第306話 協会の動き(下)
聖騎士アーサー=ワンをはじめとしたレイリア王国を代表とする七人の十三使徒、そして彼らと同等の力を持つ特級魔法師が四人。これほどの戦力が一斉に他の勢力へと寝返ったという事実は残った特級魔法師たちの言葉を奪うには十分すぎた。
その場にいた全ての特級魔法師たちがクレオノーラから告げられた可能性に黙り込んでしまう。
「事態はかなり深刻だ」
オニルスの言葉に厳しい表情を浮かべることしかできない特級魔法師たち。彼らの中でも一番経験値の多いモルスカでさえ未曾有の事態にどうすればいいのか決めかねている様子だ。
十三使徒をはじめとする聖教会から独立した特級魔法師協会は名目上、今回のような事態に対処するために設立された。しかしその特級魔法師たちもが寝返ったとなれば特級魔法師協会が独立した意味がない。
これは最早、聖教会と特級魔法師協会という枠組みではなく、レイリア王国と第三勢力といった構図で対処した方が善いことは誰もが理解していた。
けれども誰一人として聖教会と協力しようと提案する者はいない。それは彼らが、そして七賢人たちが協力体制を望んでいなかったから。
傍から見ればそこにあるのは取るに値しないプライドだろう。だがそんなちんけなプライドでも国を代表する魔法師たちにとってみれば何よりも大事なものであった。
「それでどうするのかしら」
「まあ普通に考えるなら、この事態を国民にも知らせるべきだろうね」
ラフォティアの言葉に答えたのは最年長のモルスカ。特級魔法師協会での経験が一番長い彼女の意見はこのような事態においては頼りがいのあるものだ。
だがモルスカの考えにオニルスが異議を唱える。
「いや、公表するのは十三使徒たちについてだけだ」
「どういう意味だい?」
「そうですオニルス殿。まさかライガー殿たちのことは知らせないと?」
「いつかバレるぞ」
オニルスの意見に次々と批判の声が飛ぶが、オニルスだってそんなことは重々承知している。しかし事実をありのままに知らせたならば、この国があれることなど容易に想像がつく。
それは特級魔法師協会としても避けなければならない事態だ。
「仮にすべてを公表すれば聖教会だけでなく、協会に対する不信感も募らせるだけだ」
「国民の不安を和らげるために協会は機能していると見せかけるということですか?」
「そうだ。聖教会がだめでも協会が機能していれば国民は安心できるはずだ」
「だが兵力はどうする? 特級魔法師たちがいるのに徴兵を試みるのは不自然だ」
ヨーテスの意見はもっともだ。仮に十三使徒の半数が謀反を起こしたとしても、十三使徒たちに欠員がなければ新たに兵力を補充する必要はない。残った十三使徒の序列が低いことを鑑みても、十三人の特級魔法師と残りの十三使徒を合わせれば数の上では有利なはずだ。
それだというのに兵力の補充、ましてや魔法学園を通して学生の徴兵を試みるのは不自然である。
むしろそのことに対して国民たちの不信感が募ってしまうかもしれない。そうなれば協会に対する信頼も失われてしまうだろう。
「徴兵に関しては公にはしない。各学園の学園長に適当な理由をつけて知らせる」
「それで筋が通ると思っているのかい?」
「今は緊急事態だ。そんなことを気にしている暇はない」
「ですが一般の魔法師たちにはどう説明するのですか? 彼らは適当な理由では済まされませんよ」
「それなら問題はない」
何か考えがあるようなオニルスに一同が息をのむ。
「ある連中に協力要請を出そうと思う」
「ある連中ですか?」
「そうだ。今回謀反を起こした十三使徒、そして特級魔法師たちに恨みがあるであろう人物だ」
「どういう意味だい?」
「そのままだ。今回謀反を起こした十三使徒たちの名前を考えてみろ」
この場にいない特級魔法師。つまりセイヤ、ライガー、イフリール、クラザス。その四人のうち、三人にはある共通点があった。
「いまいちピンとこないね」
「なら言い方を変えるか。その連中たちに関係する若い世代だ。具体的には学生魔法師」
「まさか」
そこでモルスカが気づく。一拍おいて他の特級魔法師たちもその共通点に気づいた。
「そう。レアル=ファイブ、キリスナ=セイヤ、ユア=アルーニャ、ヂル=ネフラ。どれも先のレイリア魔法大会で功績を残した魔法師たちだ。そしてそんな魔法師たちに恨みを持っているであろう人物」
オニルスの策はあまりにも非常識な考えであった。それはある種の禁忌であり、この国を更なる混沌へと誘うかもしれない策だ。普通に考えればありえない、選んではいけない選択。
しかしこの緊急事態においては選ぶ価値が十二分にあるものだった。
「魔王デトデリオン=ベルゼブブ……」
「その通りだ。奴らは協会にとっても敵だが、エムリス一派にとっても敵なはずだ。敵の敵なら協力するのに障害はない。それに魔王たちも復讐の機会をかがっているはずだ」
「ですが協力がダクリアと手を組むなど」
「言い方が悪かったな。協力ではなく利用するんだ」
デトデリオンたちの復讐心を利用したその策は現状を打破するのには魅力的な策だった。しかし特級魔法師としての良心がその策を拒む。
「それに奴らから適当に兵を出してもらい、レイリアの危機を演出することができれば一般の魔法師たちも武器を手に立ち上がるはずだ」
先の一件でレイリア国内の魔法師たちの愛国心はさらに強くなっている。そんな時にレイリア魔法大会侵攻事件の黒幕が現れれば一般の魔法師たちが武器を手に立ち上がる姿など容易に作り出すことができるのだ。
これこそがオニルスの考え付いた現状を打破することのできる策であり、同時にこの国を協会が支配するための手段でもあった。けれどもまだ問題があった。
「ですが誰が魔王たちと接触するのですか?」
エルドリオの質問は最ものものだった。レイリアを代表する特級魔法師たちが魔王たちとの連絡手段を持っているわけがない。連絡が取れなければ協力関係など築くことは不可能だ。
「それが問題だ。だがこの中の誰かがやらなければならないのもまた事実」
オニルスがチラリとラフォティアたちの方を見た。おそらく彼としてはラフォティアにその使者の役割を任せたいのだろう。
《豊樹》ラフォティアは特級魔法師たちの中でも顔が広いうえに交渉事が得意な人物だ。《魔女》クレオノーラのような問題のある性格の人物を送るよりも断然成功率が高い。
「なるほど、私に行けと」
「頼めるならぜひお願いしたい」
「あなたの思い通りに動くのは癪ですが、この状況では私が行くしかなさそうですね」
「それなら俺も行こう」
ラフォティアの動向に声を上げたのは《覇者》シキルファス。ラフォティアと協力関係にある彼が手を上げるのはオニルスの想定の範囲内だ。
こうしてダクリアへの使者が決まろうとしていたその時、一人の男が手を上げた。
「その役目、俺がやろう」
「なに、お前が? 一体どういう風の吹き回しだ、ミカエラ?」
声を上げたのは意外にも《天使》ミカエラだった。普段の彼では考えられないような積極的な行動に一同は驚きの表情を浮かべる。
しかしミカエラは構わず話を進めた。
「俺は個人的にダクリアにパイプがある」
「それは初耳だな」
「そのことについて語るつもりはない。だが成功率が高い方がどっちか、わかっているはずだ」
ミカエラの高圧的な態度にオニルスが不機嫌そうな表情を浮かべる。しかし事態が事態なだけに個人的な感情で動くわけにはいかない。
「ちっ、わかったよ。お前に任せる」
「ふん」
こうして《天使》ミカエラがダクリアへと派遣されることになるのであった。
やっとカクヨムで公開していた所まで追いつきました......




