7章ー19:水の試練・審判ノ刻
ダインがカダチとミツタネさんが隠れてると思しき場所にウォーターカッターを撃ってそろそろ五分になる。
一向に姿を現さないってことは、どん詰まりで諦めてしまったのか。
それとも、何か良い案が思いついたのか・・・。
「・・・・・・クソッ!!」
「リオル様!?」
じっとしていられなくなった僕は、二人を助けようと走り出す。
やっぱ二人だけじゃ勝てる相手じゃない!!
このまま突っ立って見てられっかって・・・
「っ!!!」
崖を登ろうとしたその瞬間、ミツタネさんが天井をブチ破って飛び出してきた。
「“竜忍法・水竜砲”!」
口から吐いた水の塊を足場に、ミツタネさんは滞空するダインに弾丸のようにかっ飛び、両者は水草の生えた岩肌に突っ込んだ。
「はあっ!!」
鋭い爪でダインの爪を切り落とすミツタネさん。
「ああっ!クソっ!!」
だけど案の定、ダインのヒゲは彼の闇属性によってすぐに再生した。
「それで終わりか?」
「まさか・・・!!」
ミツタネさんはダインにしがみつきながら、口から噴水のブレスを吐いた。
あの人もウォーターカッターを撃てたのか!?
だけど水を使うドラゴンに水が効くはず・・・。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・!!!!」
叫び声を上げて苦しむダイン。
よく目を凝らして見ると、ミツタネさんのブレスが直撃してるダインの顔が爛れていた。
違う!!
透明な酸だっ!!!
「“竜忍法・熔鉄水”!!」
顔に酸を浴びせられたダインは、もがき苦しみながらも羽ばたいてミツタネさんを振り落とそうとする。
このまま持ちこたえれば勝利も・・・いやダメだ!
ミツタネさんのブレスで焼け爛れたダインの顔は、闇属性の再生力で治癒していく。
このままじゃ、すぐにミツタネさんは、燃料切れになる。
その懸念は当たり、ミツタネさんの酸の出力が徐々に衰えていき、とうとう吐けなくなった。
「龍に一矢報いようとするその気迫・・・。これが武竜か?」
「武竜?いいや」
ミツタネさ、どうして余裕ぶって・・・。
・・・・・・あれ?
カダチは?
「私達は・・・忍竜だ」
崖の方を見ると、マスクを着けたカダチが全身の毛を逆立てている。
まさかアイツ・・・いやコイツ等!!!
「忍竜は群。斃れても、同胞が勝てばよい」
「はっ!?貴様らぁ・・・!!!」
・・・・・・・。
・・・・・・・。
『“竜忍法・夢幻抱香”!!』
咆哮とともにカダチから大量の酩酊状態になる香りが放たれ、それはミツタネさんもろともダインを飲み込んだ。
真っ白の霧の中から、重度の酩酊状態で意識を失ったダインとミツタネさんが。ともに落ちてゆく。
そうか。
ミツタネさん・・・自分を犠牲に・・・。
彼の敵視を自分に向かせて、カダチの広範囲攻撃に巻き込んだ。
源龍族の闇属性は属性強化と再生能力。
つまり・・・状態異常への無効化には振ってない。
逃げながらも敵の出方を見て、自分達の手の内は明かさなかったのが決め手だったってことか・・・。
だけど・・・。
「“忍者の命は捨て駒”?そんなの・・・僕が許すと思ってんのか!?」
落ちていくミツタネさんを助けに行こうとしたその時だった。
「いかんな・・・」
ティラエの呟きが後ろから聞こえた。
「勝つために喜んで命を捨てるなぞ・・・!!」
意識を捻り出したダインは、ふらつきながら落ちてる途中で滞空する。
「死命を制することへの冒涜でしかないっ!!!」
今までの淡々とした口調とは真逆に、ダインは声を荒げて激昂した。
「死力を尽くし、その因果で命を果たすのは結構っ!!だが生への執着を自ら放り、己を捨て駒として見るのは看過できん!!忍竜の矜持、片腹痛し!!!そのような愚か考え・・・この水龍公リンド・ダインが断じて許さんっ!!!」
なんかすげ~ブチ切れてんだけど・・・。
「悪手を取ったな、あの二頭」
「どういうことですか?」
「千年前の源龍族と亜竜族の戦乱のおり、ダインの妹は兄である奴を逃がすべく、己を盾にして目の前で果てた。それからというもの、奴は己の命を大事に扱わぬ者に激しく怒るようになってしまってな。己が身を捨て駒とする忍びの考えが、奴の琴線に触れてしまったようだ」
なるほど・・・。
ぶっきらぼうな一匹狼タイプな性格してるが、その実、命の重さを最も大切にしてるってことか・・・。
感慨に耽っていると、ダインのシュモクザメの頭のような角が光り出した。
「貴様らは、俺の前で、最も許しがたい愚行を行なった・・・!!もう我慢できぬっ!!!」
ダインが咆哮した途端、四方八方から洪水が襲ってきた。
コイツ・・・!!まだこんな力が・・・!!!
ダインの能力で発生した洪水はカダチが駆け上がっている崖でも起こっていて、激しい濁流が彼女に襲い掛かる。
「命の源である水に呑まれながら、犯した愚行を悔いるがよいっ!!!」
「そんなに派手に知らしめんでもよかろうて。後でたっぷり灸を据えてやる」
スラギア君の声が聞こえたその直後、ウナトゥが仰向けで滑り込んできて、脂肪のたまった腹で落ちてくるミツタネさんをキャッチした。
「わしも貴殿と同じく、己が命を捨てるような愚か者にはうんざりしておってな。かような考え・・・太平の世に相応しくない」
「おっ、お前・・・」
「そう言うと思ってましたよっ!!!」
全員が一斉に向くと、ゴールに到着したカダチが、蓮の花を掲げて笑っていた。
「内心どうなることかと思ってたけど、それでこそウチの主の親友ですねっ!!!スラギア様っ!!!」
カダチの奴・・・。
まさかこうなると知って、あえてミツタネさんの作戦に・・・。
「ざまあ、ないな・・・」
「っ!」
フラフラと降りてきたダインは、混濁した意識のまま僕たちと向かい合う。
「命を投げ出した、家臣を助ける・・・。仲間も・・・それを信じていた・・・。あの頃の・・・俺には・・・出来なかった・・・ことを・・・こうも・・・易々・・・」
ダインはそう言いながらカダチの毒にやられてぶっ倒れた。
「満足げに眠りこけおって。普段からそういう顔をしておれば、こちらも付き合いやすいというのに・・・」
呆れるティラエはその後、僕たちの方に視線を移した。
・・・・・・・。
・・・・・・・。
「“五龍門の試練”が立会人、火龍姫ニイズ・ティラエの名の下に、水の試練、合格を宣言する」
「っ!!!」
遠くにいるカダチにガッツポーズを送ると、彼女はゴールの証である蓮の花を、今一度大きく掲げて返事した。




