7章ー20:試練の新ルール
水の試練をカダチとミツタネさんのおかげでクリアできた僕たちは、とりあえず空蓮の庭で一息。
カダチの酩酊のライチの香りを嗅いだミツタネさんとダインは、未だ昏倒状態。
「源龍族をここまで長い時間眠らせるとは。末恐ろしい香りの娘だ」
「そっ、そうかなぁ~♪」
ティラエからの評価に、カダチは大層ご満悦の様子。
感嘆にしても驚嘆にしても、忍びにとっては自分の技が大きく印象に残ることが、最大の喜びのようだ。
「照れている場合ですかっ。あなた先程の大技で力を使い切ったでしょう」
「うっ・・・」
そう言われてみれば、カダチの傍にいてもライチの匂いがしない。
「回復には三日くらい、かかるかなぁ~・・・?」
え!?
じゃあ・・・。
「次の氷の試練、もしかして参加できない?」
申し訳なさそうな顔をしながら、カダチは頷いた。
参ったなぁ~・・・。
ミツタネさんも目覚めるのに結構かかりそうだし、欠員は一人に留めたかったんだけど・・・。
「どの道、次の試練の場には全員は行けないだろうがな」
「え!?どういうことですか!?」
「場所が良くない。氷の試練が行われるのは、縦横無人に鋭い氷柱が伸びる、長い洞窟。這うだけでズタズタになるだろう」
じゃっ、じゃあ・・・。
「水竜は次には進めない・・・ということですな?」
スラギア君の質問に、ティラエはコクリと頷く。
やはりそうなるか・・・。
だけど、全員で龍京に行かないと、上洛の意味が・・・。
「まぁ、そこの四頭だけでも次のコマには進めそうじゃがな」
「・・・・・・ほう。賢いな貴様」
「一つの頃より跡目争いに巻き込まれていた故、嫌でも察しが良くなって困るでござる」
スラギア君、何かに気付いたのか?
「火の試練と水の試練、この二つのそちら側の出方を観察して分かった。この“五龍門の試練”・・・龍廷側に縛りがあるのでござりましょう?」
「そうだ」
スラギア君からの指摘を、ティラエはサラッと認めた。
「こちらに課せられた掟は一つ。それは、“龍宝”を使ってはならない・・・だ」
「ティラエ様、龍宝って?」
「お前達亜竜族で言う所の、竜術の奥義のような物だ。我ら源龍族には、使えば大地を変え、軍勢を屠れるほどの強力な技を、各々一つ持ち合わせている。“五龍門の試練”では、それを使うことが禁じられている」
「どっ、どうしてですか・・・?」
「龍宝を使うと、上洛しようとする者の力量を測る前に、殺してしまうからのぅ」
どうりでティルオとダインが、技名がない攻撃ばっかやってきたワケだ。
先の二頭のドラゴンは、必殺技禁止の縛りプレイをやっていたってことか・・・。
あれでも手加減してくれてたなんて・・・。
全くこの世界のドラゴンは、どんだけのバケモンなんだよ・・・。
「この千年間、上洛を試みた亜竜族達は火の試練で脱落してきた者ばかりであったが・・・。お前達の、天下を獲ろうとする気迫・・・どうやら想像以上のようだ」
「え?」
「仲間のために犠牲になろうとする覚悟、そしてその覚悟の先を行く情と信頼・・・。惚れた礼として、試練の裁定者として、新たな掟を設けよう」
それって、新ルールってこと!?
「“火・水の試練を突破した時点で、残りの試練の頭数については全員で挑まなくても良いものとする”」
つまり動けないメンバーについては試練を免除できるってこと!?
結構良心的じゃね!?
「浮かれおって、めでたい奴じゃ」
嬉しがる僕に目線を送ることなくスラギア君は吐き捨てた。
冷めるわぁ~・・・!!
喜んでるところで水差すようなこと言いやがって・・・。
「数が少なくなる分、試練を司る者と戦わざるを得なくなる・・・でござろう?」
「ご名答」
あっ、確かに・・・。
ここまでは少人数で挑んで、他のみんなは離れたところで避難してた。
だけどメンバーが少なくなると、戦闘に回んなきゃいけないのが増えちゃう・・・。
こっちに配慮したように見せかけて、個々のスキルをよく観察したいってことか。
ちゃっかりしてやがるぜ・・・。
「で?どうする?動けず、技が使えず、歩くことさえできぬ者が多い中、誰を連れてゆく気だ?リオル」
「くっくっくっ・・・」と笑いながら人選を聞いてくるティラエ。
源龍族の力は、ざっと見たところ武将クラスの亜竜族2、3頭分。
アンドラとティアスは寒冷地での戦闘経験がない。
となると・・・。
「・・・・・・ギガレクス。寒いところでの戦いの経験はある?」
「もちろんだぜアニキ!!北国の吹雪がビュ~ビュ~吹いてる山ん中で一年ばかし暮らしたことがあらぁ!!」
さすがは“梟雄の風来坊“。
極寒も経験済みってことかい?
「よし。そんじゃ!次の氷の試練は、僕とレムア、ギガレクスの三頭で挑むっ!!どの道戦わなくちゃならないんなら、思う存分!相手してやろうじゃんか!!」
「はいっ!!」
「よっしゃあ!!」
「わらわも行くぞい」
話がまとまりかけていたその時、突然ティアスが名乗りを上げた。
「えっ、でもティアス様、寒いところでの戦いのご経験が・・・」
「だからこそ、この機会に身に着けておきたいのじゃ。じゃがそのためには、腹ごしらえしとかねばならんけどな」
「どういうことでしょうか?」
「ミーノ領の竜術には、食べた草の水気を体内で溜めて、熱する技が存在する。父上と母上はこれを使って、寒さの厳しい冬にも戦をすることができた。その術を、この試練で物にしたい」
新しいスキルの修得か・・・。
人手は多いことに越したことはないが・・・。
「後生じゃリオルよ」
「え?」
「此度の上洛、妾はミーノ領の名代でありながら、強大な龍を前に怯え、遠目で見ることしかできなかった・・・。その汚名、この辺りで返上させてほしい・・・!!」
「ティアス様・・・」
そんなうるうるとした眼差しで、こっちを見るなよ・・・。
僕まで胸が苦しくなるじゃんか・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「足手まといと分かったら、すぐに引き返してもらいますからね」
「・・・・・・すまない!」
こうして氷の試練に挑むのは、僕とレムア、ギガレクスとティアスの2ペアに決まった。
「そういえばお前達・・・」
「はい。僕とレムアは夫婦で、ギガレクスとティアス様は内縁関係にありますが・・・」
「そうか。もしやこれは・・・やつ好みの試練になりそうだな」
「はい?」
ティラエが漏らした言葉の意味を知るのは、試練本番になった後のことだった。




