第304話 協会の動き(上)
場所は打って変わりレイリア王国中央王国。そこはレイリア王国の首都ラインッツのある地域であると同時に、この国を統べる聖教会がある場所だ。
しかしレイリア王国の人々にとってそれだけが特別なわけではない。中央王国にはこの国に十三人しかいない特級魔法師たちだけが所属することのできる特級魔法師協会の総本山があるのだ。
首都ラインッツが襲撃された際に聖教会の代わりに機能できるようにと首都ラインッツとは異なる街に作られたその本部は一年を通して使われることはほとんどない。
そもそも特級魔法師協会という枠組み自体が聖教会が手に負えない連中の分類のため、集まって何かしようとする考え方の方がおかしい。集まるとすれば、レイリアにおける危機か、一部の特級魔法師たちの私的な用事に使われるくらいだろう。
だからその日、特級魔法師協会のある町の人々は続々と集まってくる特級魔法師たちの姿を見て驚きの表情を浮かべていた。その中には不安げな表情を見せる者もいるが、それは特級魔法師たちの表情が厳しいことを考えれば当然かもしれない。
「ふん、一体何の用でこんなところまで」
「旦那様、こちらの荷物も場所から降ろしましょうか?」
「はぁ? それは泊りの着替えだろ。下ろすわけがあるか」
「も、申し訳ありません」
「たく、聖教会から派遣されたから使ってやるものの、つくづくお前は使えないな、メル」
「申し訳ありません」
特級魔法師協会の前で声を荒げる男性の名前はヨーテス。《陰者》の異名を持つ特級魔法師の一人にして、この協会に招かれた人物の一人だ。同行人は聖教会が特級魔法師就任の際に派遣する使用人のメル。
「お待ちしておりました、ヨーテス様」
「他の奴らは?」
「半分ほどがご到着しております。ヨーテス様もこちらへ」
「ああ」
ヨーテスは使用人に対する仕打ちがひどいといのは特級魔法師たちの中でも有名である。メルは馬車から必要な荷物だけを持ち出すと協会の中へと姿を消したヨーテスを追う。
協会の管理を任されている魔法師たちはヨーテスの使用人に対する仕打ちに不満を覚えながらも彼を案内するしかない。仕事に私情を挟めないのは普通なことだが、だからといって彼らも気持ちの良いものではないので多少だが表情が曇る。
しかしヨーテスは気にした様子も見せずに案内されるがままに他の特級魔法師たちのいる部屋へと向かう。
「こちらです」
「ご苦労。おいメル、早くしろ」
「も、申し訳ありません。ただいま」
荷物を両手で重そうに運ぶメルに舌打ちをしながらヨーテスは部屋の中へと入る。
「ふん、随分と集まっているじゃないか」
扉を開けて部屋の中へと入ったヨーテスは中にいた面々を見てそのような感想を漏らす。部屋の中にいた人影はすべてで五人。全員が特級魔法師の称号を持つ者たちだ。
「相変わらず使用人に対して当たりが強いのですね。ヨーテス殿は」
「エルドリオか。先のダクリア侵攻では随分と活躍したそうじゃないか」
部屋に入ってきたヨーテスに一番に話しかけてきたのはセナビア魔法学園出身の特級魔法師であるエルドリオ。彼のあいさつに対してヨーテスは皮肉を交えて挨拶を返す。
ヨーテスの言う先の侵攻とはもちろんデトデリオンたちが中心となって引き起こしたレイリア魔法大会への介入だ。その際、会場の近くにいたエルドリオは何もすることができなかった。
そのことをヨーテスは言っているのだ。
「まったく性格がひん曲がった男ね」
「まさかお前が来ているとはな。ラフォティア」
「あいにく私はあなたのように暇ではないので」
「まだシキルファスと一緒にコソコソ何かをやっているのか」
「ええ、まあ」
ヨーテスに言葉をかけたのは《豊樹》の異名を持つ女性。彼女が特級魔法師協会の集まりに顔を出すのは珍しく、そのことをヨーテスはいっているのだ。
「そしてお前は今日も仮面をつけているのか。シキルファス」
「別に問題があるわけではない」
「ふん、陰気なやつめ」
シキルファスとは《覇者》の異名を持つ魔法師であり、常時仮面をつけていることで有名だ。その素顔を見たことがあるのは特級魔法師でも《豊樹》ラフォティアだけと言われている。
実をいうと同じ特級魔法師でも全員全員不仲という訳でもなく、仲には関係が良好な者もいる。例えばこの《豊樹》ラフォティアと《覇者》シキルファスの二人が協力関係にあることは有名な話だ。他にも例えば《雷神》ライガーと《炎竜》イフリールの二人などもだ。
または聖教会に現れた《双牙》オニルス、《剣帝》イスカル、《魔女》クレオノーラなども協力関係にある典型的な魔法師だ。
逆にエルドリオやヨーテスは特に他の特級魔法師と協力関係を持たない魔法師である。
一通りのあいさつを終えたヨーテスが指定された席に着く。特級魔法師協会では会議室に入ると割り当てられた椅子に座るのが慣例になっているため、ヨーテスは素直にその慣例に従った。そして彼の後ろに荷物を持ったメルが控える。
「まさかお前までいるとは、どういう風の吹き回しだ?」
指定された自らの席に着いたヨーテスが左隣にいる金髪の男性に話しかけた。その男性は金色の肩にかかるほどの長髪の男性であり、身にまとう気品は見る者を魅了するほどだ。
彼はその整った顔立ちとサラサラとした金髪、そしてサファイアのように美しい青い瞳から《天使》の異名を司る特級魔法師、《天使》ミカエラである。
彼もまた、このような場に姿を現すのが珍しい人物だ。
「貴様に答える必要はない」
「ふん、お前もお前で可愛げのねえ若造だな」
ヨーテスからしてみれば十歳ほど離れているミカエラはまだまだ若造だ。しかしミカエラはそんなヨーテスに対して特に敬った態度はとらない。
同じ特級魔法師という地位である以上、両者は対等な立場だが、それでもエルドリオのように年上に最低限の礼儀を払う魔法師はいる。
だからヨーテスはミカエラの態度にやや不機嫌そうな表情を浮かべた。
「まぁまぁ、そんなにケンカしないで。同じ特級魔法師でしょ」
二人の間に割って入ってきたのは特級魔法師協会で最年長の年配の女性。彼女もまた特級魔法師の地位を持つ《魔笛》のモルスカだ。
《魔笛》モルスカかは最年長ということもあって特級魔法師たちのまとめ役でもある。また毎回の会議に参加しているため他の魔法師たちとも良好な関係を築いている協会に欠かせない存在だ。
「モルスカさん、あんたなら今日なぜ俺らが呼ばれたか知っているんじゃないか」
ヨーテスはモルスカを見るなりいきなり話題を変えた。実を言うと今日の会議の議題は特級魔法師たちにも知らせれてはいないのだ。
「さあ、オニルスからの連絡を受けただけだからねぇ」
「そうか。あんたが知らないとなると、あの野郎はいったい」
「でもまあ、この現状についてじゃないかしら」
「ライガーたちの一派か」
「そうでしょうねぇ。あとは噂の新人くんかしら」
モルスカの言葉にその場にいた全ての特級魔法師たちがそれぞれの反応を見せる。セイヤが特級魔法師になったことは既知のことだが、協会としてセイヤのことを認めたかと言われれば、そうとも言えない。
通常は就任後に開かれる協会の会議でその存在を認められることになっているから。
「果たして彼らはくるのかねぇ」
会議室にモルスカのそんな声が響くと、ちょうど扉が開かれ、一同がその人物に視線を向ける。
「これはこれは皆さんお揃いで」
部屋に入ってきたのは《双牙》オニルス、《剣帝》イスカル、《魔女》クレオノーラの三人だった。




