバメバチが混じって黒ずんでいる。
「やっぱり闇属性を相殺するのは、同じ闇属性のようですね」
「まさかあなた達・・・!!それも互いに・・・?」
「でしたら?」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「いいですねぇ!!滾りますねぇ!!!」
ニヴァーリが咆哮を上げると、周囲は再び吹雪に包まれた。
彼女の五本の角が青く光り、急所や関節に氷に鎧が形成された。
何が滾るだよ。
辺り一面、氷河期みたいに凍らせちゃって。
そう思った途端、ニヴァーリは首を振り上げてブリザードを吐いた。
バックステップで避けた途端、僕とレムアの前に巨大な氷の壁が出現した。
避けんのが数秒遅れてたら壁にカチ上げられてたな・・・。
安心してたその時、氷の壁を破ってニヴァーリが尻尾でチャージ突きしてきた。
「いっ・・・!!!」
「リオル様っ!!」
レムアがモーニングスターを振り上げて、ニヴァーリの尾のレイピアを上に弾いた。
だけどニヴァーリは切っ先をこっちに向けてきて、僕たちは剣戟に移行した。
コイツ・・・!!
地上でもフェンシングの代表選手みたいな素早い動きを・・・!!
飛べないのに僕とレムア相手に有利に立ち回るニヴァーリに、僕たちは反撃の糸口を掴めずにいた。
「はっ!!」
ニヴァーリが僕とレムアの足元にブレスを吐くと、デカい氷柱が何本も生えてきた。
「がっ・・・!!!」
右手に氷柱ブッ刺さった!!
動きを封じられた僕の眼前に迫るニヴァーリの鋭い尾。
ヤバい!!
避けられ・・・
次の瞬間、グシャ!!と鈍い音がして、レムアが僕を抱えて後ろにジャンプした。
「ご無事ですか!?」
「うっ、うん・・・。だいじょう・・・ぶ?!」
氷柱に貫かれた右手が潰れていた。
「あっ・・・!!」と叫びそうになった時、潰れた右手はバキッと瞬時に再生した。
「申し訳ございません・・・。これしか方法がなく・・・」
レムアのモーニングスターを見ると、赤い鱗が混じった肉片が。
どうやら氷柱を僕の右手ごと潰して助け出したようだ。
「へっ、ヘーキ!!ヘーキ!!いや~見事な臨機応変だったよ!!やるね~!」
「あっ、ありがとうございます///」
照れるレムアの気分を台無しにしないよう、僕はグロさでかいてしまった脂汗をサッと拭き取る。
「リオル!!レムア!!」
「兄貴!!姉御!!」
ティアスとギガレクスが駆け寄ってくる。
気付かない内に二人のトコに退避してしまったようだ。
「あなた方夫婦の愛、堪能いたしました」
全身に吹雪を出しながらニヴァーリが近づいてくる。
歩きながら彼女は口から冷気を吐いて、レムアに斬られて再生できない翼膜を強引に接合させた。
「しかし、わたくしを蕩けさせるには、あと一押し足りませんね」
ニヴァーリは尾の切っ先を僕たち四人に向けて微笑む。
「そこの飛竜の男女も入れて、まとめてかかってきなさい。そして四頭の亜竜族の愛の帳に、わたくしを入れてみなさい♡♡♡」
「・・・・・・欲しがりさんめ」
僕がからかうと、ニヴァーリは「どうも」と言いたげに、そっと頭を下げた。




