7章ー23:氷刃児戯の如し
自分をときめかせてみろ・・・か。
こりゃまた随分な無理難題を・・・。
どうやって武竜の愛とやらを見せつけりゃいいんだ?
和歌の詠み合わせでもすりゃいいのか?
「・・・・・・分かりました」
ニヴァーリに見つめられながら、レムアは前へと出てきた。
「確認なのですが・・・」
「何でしょうか?」
「試練の詳細については、こちらに決定権が?」
レムアの質問にニヴァーリはニコッと微笑んだ。
「ええ。ご方法はお任せしますよ?わたくしは公平でございますから」
「ありがとうございます。では・・・」
レムアはスクっと二本足になって、右腕に氷刃を帯びた。
「えっ、ちょっ、レムアさん・・・?」
僕が呆気に取られていると、レムアは問答無用に氷刃でニヴァーリに氷のデカ包丁を振り下ろした。
轟音とともに雪煙が激しく舞う。
「ウソだろアネゴ・・・!!」
「いやはや・・・。合図もなしに斬りかかるとは・・・」
レムアの容赦の無さに引いてるティアスとギガレクス。
しかし、ティラエだけは冷静だった。
「“戦いの中で愛を示す”・・・。やはり亜竜族は、蛮族ですね」
レムアの氷の大剣は、ニヴァーリの、レムアの得物の半分にも満たないレイピアみたいな氷の尾によって受け止められていた。
ギチギチと氷刃どうしの鍔迫り合いの後、ニヴァーリはレムアの刃を弾き返し、反転して氷尾による刺突の連撃を浴びせた。
「くっ・・・!!うっ・・・!!」
レムアは必死に防御に徹するが、反撃の隙はまるで見えず、それどころか、右腕に纏った刃にヒビが入り始めた。
「あの地竜の娘、氷属性の使い手か?」
「ティラエ様!はっ、はい」
「氷で武具を作るとは興味深い。だが・・・ニヴァーリには遠く及ばないな」
「そのようなことは決して!!レムアの竜術で作られた武器は業物です!!」
「ニヴァーリの尾を見てもそう言えるかな?」
「当たり前でしょう!!あんだけ打ち合ってるんですから、向こうの刃も摩耗し、て・・・」
そっ、そんな・・・。
ヒビ一つ入ってない!!
あんなか細い刃なのに・・・!!!
「練度がまるで違う」
「錬、度・・・?」
「十余年生きた地竜と、千余年生きた源龍族では、同じ属性でも天と地ほどの差がある」
・・・・・・確かにそうだ。
生きた年数が長ければ長いほど、自分の能力と向き合う時間も長く、自ずと達人の域に達することができる。
だけど・・・長い寿命にあぐらをかき、慢心すると、自分より遥かに格下だと思ってた相手から予想外の攻撃を受けてしまう。
その方が、断然盛り上がるってなもんだ。
そうだろ?
レムア。
お前が今、圧倒的実力差にくじけそうになってるのを感じる。
だけど、落ち着いて思い出して。
これは、愛を見せつける試練。
レムア一人だけの戦いじゃない。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
夫も一緒だ。
「がはっ!!」
レムアの右腕の氷刃が耐えきれなくてとうとう折れてしまい、その反動で吹っ飛ばされた。
「おやおや。もう終わりですか?」
「まっ、まだまだ・・・!!!」
四足歩行に戻ったレムアは氷の壁を走って、助走をつけて両腕に刃を帯びてニヴァーリに斬りかかる。
「“トダン流竜術・薙ぎ双閃”・・・っ!?」
ニヴァーリは一太刀でクロスさせたレムアの氷の刃をへし折って、氷ブレスを浴びせた。
「きゃあ・・・!!!」
落下したレムアに、ニヴァーリは噴飯の笑みを浮かべる。
「あなたの氷属性は、氷龍姫たるわたくしの前では児戯同然。積み上げてきた年数が違うのです」
「くっ・・・!!ううっ・・・!!」
「悔しいでしょうね。ですが、それが事実。寿命がある亜竜族と、この身が大地に還るまで生き続ける源龍族とでは、属性の腕の差が大きすぎます。まさか、それを分からずに挑んだのですか?わたくしを否定したくて」
何も言い返せないレムア。
それにニヴァーリは呆れた。
「主君のため、夫のために奮戦する妻の姿に、わたくしがときめくとお思いで?向こう見ずな女の蛮勇に心打たれるほど、わたくしは安くありませんよ?」
「そうっすか。ならこういうのはどうです?」
「っ!?」
ニヴァーリの背中に飛び乗った僕は、背中に百竜丸を刺した。
「ああっ!!!」
「奥さんの危機を決死の覚悟で阻止する夫!!驕りましたねニヴァーリ様!!」
「あっ、あなた・・・!!!」
「リオル様!!」
「さっきの僕の思念聞いたろレムア!?ビックリするような一撃・・・ブチかませ!!!」
「・・・・・・はい!!」
レムアが右腕に新しい武器を作り出したのを見て、僕はニヴァーリの背中から飛び降りた。
「全く・・・!!一体どういうつもりで・・・っ!!」
新しい武器を作ろうとしてるレムアに一瞬ドキっとするニヴァーリだったが、すぐに余裕に戻った。
「言ったでしょう?あなたとわたくしとでは属性の腕に大きな差が・・・」
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
氷のモーニングスターを右腕に作ったレムアは、思いっきり振りかぶってニヴァーリの顔面にブチ当てた。
サッカーボールみたいにニヴァーリは吹っ飛んで、氷の壁にシュートした。
「はぁ・・・!!はぁ・・・!!」
「レムアっ!」
「リオル様・・・!」
レムアに手を出すと、僕たちは笑顔でバシッと力強くハイタッチした。
「ぐっ・・・!!あ゛あ゛っ・・・!!」
めりこんだ壁から、ベッコリ顔が凹んだニヴァーリが這い出てきた。
「なっ、なんですかその武器は・・・」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「試練用です」
飄々としたドヤ顔を決めてレムアはそう言った。




