第305話 協会の動き(中)
特級魔法師たちが招集された会議は《双牙》オニルスらの到着によって幕を開けた。まだ空席が目立っていたにもかかわらず、登場と同時に会議を始めたオニルスらに対してモルスカが咎めるかのように事情説明を求める。
「いったいどういうつもりだい、オニルス」
「おっと、これは失礼、モルスカ殿。挨拶がまだだったな」
「誰もそんなもの期待しちゃいないよ。まだ全員揃っていないのにどうして会議を始める」
「ああ、そのことか。それなら問題ない。その空席が埋まることはない」
「それはいったいどういう意味ですか、オニルス殿」
他の特級魔法師は来ないと告げたオニルスに尋ねたのはエルドリオだ。他の魔法師もエルドリオと同じく理由を聞こうと特に何かを言う素振りはない。
他の魔法師たちの反応を見たオニルスは空いている席に目をやりながら口を開き始める。
「言葉の意味だ。ここにいない《雷神》、《炎竜》、《霊鳥》、そしてあの新人はこの会議に姿を現すことはない」
「なぜそんなことがわかるのですか?」
「それは追って説明する」
「じゃあ今日はどういう集まりなんだ」
新たに口を開いたのは使用人に強く当たることで有名なヨーテス。彼の表情はやや不機嫌のように見えるが、それは当然のことだろう。
今回の会議に際して特級魔法師たちに招集をかけたのは紛れもないオニルスだ。その議題については言及していなかったが、ほぼ間違いなく新たに特級魔法師に就任したセイヤのことについてだと彼らは認識していた。
新たに特級魔法師になった者は最初の定例会議であいさつをするのが慣例となっている。しかし今回は定例会議が近くないということもあってオニルスが臨時で招集をかけたというのが表向きの理由だ。
しかし実際は他の特級魔法師たちは定例会議の前に早急にセイヤについての事情説明をライガーに求めようという根端だ。闇属性と光属性を使う稀有な存在をどうしてライガーはこれまで秘匿にしていたのか、そしてその血筋はいったい何者なのかといった諸々の事情が説明されるのを期待していたのだ。
そのため臨時で開かれたというにも関わらずほとんどの特級魔法師たちが今回の会議に出席している。その出席率は普段では考えられないほどだ。
それだというのにオニルスからライガーどころか張本人まで出席しないと言われてしまえば一体何のための会議なのかと不機嫌になってしまうのも致し方ないだろう。
オニルスはあからさまに不機嫌な態度を見せるヨーテスにあきれながらも今回の議題を提示した。
「今日話し合わなければならないのは今後のレイリアについてだ」
「今後のレイリア? なぜそんなことを今さら」
「今さらではない。問題は現在も悪化する一方だ」
「一体何が悪化するというんだい。協会が何をしようとも聖教会に邪魔されるのがオチじゃないのかい」
これまでの度々協会はレイリアを少しでも良くしようと様々な提案を聖教会に届け出たが、ほとんどが話し合われる前に却下されていた。七賢人たちからしてみれば行政に口出しされるのは好ましくはなかったのだ。
そして協会の方も聖教会と全面的に張り合う気はなかったので特に文句を言うこともなく黙り込んでいた。その一因としては聖教会に所属する十三使徒たちがあった。
両者の力関係は戦ってみないとわからないが、協会側はできる限り十三使徒との対立は避けてきた。両者は曲がりなりにもレイリア国民を代表する魔法師であり、その力がぶつかり合えば何が起きるかわからない。なので衝突は避けてきたのだ。
「そのことなら問題はない」
十三使徒の存在を懸念するモルスカに対してオニルスはわずかに笑みを浮かべた。それは彼の左右に腰を下ろしている《剣帝》イスカルと《魔女》クレオノーラも同じだ。
「先ほど七賢人たちより正式にレイリアの施政権を協会へと譲渡してもらった」
「それは本当なのか!?」
驚きの声を上げて立ち上がったのはヨーテス。他の特級魔法師たちも少なからず驚いているようで、ポーカーフェイスで知られる《天使》ミカエラもわずかに表情を崩した。
「一体どういう手を使ったんだい?」
「まさか力づくで?」
「いくら何でも信じられません」
モルスカ、ラフォティア、エルドリオが尋ねる。
「信じられないと思いますが、本当ですよ?」
「奴らはもはや用済みだ」
オニルスの言葉を証明するがごとくクレオノーラとイスカルが答える。
「二人に言う通り、現在のレイリアは協会の手にある」
「よく聖教会が許したもんだね」
「十三使徒は何も言わなかったのですか?」
レイリアの施政権を奪おうなどとすれば当然十三使徒たちが介入してくるはずである。一体どうやって十三使徒を黙らせたのかという疑問が一堂に湧くが、答えは思ったよりも単純だ。
「その十三使徒たちが聖教会の、七賢人たちのもとを去った。聖騎士アーサー=ワンをはじめ、シルフォーノ=セカンド、ガゼル=サード、レアル=ファイブら総勢七名の十三使徒が正体不明の軍勢とともに姿を消したんだ」
オニルスの言葉を聞き、何も言えなくなってしまう特級魔法師たち。いくら彼らでも十三使徒の半数が同時に七賢人の下を去るとは想像もできまい。
反旗を翻したのが協会の人間ならまだ理解できただろう。特級魔法師たちは一度は七賢人たちの意にそぐわなかった存在。そんな彼らが協会として聖教会と対立するのはまだ考えられる。
だが今回反旗を翻したのは聖教会に従順だった十三使徒たちだ。それが意味するところはある種の革命ともいえよう。このことが国民に知られてしまったならば、レイリア王国はどうなるかわからない。
衝撃の事実を前に何も発することのできない特級魔法師たちの中、最年長のモルスカだけが口を開いた。
「その第三勢力が何者なのか見当はついているのか?」
「確証はないが、エムリスという男が関わっている」
「エムリス!? まさか神時代の旧臣が生きているとでもいうのかい」
「やはりあんたは知っていたか。七賢人アルフレード卿も七神官のことは知っていた」
エムリスの存在を知るモルスカに対してオニルスは詳しい説明を求めた。この場にいる中で最年長のモルスカ以外エムリスを知らなかった。
「私も直接会ったことはない。だが口承によると創造主ノアの下に仕えた七神官の一人であり、初代聖騎士アーサーの師を務めた人物と言われている。しかしノア死亡後に姿を消し、その後は誰も知らない王国時代の重鎮」
エムリスの説明を聞いた特級魔法師たちみな黙り込んでしまう。常識的に考えればノアの時代の人物など生きているはずがない。しかし同時にそれほどの人物が生きていたならば今回の事態も理解できるのだ。
聖教会に忠実な十三使徒たちが七賢人たちに反旗を翻してまでも仕える存在などほかに思い当たらないから。
「まさか十三使徒たちが……」
「確かに半分も抜けたら協会との力関係も変わってくる」
「それなら無理に施政権を保つよりも協会に一時的にでも譲渡して問題解決に当たらした方が得策ということですか」
「こっちは十三人残っているからな」
ヨーテスの何気ない言葉にオニルスが一瞬だけ目を逸らす。その動作を《覇者》シキルファスは見逃さなかった。
「まだ何かあるのか?」
「チッ、ここで気づくか。クレオノーラ」
「仕方ないわね。今、ここにいない四名もそのエムリス一派と合流した可能性が高い」
クレオノーラから告げられた言葉に一同は再び言葉を失うのであった。




