11話 執事としての1日
今日は2話更新となります。こちらが1話目です。
執事として働き始めてから一週間が経過した。他の執事の方とも仲良くなってきたし、メイドの人とも仲良くなった。仕事の合間には、リザルトさんなどから回復魔法『ヒール』を教えてもらっていた。俺は必死に『ヒール』を練習して、3日かけて習得した。普通は5日くらいかかるらしい。まあ、そこそこってところだ。前世での人体の構造についての知識があったからと、この職場の危険度への恐怖から多少早く習得出来たんだろう。この職場では『ヒール』は必須だ。何故?決まっている。お嬢さまにボコボコにされるからだ。
俺はこの一週間で9回骨折、5回気絶、14回流血した。執事のするケガじゃない。毎回リザルトさんやメイドの人に治してもらうのだが、流石にそう頻繁にお世話になるのも悪い。自分で治すようにしようとしたのだ。
今日は何回殴られるだろうか。ただの怪力娘ならいいのだが、しっかりと戦王の血を受け継いでいるらしく、色んな武術を使ってくる。空手の様な技や柔術まで使う。俺の実力の半分くらいはある。避けれないまでは行かずとも、かなり避けにくい。それに、たまに不意打ちをくらう。気配や殺気を完璧に消してくる。怖い。あんなもん少女なんて言わねーよ!
俺の毎日の行動パターンは決まっている。朝、朝食が出来るまで食堂で準備を手伝う。クロスを拭いたり、椅子を拭いたりする。その後にお嬢さまの部屋の前まで行き、お嬢さまを呼ぶ。
「おはようございます、お嬢さま。朝食の準備が整いました」
「………分かった、どっか行って」
「はい」
んで階段まで戻り、お嬢さまが来るまで待つ。ここが最初の山場だ!お嬢さまの機嫌がいい時はそのまま素通りされる。機嫌が悪いといきなり蹴り落とされたり、ぶん殴られたりする。ひたすら耐えるしかない。怖い。
「……………」
「……………」
お嬢さまが出てきた。今日のドレスは赤か……よし、無言で直立不動だ、心を無にするんだ!
「…………」
「…………」
お嬢さまが俺の前に立って俺を見ている。………俺、なんかしたっけ?これは殴られるパターンだ、ヒール準備しとかないと………。
「…………ねえ」
「…………はい」
「君が執事始めてから今日で何日?」
「………今日で9日目ですね」
「記録更新だよ」
「へ?」
思わず変な声が出てしまった。記録更新って……なんの記録だろうか?
「今までの最高記録は8日なんだ。君を認めてあげよう。あんまり殴らないようにするよ」
「はあ………ありがとう…ございます」
「さて、今日の朝食は何だろうか 」
………最近気付いた事だが、多分お嬢さまは男嫌いではない。本当に本気で男嫌いならば触れる事も嫌がるだろうし、話そうともしないだろう。ましてや、最高記録なんか覚えたりしない。しかし、俺やリザルトさんに対する殺意は本心からのようだし、殴ったりするときにも一切手加減や躊躇は無い。男嫌い、と言うより何か男に対しての恐怖があるように思える。しかし奥様はただの男嫌いと言う……なんか引っかかる。
朝食が終わった後、リザルトさんが何か神妙な顔で俺に話しかけてきた。
「おい、リテラ」
「……?なんでしょうか」
「ここ最近、買い出しに行っているメイドや料理人たちが変な奴に城の内部の様子なんかを聞かれているらしい」
「それがどうかしたのですか?」
「それとは別に、アリスお嬢さまに対して恨みを持っている人物が裏で色々と動いているという情報も入っている」
「…………そう言う事、ですかね?」
「そう言う事だ。気を付けろよ」
「ちなみに、相手は?」
「………アドリガの第一王子」
ん?どっかで聞いたような……あ、アリスを襲った奴か。ここまでするとは……かなりのクズなんだろうなぁ。
「分かりました。警戒しておきます」
「もしものことがあったら……」
「……あったら?」
「一族郎党皆殺しだ」
うわぁ怖い……。てか一族郎党とか、こっちの世界にもそんな言葉あるのかよ。
「………頑張ります」
「ああ。まあ、アリスお嬢さまの事だ、その辺の冒険者なんかが雇われただけだったなら大丈夫だろうが念のため、な」
「何が起きるか分かりませんからね。お嬢さまなら大体の事は正面からねじ伏せそうですけど」
「だな。ま、とにかくそう言う事だ。アリスお嬢さまをよろしく頼むぞ」
「任せて下さい」
リザルトさんと別れて3階に向かう。
朝言われた通りならあまり殴られなくなってるはずだ。なんて有難い。殴られない事にこんなに幸せを感じた日は無い………。
「……ッ!?」
「あれ?こんな所でどうしたんですか?マニさん」
階段を上り3階に到着すると、廊下の曲がり角からメイドのマニさんが出てきた。少し息が荒く、汗もかいている。それに、俺を見た瞬間何かをポケットに隠した。…………怪しい。
「ちょ、ちょっと奥様に呼び出されてね………」
「あ、そうなんですか?どんな事だったんですか?」
「………君みたいな子供にはまだ早い話かな?」
そう言ってマニさんは足早に階段を降りて行った。
………もしかして、息が荒いのとか汗かいてたのってそんなことですか?って騙される訳無いだろう……。
奥様──ミスティア様のバルドゥークの溺愛っぷりは異常だ。浮気をするような人ではないし、ましてや同性愛者でもない。大体そうだったとしてもこんな朝っぱらから、有り得ないだろう。朝食を食べてから30分と経っていないのだぞ?………いや、確か食事の席にマニさんは居なかったな。
………きっと何かしら事情があるんだろう。あんなに優しいマニさんがそんなことする訳がない。
俺はそう自分に言い聞かせ、階段近くの壁に寄りかかった。
それから一時間、何事も無くそろそろ退屈になってきた。さて、魔力操作の練習でもしようかとしたその時──
『リテラー、居るんでしょー?』
お嬢さまが俺を呼んでいる!?
「はい、なんでしょうかお嬢さま」
俺はすぐさま部屋の前まで行く。おお、執事っぽくなってきたじゃないか!これだよ!お嬢さまのワガママをたしなめるカッコイイ、クールな執事になりたかったんだ!
『食堂に行って紅茶を貰って来てくれないかい?』
「かしこまりました。お茶請け等は必要でしょうか?」
『適当に見繕って』
「かしこまりました」
いいね、いいね!ワガママじゃなかったけどお嬢さまのお茶を用意するなんて、まさに執事!!って感じじゃないか!
俺はそうやって浮き足立ったまま、食堂に向かった。
「お嬢さま、お茶とお茶請けをお持ちさました」
俺がチョイスしたお茶請けはクッキーだ。実はチョイスしたと言うよりそれしか無かったのだ。他の物は全て奥様と第二王女のリーナ様が持って行ったからだ。まあ、しょうがないと割り切るしかない。少し味見したら全く合わないってわけでも無かったし。
しかし、返事が無いな。……どうしたんだろうか、部屋に人の気配がしない。トイレか?………まさか……。
「お嬢さま!?」
「………」
お盆を置き、勝手に部屋に入る。お嬢さまは……居た。部屋の真ん中で正座して瞑想していた。周りに溶け込んで部屋の一部分のようにも見えた。
俺は思わず一瞬だけ見とれてしまった。お嬢さまは着替えていて、白いショートパンツに普通のシャツを着ていた。王族が着るような服ではないが、似合っていた。
「………何で勝手に入って来てるのさ」
「いや、お茶を持ってきたんですが返事が無かったもので」
「………そこに置いてて」
「はい」
お嬢さまに言われた通り近くにあるテーブルに、お盆を拾ってお茶とお茶請けを置く。
そしてすぐさま退出。何されるか分からんからな。そして階段に戻る。
意外と部屋はそんなに広くなかった。15畳くらいだろうか。普通の家からしたら広いだろうが、この城の部屋としては比較的狭い方に入る。いい匂いがした。
「あー……退屈だ」
そう呟いて俺は魔力操作の練習を始めた。最近は暇があれば魔力操作の練習をしている。体内で任意の量だけ魔力を動かして、腕だけを強化したり、目を強化して視力を爆発的に高めたりする事ができる。だが、俺は魔力総量が異様に多い。過剰に魔力を供給してしまう事が多々ある。素早く動きたい時も、下半身だけ強化すればいいのだが、全身強化をしないといけなくなる。下半身だけの強化が出来ないのだ。
それらを克服するために魔力操作を練習している。なかなか難しいが、これも会得出来れば戦闘で有利だ。頑張ろう。
その日は他に大したことも無く終わった。その次の日も。
事が起きたのはその次の日だった。
「街に行きたいな」
「街?いいんじゃないの?護衛の衛兵さんたちを連れて行きなさいよ」
朝食時、お嬢さまがそう言い出した。服とアクセサリーが欲しいそうなのだ。
衛兵が5人と俺、メイドが2人付いてくる事になった。メイドのうち1人はマニさんだ。
「色んな物があるねー」
「お嬢さま、余りはしゃいでは転んでしまいますよ」
お嬢さまは黒いタイトスカートに白いシャツを着ていた。腰には短剣が差してある。王族なのに庶民の格好をすることに一切抵抗が無いみたいだ。いや、悪い事じゃ無いけど。
お嬢さまだけなら余り目立たないだろうが、今はかなり目立っている。まあ、当然っちゃあ当然だろう。
お嬢さまは属国に行っていたため、顔を知られていない。普通の女の子がメイド2人と執事1人とゴツい甲冑着て槍やらハンマーやら担いでるのを5人も従えていたら明らかに異常な光景だろう。
お嬢さまは目線も気にせず露店を眺めたり、良さそうな店に入ったりと年相応にはしゃいでいる。
俺は王都にはちょくちょく来ていたが、大抵城にしか行ってなかったので、メインストリート以外は殆ど通っていない。
今居るのはメインストリートの東側に位置する『女性街』に居る。
王都の城壁内には5つのエリアがある。城周辺の、貴族など身分の高い者が住む、南側のエリアが『貴族街』。西側に位置するのは、外から来た冒険者などをもてなしたり色んな道具を売る、冒険者の為のエリア『冒険者街』。北側にあるのは、男の人向けの店が多くあるエリアの『男性街』。中央には、色んな物や種族が入り乱れ、沢山の店があり活気あふれるエリア、『中央通路』。そして今居る、東側の女の子の為にある街、『女性街』がある。
いつかボーイズタウンをゆっくりと見てみたい。
「…………あ」
「どうなされた?リテラ殿」
俺に話しかけてきたのは護衛長のダグさん。40歳と少し歳をとっているが、バリバリの現役。鉄の甲冑を着て2mはある槍を担いでいる。
「いえ、少し気になった人が居まして」
「………ほう、リテラ殿がそう言うなら怪しいですな。頼めますかな?」
「ええ、お任せ下さい」
そう言い残し俺は雑踏に入って行く。
ダグさんや護衛の人たちは俺の実力を知っている。たまにリザルトさんと手合わせをしたりしているのを見ていたらしく、彼らの方から話しかけてきた。武術のコツなどをいくつか教えたりした。どうやらリザルトさんはこの国でも5番目の実力者らしい。1番はもちろん国王。2番目は騎士団長らしい。俺は騎士団長とはまだ会ったことが無い。忙しい人らしく、彼も俺に会いたいと聞いた事はあるが、時間が取れないそうだ。
さて、さっき見つけた奴は裏路地に入って行った。その後を追い路地裏に入る。
「うわっ」
「おい、ガキ……何してんだ?」
男は曲がり角を曲がった先で立ち止まっており、俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた。もちろんわざと見つかってわざと胸ぐらを掴ませてあげた。いきなり色々しても返って怪しまれる。こんな時、ガキの体は便利だ。
「な、何の話でしょうか?」
「しらばっくれるな!俺をつけようとしてただろうが!」
「誤解ですよ!」
「お前があの王族と一緒に居たのも見てたぞ!殺すのは……マズイな。閉じ込めとくか」
「そ、そんな!……なんちゃって」
「なっ!?い、いででででで!!あっ、ギャァァァァァア!!」
男の人差し指を掴み、強化した腕でゆっくりと曲げてへし折る。本当は指単位で強化したかったが、それはまだ無理なので腕を強化した。
俺はそのまま地面に降り立ち、男を見据える。男は指をヒールで治し、怒り狂うように叫び懐からナイフを取り出した。
「このクソガキが!ぶっ殺してやる!!」
「あー、そういや武器とか持ってなかったな、俺。……そのナイフ、上物みたいだし、ちょうだい?」
「死ねやあああぁぁああ!!」
男は俺にナイフごと突っ込んで来る。俺はそれを正面に見据えて動かない。男と俺がぶつかるという寸前で、俺の体が宙に浮いた。
「はあ!?」
「うん、色も微妙に調節出来るみたいだな」
俺の体を浮かせたのは、2本の裏路地の薄暗い色に合わせて色を変えられたテンタクルスだ。男の仰天している顔につい綻んでしまう。
「実験終了。後から話聞くから今は寝ててね。おやすみー」
「な、な……」
男は背を向けて逃げ出そうとしたので、男の頭に魔力ゴム弾を喰らわせて意識を奪った。
「はい、ダグさん」
「おお、無事でしたか。こいつは強そうな奴ですな」
「棒読みですよ」
「はっはっは!!最初からそんな心配はしておりませんからな。ありがとうございます、リテラ殿」
「いえ、お嬢さまの執事として当然です」
座っているダグさんの横にテンタクルスで簀巻きにされた男を投げ捨てた。
「武器とかは持っていませんでしたかな?」
「ええ、素手でしたよ。魔法使いかもしれませんね」
真っ赤なウソ。男が持っていたナイフは既に回収済みである。やはりなかなかの上物であった。鉄で出来た、バタフライナイフのような折りたたみ式ナイフ。魔力を通しやすい素材で出来ているのか、魔力で硬度や切れ味を強化することが出来た。
いい贈り物をありがとう、君。
俺はそう心の中で呟いた。
「お嬢さまはどちらに?」
「奥の個室で昼食を取っております」
ダグさん達はメインストリートに移動していて、こじんまりとはしているが、人が集まっていかにも『町の定食屋』みたいな感じの店の前に居た。護衛の人は真ん中のテーブルで飯を食っている。ダグさんは外で1人愛妻弁当を食べていた。そこに俺が来た、というような状況だ。
「よいしょ、隣失礼します」
「おや、中で食べないのですかな?」
「いくら姿が見えないからといっても、お嬢さまと同じように食事をするのは使用人としてなっていないと思いますので」
「いやはや、リテラ殿は素晴らしいですな…おや、それは?」
「サンドイッチと言う料理です。一つ食べてみますか?」
「いいのですかな?では、遠慮なく」
このサンドイッチは俺が朝食の後に作った物だ。お嬢さまが街に行くと言っていた時から昼食は一緒に食べるわけにはいかないと考えていた。なので、料理人の人達に頼んで余っている材料を分けてもらったのだ。食パンは、この世界の人にはどうやら好かれていないらしく、大量に余っていたのでサンドイッチを作った。
料理人さんたちにも作り方を教えてきたので今頃ミスティア様たちもサンドイッチを食べているところだろう。料理人たち、サンドイッチをえらく気に入って色んなもん挟んでたからな。つまりダグさん、王族とおんなじもん食ってる。そんなこともつゆ知らず、サンドイッチをもふもふと頬張るダグさん。髭にパンくずが付いてる。
「こ、これは美味い!リリルのシャキシャキした瑞々しい食感と焼かれた肉が実に合っている!」
「お気に召されたようで何よりです」
俺は2種類のサンドイッチを作ってきた。一つはダグさんが食べているリリルと焼いた肉のサンドイッチ。リリルは葉野菜。レタスに似ているが、色が白い。肉はビッグボアの肉。ビッグボアは、大きな猪みたいな魔物らしい。それの熟成肉を薄切りにして塩コショウし、焼いて挟んだだけ。シンプルイズベストだ。
もう一つは肉を厚くしただけ。その代わり味付けに、調理場にあったソースを使った。味を見てみると前世のウスターソースに似た味だったので、それを使った。当然こちらもリリル入り。料理人たちは俺の料理する姿に関心していた。
「これは店を開けるんじゃありませんかな?リテラ殿」
「店、ですか?いや、それは難しいでしょう。材料の確保や場所、それに人手も資金も必要です。それに、俺はお嬢さまの執事ですから」
「………せめて安定してこれ、サンドイッチでしたっけな?サンドイッチを食べたいですな」
どうやらダグさんはサンドイッチにハマったようだ。目がキラキラしている。
「じゃあダグさんの奥様にサンドイッチの作り方をお教えしましょうか?」
「い、いいのですか!?」
「ええ、勿論です」
「ありがとうございます、リテラ殿!!」
まさかそんなに気に入ってくれるとは思わなかった。ダグさんにちょっと引きつつも握手する。
「あ、騎士団本部の料理人にも教えてやれませんかな?私はあそこに泊まることも多々ありますゆえ、1日でもサンドイッチが食べられないのは嫌ですから」
まさか、サンドイッチを毎日食べるつもりなのかこのオッサンは!?これは中毒レベルだ、サンドイッチ中毒だ!
「わ、わかりました」
「ありがとうございます!!」
そんなやり取りをしていると、他の護衛の4人が飯を食べ終わったようでこちらに近付いてきた。試しにサンドイッチをあげてみたら、これまた大層気に入ったようで、ダグさんから騎士団本部でも食べられるようになるだろうと聞いた瞬間全員が奇声をあげて俺を崇めだした。通行人の目がとても痛かったのですぐさま止めさせたが。
そうこうしてるうちにお嬢さまとメイドも食べ終わり、店から出てきた。その後はあの男のような奴も居らず、何事も無く買い物は終わった。男は途中で交番のような、衛兵の駐在所に連れていった。
「やはり街は活気があっていいですね、お母様!」
「そうね、寂れた街はつまらないものね」
「今度は私と一緒に街に行きましょうよ、アリス」
「もちろんだよ、お姉様」
「俺も明日あたり街に行こうかなぁ」
お嬢さまは大満足だったようで、奥様やリース様にとても楽しそうに話していた。それを見て思わず顔が綻んでしまう。なんとも微笑ましい光景だ。
しかし、1人のKY吸血鬼がこの空気をブチ壊す。
「うぅ、腹が減ったぞぉー………」
食堂にのっそりと現れたのは、げっそりとした『魔道具王』サーシ・ムーティアだった。
「あら、サーシさん」
「そう言えば7日くらい姿見てなかったね」
「何してたんですか?」
「新しい魔法陣見つけたからそれと他の魔法陣の複合と魔道具の作成。のめり込んじゃってね。気付いたら7日も経ってたわけよ」
「相変わらずだね。で、出来たの?その魔道具とかは」
「ああっ、リテラが執事になってる!?」
可哀想にシヴァン王子の問いかけは無視され、サーシは俺に近づきハアハア言い出した。見た目が幼女でも、中身が腐っていると充分に気持ち悪い。
「可愛い!可愛いぞ!」
「わかりましたから離れて下さい。鼻息が荒くて気持ち悪いです。どうせご飯食べに来ただけなんでしょう?」
「連れないこというなよ!ちょっとだけ味見…くぺっ!?」
味見とか言いながらルパンダイブしてきたので空中で顔面に拳を見舞った。地に落ちたサーシが恍惚の表情を浮かべている。本当に残念な人だ。王族の人達も引いている。
「ほら、ご飯食べに来たんなら早く席についてください」
「リテラは食べないのか?」
「俺は執事です。執事が主人と一緒に食事をするのはおかしいでしょう」
「………そんなもんか」
そう呟くとサーシは席についた。ああ、なんと面倒くさい人物だ。どうやら異名が付いてる奴はみんなおかしいようだ。サーシとか死神とか国王とか。
食事が終わると、サーシがまた声をかけてきた。真剣な面持ちでだ。珍しい。
「リテラ、あとから俺の部屋に来い」
「何故ですか?」
「ちょっと試したい魔道具があるんだ」
「面白そうだし、構いませんよ。部屋はどこですか?」
俺はこの城をかなり歩き回っているがサーシが今まで何処に居たか知らない。見つからなかったのだ。そのうちサーシの存在も忘れていた。
「4階全部」
「は?」
「4階はまるまる一部屋になってて、そこが俺の実験室兼私室だ!」
「………贅沢ですね」
「まあな」
ドヤんな。その顔スゲー腹立つんだよ、ガキのくせに。
「わかったか?」
「はいはい、分かりましたよ」
お嬢さまの部屋の明かりが消えた後、俺は4階に向かった。4階は廊下など一切無く、階段を上がったらすぐ目の前に扉があるだけだ。一応ノックはする。
「はいはい、どちらさん?」
「………どなたですか?」
中から出てきたのはエルフのお姉さんだった。
金髪碧眼、尖った耳。髪の毛はセミロングくらい。身長は170cmくらいだろう。胸はあまり無い。スレンダーな人だ。高貴な美しさがある。
服は黒いネグリジェ。何故かその上から白衣のような白い服を着ているが。太ももに目が行かないようにするのが大変だ。
「…………あんたこそだれ?」
「あ、リテラ・ストロフトと申します。ここ、4階ですよね?」
「もしかしてサーシの客か?」
「あ、そうです。居ますよね?」
「ああ、入っていいぞ」
「ありがとうございます。ところで、あなたは?」
「アタシはエルフのエリス・ミッドガルド。王族専用の医者みたいな事やってる。よろしくな」
「よろしくお願いします、エリス様」
「様はやめてくれ」
「じゃあ、エリスさんで」
「いいから早く入りなよ」
「あ、失礼します」
中は巨大なひとつの部屋になっていた。どうやらサーシが言っていたように、本当に階層がまるまる1つ部屋になっているのだろう。
どこを見てもガラクタのようなものばっかりだ。まさかこれ全て魔道具の残骸なのだろうか。奥の方にはベッドなども置いてあった。
サーシを探すと、奥の方で机に向かっていた。
「おい、サーシ、お前の客が来てるぞ」
「ん……?あ、リテラ、来たのか」
「ええ、呼ばれてるんだからそりゃ来るでしょう」
「そうだな。では早速実験を開始しようじゃないか」
「実験?何するんだ、サーシ」
「使うのに物凄い魔力が必要な魔道具作っちゃってさ。俺じゃ使えないんだよ。だから頼んだんだ」
「リテラはそんなにすげぇ魔力持ってるのか?」
「確か100万だったっけ?」
「はい」
「………………は?」
エリスさんが驚愕の表情をしている。そりゃあそうだろう。100万なんて魔力を持っていたのは、歴史上誰一人としていないからだ。最高で40万だったらしいからな。驚かない奴が居たら見てみたい。
「あ、有り得ねーよ100万なんて!アンタホントに人間かい!?魔王とかじゃないだろうね!?」
「正真正銘人間ですし、魔王じゃないです」
「………あんた、めちゃくちゃ強い魔法使いになれるよ。適性は?」
「え?なんて言いました?」
なんか心をがっつり抉られる単語が聞こえたような…………。
「属性適性!あるんだろ?」
「………ナニソレボクシラナイ」
「………まさか、適性無しかい?」
うわあああああ!エリスさんが哀れみの目で見てくるううううう!!どーせ僕はいらない子なんだああああ!!
「………なんか、その、悪かったな」
「うるさいっ!!同情するなら属性よこせ!」
「無理」
「即答するなぁぁぁぁぁあ!!」
もうやだよ………悪意無く言ってるみたいだからさらに質が悪いよ………。
「いつまで漫才してるんだ?早く来い」
サーシが移動し出したので慌てて付いていく。
………なんで俺は夜中に一人称が俺の変態チビ吸血鬼と姉御肌の精神破壊エルフと行動しなきゃいけないんだ?
あれ?目から汗が出てきた………。
神様でも誰でもいいから俺に適性をくださぁい…………
次の更新は三日後か四日後を予定しています。