7章ー22:恋語に武は不相応
氷の試練の試験官、氷龍姫ヨルム・ニヴァーリは、小説・・・特に恋愛物語を好んで書く文筆家系貴族だった。
氷を司る源龍族なのに、それとは真逆の情熱的な趣味をお持ちのようで・・・。
「こっ、これはご丁寧にっ!わたくしはリオル!此度の上洛を決心いたしました武竜の代表にございますっ!!」
気品が高い挨拶にドチャクソ緊張しながら返す僕。
だけど、ニヴァーリからは返事がない。
「えっ、え~っと・・・」
恐る恐る頭を上げると、ニヴァーリは氷龍姫の二つ名にピッタリな冷ややかな視線を向ける。
僕・・・なんか気に障るようなことしました?
「ティラエ?」
「何かな?」
「わたくし・・・全然そそりませんわ」
・・・・・・わ?
「どうしてだ?お前好みの題材だと思うが?」
「冗談はよして下さいまし。武竜なんて、恋の物語に相応しくありませんわ」
そっからニヴァーリは、自分の小説論について力説しだした。
「わたくしが書きたいのは、気品溢れる貴族の男子と、蝶よ花よと育った乙女の、熱く上品な恋歌の物語・・・。武竜なんて、男は成り上がることしか知らず、血に飢え、女は男のみなぎる野心を利用し、戦となれば男の代わりに戦う、蛮族ではありませんか。かような野蛮な種族に、わたくしが興味を持つとでも?」
うっわ~・・・。
すっげ~偏見・・・。
確かに?貴族と比べたら武士なんて、お上品とは言えない連中ばかりだけど、それでも大恋愛の一つや二つはするよ?
なんか自分の書きたいモンばかり突き詰めて、考えが凝り固まってる感が否めない。
web小説で物書きしてた僕が他人の創作論に口出しすんのは失礼かもしれんが・・・。
「恐れながら・・・!!ニヴァール様は武竜に対する印象が狭いのではないでしょうか!?」
レムア!?
「・・・・・・あなたは?」
いきなり異議申し立てをしてきたレムアに、ニヴァールは眉をひそめる。
「私の名はレムア。こちらにあらせられるリオル様の妻でございます」
「そう?武家の男は妻を財産同然に扱うと聞きました。あなたも、さぞかしご不憫な身の上ですね」
「不憫?とんでもない。私はリオル様から、物扱いされたことなど、ただの一度もございません」
「あらそう?でもあなたは、自分の親から、そこにいるリオルとやらとの関係を担保するための人質として嫁がされたのでしょう?まさか夫が天下に近づいて、妻として勝ち馬に乗るおつもりかしら?」
「・・・・・・私の父母は、この方と会う前に、亡くなりました」
予想外の答えが返ってきて、ニヴァーリは目を見開いた。
「私の家は、東国の一領地を治める地竜でした。ですが敵国に攻め込まれ、父と兄は討ち死に、母は私を逃がすために殺され・・・。行き倒れになった私を、こちらにいる飛竜のティアス様の家が治める領地に拾われ、私は一介の侍女となりました。私はそこで、ティアス様との同盟を担保するための人質として送られた、このリオル様と出会ったのです。故郷を失い、生きる気力をも失った私を、リオル様は幼少の身でありながら救って下さったのです。私は今、たいへん幸せなのでございます。子どもの頃よりお慕いしていた方と夫婦になり、この方の長年の夢であった、太平の世を創る、大きな前進となる上洛にお供することができて・・・。ニヴァール様。あなた様の武竜に抱きになっておられる印象を変えようなどと、おこがましい考えは持っておりません。ですが、もっと視野を広めになられてはいかがでしょうか?さすればこれまで思いつかなかった物語が、お書きになるかもしれません」
今まで目下に見ていた者から、“もっと知見を広げろ”と言われて明るい気分になる者はいない。
だけどニヴァーリは、レムアの勇気ある発言に、冷静に耳を傾けていた。
「幼き頃よりの仲の男子と祝言・・・。武竜にはかような愛の形がおありなのですね」
しばし考え込んだ後、ニヴァーリは決心ついたように前を見た。
「試練の内容が決まりました。わたくしをときめかせてみなさい」
え?
「あっ、あのぉ・・・それはどういう意味で?」
「言葉通りです。わたくしに、武竜の愛の尊さというのを見せてみなさい。さすればあなた方を、愛のために困難に挑む者として、認めましょう。特にそこの・・・」
ニヴァールは自分を突き動かしたレムアに、興味津々な視線を送る。
「あなたの夫を愛する気持ちが、わたくしの心の氷を溶かすこと・・・さぞかし期待しておりますわよ?」
二コリとどこか冷たい微笑みを見せたニヴァーリに、レムアはとても緊張した目をした。




