7章ー17:一輪の花を目指せ
抑揚がほとんどない自己紹介をした、水龍公リンド・ダイン。
こりゃ、かなり・・・対人スキルに難アリってカンジやな。
「お前達に課す“水の試練”は、たったの一つ。あそこに垂れる一際大きな空蓮。あれはこの庭で唯一花を付けた葉だ。花に一頭でもたどり着けば、合格と見なす」
それさっき一回聞い・・・ん?
「あっ、あのぉ・・・」
ウナトゥが、そっ~と手を挙げた。
「なんだ?」
「えっと・・・一頭でもたどり着けば、合格・・・ですか?」
「そうだ。一頭でもだ」
つまり、全員が目指す必要はないって、ことか?
たとえ九頭全員で目指したとしても、その分、合格率は上がる・・・。
これってかなり・・・こっちに有利な内容じゃないか?
「皆で挑んでもよし。誰か一頭選んでその方にやらせるのもよし。好きな方を選べ」
う~ん・・・。
ざっと見積もって地面から葉までの高さは40mほど。
上るための足場はあるが、高低差が激しい。
試験官のダインも必ず妨害してくるし、ここは・・・。
「ミツタネ。お前が行け」
スラギア君がミツタネさんを指名した。
んだよ!
同じこと考えてやがった!!
フットワークが軽くてすばしっこい走りが要求されるとなれば、忍びしか出る幕はない。
思考に先手を打たれた気がして、ムカつく・・・!!
「カダチ!!」
八つ当たり気味で、僕もオリワ領の忍竜であるカダチを指名した。
「おいらが行くの?」
「こん中で一番素早く動けるのはお前だ。他に誰がいる?」
「まぁ、そうだけどさ・・・」
カダチはオロオロしながらダインの方を見た。
「大丈夫っ!ダイン様が何かしてきたら僕が何とかする!あっちの雷しか出せない一芸水竜にゃ出来んからよっ!!」
“一芸水竜”という言葉にブチっときたスラギア君が睨んでくるも、ティアスが遮ったことで「チッ・・・!!」と舌打ちして引き下がった。
「ほらっ!!早く行って!!時間ないんだからさぁ!!」
「わ~ったよ、ったく」
図らずもビーチフラッグのような構図になってしまった水の試練。
だけど対戦相手どうしのカダチとミツタネさんは、板挟みで心苦しい様子。
「はぁ・・・」
「仕える主がいがみ合っていると、互いに苦労するな」
「あんたもそうかい?」
「正直に言えば、な。だがこれも、ある意味でいい機会かもしれない」
「どういうことさ?」
「・・・・・・水面番衆とトビカケ衆。互いに忍びとしての動きと技を、遠慮なく見せ合える。余すとこなく、目で盗ませてもらうぞ。カダチ」
「へへっ!そりゃ~こっちのセリフさっ!!」
なんかあの二人、イイ感じだな。
ミツタネさんはスラギア君のボケの家来なんだけど・・・。
「合図はしない。自分の好きな時に出ろ」
「ならば、遠慮なく・・・!!」
「行かせてもらうよっ!!」
ミツタネさんとカダチは同時にスタートを切った。
陸の水草が生えた段差を、二頭は軽快なステップで上がっていく。
「頭を大きく引いて助走を付けてる!水竜流の崖上りかい!?」
「そちらは凹凸のある足の裏で地面を蹴っている。樹上性の地竜の特性を活かしておるな」
互いに褒めるところは褒めて、見て盗めるところはしっかり盗む。
忍者には職人気質に似た物を持っていると聞いたことはあるけど、それはこっちの世界でも同じか。
「なんだか楽しそうですね、カダチ」
「ん?ああ、そうだな」
レムアの言う通り、蓮の花を目指してるカダチは、とってもイキイキとしてる。
まぁ確かに?
別の流派の忍竜とペアになって行動することなんて滅多にないだろうし、彼女にとってはいい刺激になっているんだろう。
「良い雰囲気だな。あの忍びども」
「うわっ!?」
ヌッといきなりティラエが顔を覗かせて僕とレムアはビックリした。
「だが浮かれてばかりではおらんぞ?ほれ」
ティラエが指す方を見ると、ダインがヒゲを逆立てて、しきりに動かしている。
まるで、ナマズが地震を起こすかのような・・・。
「水よ。荒れ射貫け」
その詠唱とともに、カダチとミツタネさんの周囲にヘビのようにうねる水の塊が現れ、魚のダツみたいに突っ込んでいった。
「うおっ!?いひゃっ!?」
「くっ!?なんだ!?」
カダチとミツタネさんは反射神経で咄嗟に避けることができ、水のダーツは二人から距離を置いた。
「ほう・・・。初撃は防いだか」
「ティラエ様っ!!今のは一体!?」
「あれがダインの力だ。奴のヒゲから発せられる闇属性は、空気中の酸素と水素を水にすることができる。その形と硬さは、奴の意のままだ」
闇属性による、空気中の酸素と水素の瞬時の化合・・・。
「それって・・・!!まさか!!!」
僕の悪い予感を正解と言わんばかりに、カダチとミツタネさんの周囲に、ガンガゼみたいに長いトゲがズラッと生えた水の玉がいくつも現れた。
「空蓮の庭に漂う水気の多いこの空気そのものが、奴の武器。この千年で初となる水の試練・・・。どのような結末を見せるかな?」




