7章ー21:氷窟姫龍
「うぉ!?うぉぉ・・・!!」
空蓮の庭の、氷の試練場側の出口までやってきた僕は、身体を持っていかれそうになるほど強い追い風にビックリした。
それより驚いたのは・・・目の前に伸びる巨大な筒状の洞窟である。
ティラエの言ってた通り、四方八方を大小様々の氷柱が伸びていて、尖ったものは勿論、丸いのや四角い物まで形状もバラエティに富んでいる。
「ここから先が氷の試練の場だ。ティアスよ、用意はいいか?」
「はいっ!!空蓮の庭の草は水気が豊富で、たいへん美味しゅうございました!これなら良い熱が作りだせそうですっ」
ここに来るまでの一時間、ティアスは空蓮の庭に生えている陸の水草をモリモリ食べながら歩いていた。
まさに、道草を食いながら・・・である。
「では、ゆくぞっ!!」
「ふぅ~・・・!!」と大きく息を吸って、ティアスは大きく目を見開いた。
「“ミーノ流竜術・灼血躍流”!!」
次の瞬間、ティアスの血管が浮き出て、淡く黒ずむ身体から湯気が出てきた。
「ほぉ~・・・!!!やはりこれは、堪えるのぅ・・・!!」
「ティアス様、ホントにこれであったかくなったのですか?」
「なんなら触ってみるかリオル!?」
ティアスの体温が熱くなったかどうか確かめるべく、僕は彼女の尻尾に触れた。
「あ~っつ・・・!!!」
なにこれ!?
沸騰したヤカンじゃんっ!!!
触った手の平を見ると、赤くなって、所々に水ぶくれが出来ていた。
「どうじゃ!?すごいじゃろう!?」
ぐぬぬ・・・。
体温が上がったせいか、いつもより横柄になってるのが鼻に付くけど、確かにこれはすごいな・・・。
「いいようじゃな。では、ゆこう。彼女もお前達を待っているだろうしな」
彼女?
もしかして次の試験官って・・・。
そう思いながら僕たちは分厚い吹雪に閉ざされた洞窟の入口へと入っていった。
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばあばばばばばばばばばば・・・!!!!」
さっぶ!!!
なんじゃこりゃ!!!
トダン領の倍以上の極寒じゃねぇか!!!
「なっ、なんですかこの寒さは・・・!!!」
「クッソさみぃ~ぞここ!!!オレ様でも我慢できねぇよ!!!」
寒冷地のトダン領出身のレムアと、北国に遠征したギガレクスも耐えられないとは・・・!!
「確かに、少しひんやりとするな・・・」
少しひんやりって・・・。
なんでティアスはその程度で済んで・・・
「・・・・・・何をしておるのじゃ?」
「お構いなく」
あ~・・・ティアスの近く、なんかあったかい・・・。
「あっ!!ずりぃ~アニキ!!!オレ様もっ!!!」
「わっ、私も・・・!!!」
「ちょっ!?ちょっ!?妾の身体を囲炉裏代わりにするでな~い!!!」
僕たち三人にくっつかれたティアスの叫びがジェット気流に乗って洞窟の奥へと流れていった。
それから僕たちは、ティアスから漏れ出る蒸気であったまりながら先を進んだ。
風が流れる奥へ奥へと進んでる内に、僕たちは段々寒さに慣れてきた。
だけど足元には剣山みたいに小さな氷柱がビッシリ生えていたから、足の踏み場に苦労した。
もしスラギア君とウナトゥが一緒にいたら、確実に腹がズタズタになってたと思う。
ちょっとでも足場を増やすため、僕とレムアは氷柱を折りながら進み、ギガレクスは足の裏が頑強なおかげでラッセル車みたいに、氷柱を破壊しながら走る。
ティアスはその体温のおかげで、氷柱を溶かしながらゆっくり歩くことができたから、マジで羨ましかった。
「あ!?」
さっきまで爆走していたギガレクスが急に止まった。
「どうした~?」
急いで周りの氷柱を折って駆け寄ると、ギガレクスは上を指差した。
「あれは・・・」
目の前の、壁が突き出てできた氷の高台の上に、退屈そうに前足を組んで横になる、後ろに伸びた一本角を持った源龍族が一体。
ん?
アイツ・・・なんか、読んでる?
「あそこにおったか」
滞空しながらティラエが近づく。
彼女の周囲は炎のシールドみたいなのに守られていて、寒さも風の影響も受けていない様子。
こっちもこっちで、かなり羨ましい・・・。
「お~い!!ニヴァーリ!!」
ティラエに気付いたその源龍族は、氷の高台から颯爽と飛び降り、僕たちの前に舞い降りた。
気品のある足取り、白⇒水色⇒青の順で、体表に近くなるにつれて濃くなっていく氷の鎧、その姿はまるで、十二単を身にまとった女貴族のようだった。
「ご機嫌麗しゅう、ティラエ」
透き通るような女性の声。
やはり氷の試練の試験官は・・・女だったか。
「その疲れた顔・・・新作が煮詰まっておるようだな?」
新作?
「そうなのです。筆を取ってはや三百年、中々良い話が思い浮かばなくて・・・」
「でもまた色恋物にしようとは決めているのであろう?」
「当然ですっ!男と女の熱い恋ほど、この世に魅力的な物はございませんからっ!!」
すごい熱の入りよう・・・。
どっ、どうやらこの龍廷貴族は、紫式部タイプの女流作家であるようだ・・・。
「取り込み中のところ悪いが、お前に要りようだ」
「水の試練が敗れたのでしょう?」
「っ!!!」
やはり三つ目となると、他の貴族の耳に入ってたか・・・。
「なら話は早い。例によって、お前に氷の試練を行なってもらいたい。お前の執筆活動の一助になるやもしれん」
それを聞いた彼女は、ティラエの後ろに控えてる僕たち四人を見た。
「試練を受けるは、この二組の雄と雌の亜竜族だ。どうだ?そそるだろう?」
「ふぅ~ん・・・」
なっ、なんか熱い視線を感じる・・・。
氷の試練の試験官は、僕たちの元まで歩いてきて、片足を少し上げながらお辞儀した。
「はじめまして。武竜の皆様。わたくし、氷の試練を務めます、氷龍姫ヨルム・ニヴァーリと申します。以後お見知り置きを」




