12話 緊急事態
今日は2話更新となります。こちらが2話目です。
サーシは部屋の中央から少し左側に行ったあたりでガラクタを漁り始めた。実に可愛い姿だ。
見た目だけ見たら、ちっちゃい子がガラクタの山の中から頑張って何かを探しているんだぞ?これを可愛いと言わんのなら何を可愛いと言うのだ。
一応言うが俺はロリコンではない。
まあ、可愛いと言うのは本当に見た目だけだ。耳を澄ますとガラクタの音に混じって「チッ」「これじゃねぇ」「カビ生えてるじゃねえか」とか聞こえてわくる。おっさんだ。紛う事無きおっさんだ。
それに、かなり重量ありそうなものをひょいひょいと投げ捨てていく。腕力もおかしい。何処が可愛いんだこんな幼女の皮をかぶったおっさん。
「しっかし色々ありますね………まさか、これ全部?」
「ああ、魔道具だよ。ガラクタが多いけどいくつかは中金貨5枚くらいする代物も混じってるからな」
「ちゅ、中金貨5枚………」
この世界の通貨は銅貨、小銀貨、中銀貨、大銀貨、小金貨、中金貨、大金貨、天金貨の8つだ。銅貨が日本円にすると10円くらい。それからずっと10倍になる。
一番高い天金貨は1枚1億円だ。高いなんてモンじゃない。
中金貨は1枚100万円くらい。つまり500万円ほどの価値があるものがこの部屋には転がってたりするのだ。
俺はそれを聞いて初めてこの部屋を恐ろしいと思った。
「凶悪なモンも沢山あるからね……付いた傷口に回復魔法が効かず、血が止まることも無い槍とかあったからね」
「そりゃ恐ろしい……」
「お、あったぞ」
「やっとですか。……何ですか?それ」
サーシが持って来たのは真っ黒の四角い台の上に同じく黒くて丸い球が乗っているものだった。大きさは、台は一辺が30cm、高さが10cmほどの直方体。球は30cmくらいの直径だ。
「これは何の魔道具ですか?」
「これは『反射抵抗防御壁発生装置』だ!」
「名前が長いですね」
「名前が長いな」
「うるさい!これはその名の通り『反射抵抗防御壁』を発生させる装置だ。かなりの優れものだぞ?」
「その『反射抵抗防御壁』はどんなもの何ですか?まあ大体予想つきますけど」
「防御壁に攻撃を仕掛けた者に防御壁が魔法陣を展開し攻撃する。この防御壁は闇属性で、相手の強さに合った強さの闇属性魔法を発動させる…ん、どうした?」
「いや………闇属性って、あの闇属性?」
「闇属性の魔道具なんて聞いた事ねーぞ……」
闇属性と光属性の魔法はなかなかにレアな魔法だ。適性のある者がそうそう居ないからだ。この二つの属性の魔法は物理的な防御が出来ないのだ。何故か生きているものにしか反応しない。全く防げない訳ではないが、特殊な魔道具を使うか結界を使わないと防げない。
そんな希少な光・闇属性の魔道具は大陸規模で探してもなかなか見つからない。理由としては、魔道具を造る際に必要な、魔力の塊である『魔石』の、闇属性の物がほとんど採れないからである。光属性の物も少ないが、闇属性と比べるとかなり多いと言えるだろう。
『魔石』の入手方法は主に2つある。
魔物の体内から採取する方法。魔窟から採掘する方法。この2つだ。
魔物の体内から採取するのは簡単で人気がある。だが、闇属性の魔物は実体を伴っていないものが多いので、ごく一部のかなり強力な闇属性魔物からしか闇属性の魔石は採れない。だから少ないのだ。
魔窟で採掘する方法は魔物から採取するよりは簡単だ。魔窟は自然界の環境に魔力が干渉する事によって発生するものだ。中には魔物や、トラップのようなものがある魔窟も存在する。
つまり、魔窟は元々あった環境が更に強化されたような場所だ。闇属性の魔窟が生まれるには、人の怨念や恨み、死が大量に積み重ねられた場所が必要なのである。そのような場所は少ないし、何より大きな魔石が出来上がるのにも時間がかかる。よって、魔石は余り採れないのだ。
「そんなに珍しいか?」
「「珍しいから言ってるんだ(です)!!」」
「闇の魔石なんぞ俺の実家に行ったら結構な量あるぞ。……まあ、あんな堅苦しいだけの忌々しい家になんぞ帰りたくもないがな」
サーシが盛大に表情を歪める。どうやら実家にはいい思い出が無いらしい。
確か前に国王が勘当寸前だとか言っていた記憶がある。
だが、それに一切同情などはしない。何故なら、今までの立ち振る舞いを見る限り反省などは微塵もしてないからだ。過去に何をしたかは知らないが、少なくとも縁を切られそうになるって事はかなりマズい事件を引き起こしたりしたんだろう。それなのに今までそんな素振りすら見せなかったからな。
………あ、いや、だいぶ前の事って可能性もあるな。225歳らしいし。
「それより、お前の実家って何処なんだ?」
「魔大陸奥地の国だ。なので、あっちでは多少有名だがこっちではムーティアの名を知るものは少なかろう。まあ、知っている者は知ってるがな」
「アタシは知らねーな」
「俺も知りませんでした。
それより、もしかしてその魔道具真っ黒ですけど、まさか全部魔石じゃないでしょうね?」
「んなわけ無いだろ。こんな巨大な魔石あってたまるか」
「ですよね、安心しました」
「魔大陸には闇属性の魔石が沢山あるのか?」
「いや、現当主の父が闇属性の適性を持っていてな。空の魔石に魔力を込めているんだ」
「ああ、そう言う事か」
エリスさんが納得している。
魔石は、魔力の入る石に一つの属性の魔力が溜まったものだ。もちろん溜まっていた魔力を使うと魔石は魔力を持たなくなる。その状態の魔石を空の魔石と呼ぶ。
空の魔石には適当な属性の魔力を込めることでまたその魔力を持つ魔石として使えるようになる。
しかし、その状態まで魔石を戻すのに必要な魔力は、サイズによっては違うが最も多く流通している握りこぶしにすっぽり入るくらいの大きさの物で1万だ。少ないとは言い難い。
空の魔石は魔力の入っている魔石ほど値が張る訳ではないが、適性の無い属性の簡単な魔法を使いたいなら売ってある魔法陣の既製品を買えばいい。そちらのほうが多少安上がりだし、手間もかからず魔力も消費しなくていい。
よって空の魔石は大量に売れ残っていたりする。
闇属性や光属性の適性を持つ人がそれに魔力を溜めれば世にも珍しい闇属性や光属性の魔力の完成って訳だ。
「ズルいな」
「ズルいですね」
「俺に言うな。俺がやってるわけじゃないんだから。
お前らのせいで話が逸れてしまったじゃないか。ほら、リテラ、こいつに魔力を入れてくれ」
「分かりました……あの」
「なんだ?」
「どのくらい魔力入れればいいんですか?」
「この魔道具は少し魔力を流せば必要な魔力量を勝手に吸い取っていくからお前は調整しなくていいぞ」
「あ、そうなんですか。普通の魔道具は違うんですか?」
「これみたいなずっと発動してるタイプの物と武器や防具のような回数制限や時間制限がある物は違う。
半永久的に発動するタイプの魔道具は必要な魔力を勝手に吸い取っていく。魔力が無くなったらまた魔力を補充する。それまでは補充出来ない。
回数制限、時間制限があるタイプのやつは自分で魔力の量を調整しないといけない。一回分だけ魔力を流せば一回だけ使えるって感じだな」
「なるほど……」
「いいからさっさとその魔道具発動しろよ!」
「あ、すいません。
じゃあ行きます!」
魔道具を床に置いて魔力を少し流すと、無理矢理体の中から魔力が出ていく感覚があった。かなり吸い取られる量が多い。
球が光りながらゆっくりと宙に浮いていく。50cmほど上がったところで止まり、そこで魔力が出ていく感覚も無くなった。必要量に達したのだろう。
「これ発動するのに魔力30万必要なんだが……流石は魔力の権化のような男だな」
「何ですか魔力の権化って。馬鹿にしてるんですか?」
「ほら、作動するぞ。見てろ」
「話聞けやおいコラ」
球は空中でゆっくりと回転を始め、光が強まったと思うと、周りに黒い光を放った。
「………どうやら成功したようだな」
「もう作動してるんですか?」
球はまだ光りながらくるくると回っている。
「ああ。ありがとう、リテラ」
「別に構いませんよ」
「何か報酬をやろう。何がいい?」
「そうですねぇ……」
「アタシは寝るよ。おやすみ」
そう言ってエリスさんは部屋の奥にあるベッドに向かっていった。
「……無属性魔法に属性を付けることは出来ますか?例えば、火を纏ったショットとか」
「………魔石を使えば出来ない事も無い」
「やっぱり。………紙とペンあります?」
「あるぞ」
「あ、貸してください」
「ああ、いいぞ」
その後、色々と話していると気付いたら外が明るくなっていた。
一睡もすること無く執事をするハメになってしまった。かなりキツいがしょうがない。
まあ、お嬢さまは今日は外出したりしなかったので大丈夫だった。夜は爆睡した。
たまにサーシのところに行くようになってから10日が経過したある日。
「おはようございます、お嬢さま」
返事が無い。また瞑想でもしているのだろうか。
「………お嬢さま?」
しょうがなく扉をゆっくり開ける。しかし、そこに──
「……居ない?」
お嬢さまの姿は無かった。鎧戸が壊された窓からは風が入って来ていた。
「リザルトさん!」
「どうしたリテラ、そんなに慌てて」
「アリスお嬢さまが居なくなりました!」
「誘拐か!?」
「恐らく。木戸が壊されていたので窓から侵入されたかと」
「夜に侵入されたのか………見張りは何をしていたんだ!それに、例のサーシの魔道具は作動していたんじゃないのか!?」
「どうしましょうか?」
「………お前は国王を呼んでこい。私はほかの奴らを集める。1時間後に会議室だ」
「了解しました」
俺はすぐさま屋敷へと向かった。
「国王様!国王様!」
「どうしたリテラ、そんなに顔を怖くして。何かあったのか?遂に大臣か執政が倒れたか?」
「アリスお嬢さまが誘拐されました!!」
「………本当か?」
「急いで城にお戻りください!」
「分かった。ラディウス!」
「分かってるよ。ついて来い」
父上は階段の横まで行くと手をあてて魔力を流していく。すると音を立てて壁が下にスライドし、地下への階段が現れた。
「こんな仕掛けが……」
「いいから急げ!グリード、閉めておいてくれよ!」
「了解しました、旦那様」
階段を降りた先には扉があった。それを開けて中に入ると、ひんやりとした空気が体にまとわりついてきた。部屋の中には黒い扉が一つだけ、ぽつんと佇んでいた。
「この扉は城の最上階の扉に繋がっている。間違い無いな?」
「ああ、大丈夫だ」
「よし、行くぞ」
父上が扉を開くとそこは真っ暗な部屋だった。ホコリっぽくて、長い間誰も入っていなかったのが分かる。
父上、国王、俺の順に入って扉を閉めた。
父上がしゃがみこんで床を探っていたが、どうやら目当てのものを見つけたらしく、立ち上がった。そして壁に手をあてて魔力を流すと壁が横にズレて階段が現れた。
そこを降りて、また扉を開けるとガラクタが大量に積まれている部屋に出た。サーシの部屋だ。
サーシは居らず、そのまま部屋を出る。
「会議室に来いとリザルトさんに言われています」
「分かった」
会議室に行くと、既に人が集まっていた。リザルトさん、サーシ、エリスさんも座っていた。後は大臣たちと、甲冑を着ているのは騎士団長だろうか。
「全員揃いましたね。では会議を始めます。議題は皆様分かっていると思いますが、『アリス様の誘拐』についてです」
「現時点で分かっていることを話せ」
いつになく国王が真面目だ。まあ、娘が誘拐されたのだ。当たり前だろう。これでもいつもと変わらずヘラヘラしていたら軽蔑するところだ。
「はい。まず、アリス様が居なくなっている事を最初に確認したのは執事のリテラ。それが今朝の事なので、アリス様が誘拐されたのは恐らく深夜ではないかと思われます。
次に、侵入者についてはまだまったく分かっていません。アリス様の部屋の窓の鎧戸が壊されていたので侵入は窓からと思われます。しかし見張りは何も見ていないそうです」
「ふむ……他には?」
「部屋に抵抗したような後は見られなかったので恐らくアリス様は眠ったまま、又は抵抗出来ない状態で連れさらわれたのでしょう」
「………何か手は打ってあるのか?」
「はい。私が全騎士に指示し、城門を封鎖しました。商人の積荷は全て調べています。街でも騎士たちに探索を行わせています」
騎士団長らしき人が話す。白い髪と白い髭、顔の細かいしわ。年は40歳に近いだろう。
「冒険者ギルドにもアリス様の探索を依頼しました。かなりの高額報酬を設定しているので何人もの冒険者が探索してくれているでしょう」
「うむ、それでいい。
しかし、見つからなかった場合どうする?犯人も馬鹿では無いだろう。既に国外に逃亡している可能性もある。国内の捜索に時間をかけるわけにはいかんぞ?」
「大丈夫だ、王族全員に俺特性の魔道具を付けてあるから、城壁内に居るならそれが発する魔力を捉えて何処にいるか発見する事が出来る」
全員の目がサーシに向く。
『早く言えやぁぁぁぁあっ!!!』
「何だっ!何でそんなに怒ってるんだ!?」
馬鹿じゃないのかコイツは!?何でそれを早く言わないんだよ!!リザルトさんたちの働きが全部水の泡じゃねーか!!
「ったく、バカ野郎!!いいからさっさとその魔道具を持って来い!!」
「探すのにどのくらいかかるか分からん」
「っ……ああ、クソ!!全員探しに行くぞ!!見つけた奴には小金貨2枚だ!とっとと見つけてアリスを取り戻すぞ!!」
『はい!!』
全員がいきり立つ。金の力って偉大。
「あ、あったー!ありましたー!!」
全員でサーシの部屋での捜索を初めて30分後の事だった。ちなみに見つけたのは執政だ。
「よくやった!!さあ、サーシ探せ!!」
「まあ待て…………国内には既に居ないな」
金色の手のひら大のプレートを掴んでいるサーシ。あれに魔力を通せば頭の中に情報が入ってくるらしい。
「やはりか……騎士団を呼び戻し、冒険者ギルドの依頼も撤回してこい」
「はっ」
「了解」
リザルトさんと騎士団長が出ていく。本当に有能な人達だ。
「ちょっと待ってろ。どの方向に逃げたか調べてやる」
「そんなこと出来るんですか?」
「俺の力を使えば出来る。5分待て」
「……サーシさんの力って何なんですか」
国王に尋ねる。かなり機嫌が悪そうだ。顔は強ばっているし体にも力が入っている。体全体から怒りのオーラが出ているのが見えそうなくらいだ。
「後から本人に聞け」
「………分かりました」
「…分かったぞ、西に向かっているな。門は通っていないから……恐らく城壁の下を通っている」
「土魔法使いか。それに西………アドリガだな。よし、アドリガを滅ぼす。戦争の準備をしろ」
「国王ぉぉーー!?また悪い癖が出てますよ!?アドリガが犯人とは決まってないんですから!!」
「うるさい!!疑わしきは罰するだ!!」
「落ち着いて下さい国王!!」
「国王!せめてはっきりした理由や証拠が無いと駄目ですって!!」
国王に大臣たちが纏めて群がり止めているのは中々シュールな光景だった。
「くそっ!!全員総出でアリスの行き先を調べろ!!」
『了解しました!!』
大臣たちはそのまま散開していった。かなり行動が迅速な事や国王を諌めるのがとても上手い事から、今までに何度も同じような事があったのだろうと推測出来る。お疲れ様です。
結局その日は何も進展しなかった。その結果、国王は待ちきれなくなってしまった。
「アドリガに行くぞ!!」
「こ、国王様!!」
「大体アリスが帰って来たのはアドリガの王子に犯されそうになったからだろう!!全て知ってるんだぞ!!
アドリガに向かう!これは決定事項だ!!」
「で、ではせめてあと半日お待ちください!!」
「半日も待てるか!!」
「必ずやなにかしらを見つけますので!お願いいたします!!」
「…………半日だけだ!」
「ありがとうございます!!」
「…………大臣って大変なんだな」
「リテラ」
「はい?あ、リザルトさん。何でしょうか?」
「王妃様がお呼びだ」
「ミスティア様が?分かりました。どちらに?」
「中庭だ。急げ」
「了解しました」
一体何の用だろうか。タイミング的にはお嬢さまにまつわる事だろうとは思うが、ミスティア様が何か情報を持っているとは思えない。もし何か情報を掴んでいたとしても既に国王に報告しているだろう。
予想がつかない。
「王妃様、只今参上致しました」
「………」
「何の御用でしょうか?」
「アリスについてよ」
「やはりそうでしたか。しかし、何故国王様に報告しないのですか?」
「大臣に頼まれたの。国王様が聞いたらマズい事になるから話さないでくれって」
「………大変ですね、あの人」
「ふふっ、そうね。大臣はとっても働き者なのよ。国王様宛の手紙なんかも全部あの人がチェックして本当に大事なものだけ国王様に見せてたりね。それで見つけたらしいんだけど、アドリガから手紙が来たのよ」
「……どのような内容ですか?いや、聞いてはいけませんね」
「いいのよ、それを教える為に呼んだんだから」
「………しかし」
「いいから聞いて。
長いから全部は言わないけど、簡単に切り取って話すと『我が国は貴国の支配下から逃れ、イリス大国との同盟を結ぶ』。」
「………イリス大国……」
イリス大国はルコムス大陸において最大の国だ。ルコムス大陸で使われている通貨の発行などを一手に行っている強国だ。位置的にはルコムス大陸の中央に存在する。トロハのかなり上、アドリガの左斜め上、といった感じの場所だ。
トロハもなかなかの大国だが、イリスは更に上だ。衝突すればどちらも、ひとたまりもないだろう。だが、ギリギリでイリスが勝つ。そのくらいの差しかない。それに、もし勝ったとしても被害が大き過ぎる。メリットが無い。両国ともそれを分かっていたから手を出したりはしなかったのだ。
しかし、今回の件でイリスは明らかに敵意を示している。恐らく、アリスについても何かしら関わっているだろう。もしかすると全てイリスの手引き、なんてことも有り得ないとは言い難い。
対立とまで行かずとも、牽制し合っている国の属国と勝手に同盟を組んだのだ。『何か』を起こす気なのは間違い無いだろう。
アドリガには戦力と呼べるような軍、騎士団が存在しない。トロハが戦力を貸し出し、アドリガが食料などをトロハに献上する。戦力である騎士団は、20人ほどがアドリガに常駐し、1ヶ月ごとに交代する。
このような状態だったので、アドリガは戦力を持たずとも良かったのだ。
イリスがトロハの食料などを枯渇させる狙いがあったなら、浅はかとしか言いようがない。
トロハは大国、属国は3つ存在し、例え属国が全て無くなったとしても、食糧難になる事は無い。まあ、当たり前だが。
少なくともイリスにそんな狙いは無いだろう。となると、アドリガに戦力以外の利用価値があるという事だ。もちろんそれは『人質』だろう。アドリガがトロハに対して強力な力を持つ『人質』を手に入れたから同盟を決めた、と考える方が現実味がある。
これでほぼ確定だ。アリスを攫ったのはアドリガである。少し引っかかる事もあるが。
恐らくだがアドリガは前からイリスと関係を持っていた。理由としては、トロハの属国として『使われる』立場から『対等』、もしくはそれ以上の地位につきたかったのでは無いだろうか。
イリスとすぐに連絡が取れる方法を持っていたり、前々から同盟の話などをしていないとたった1日で手紙が来るはずが無いからだ。
他にも色々と思惑が感じ取れるが、とりあえず確認する事は1つ。
「……戦争になりますかね?」
「あの人の怒りよう見たら分かるでしょ?」
「明らかに戦争になりますね」
「そうなのよ。困ったわー……」
「………もしかして、話をした理由は…」
「だって、あなたアリスの執事でしょ?主を救けるのは当たり前よね!!」
やっぱりそうだったか……。大体そうだとは思ってたからそんなに驚かないがな。
「そりゃあね。もちろんですよ」
「よし!リテラ、あなたをアリスの救出部隊に任命します。隠密に動きなさい」
「了解しました。
……手紙の事、国王様に伝えないんですか?」
「頭を冷やすまでは伝えないわ。大臣たちには迷惑かけるわね。うふふっ」
この国の大臣は多忙。あと少ししたら過労でバタバタと倒れるんじゃなかろうか。
「……1つ、教えてもらっても良いですか?」
「何かしら?質問にもよるけど、私が知ってる範囲なら答えてあげるわ。アリスの勇者様だしねー」
「アリスお嬢さま、本当は男嫌いじゃないでしょう?」
「………………」
「出会い頭にあんなキツい暴力振るわれて男嫌いなんて言われたら大抵の人が信じます。でも、それは暴力のインパクトに意識が流れてるだけです。本当に大嫌いならば自分から触ったりしないでしょう。例え暴力と言えども。違いますか?」
「………触れるのには抵抗が無いだけかもしれないじゃない」
「それに、アリスお嬢さまから俺に挨拶してきました。男嫌いならばそれもおかしい」
「………言い訳しても無駄みたいね。そうよ、あの子は男嫌いじゃないわ。まあ、男を苦手ではあるけどね」
「………もう1つだけ。国王様はアリスお嬢さまが苦手だからアドリガに送ったと言われていますが、違うでしょう?」
あの怒り方を見れば分かる。あれは親が子供の為に本気で怒っている姿だ。子の為にあれだけ感情を昂らせる人間がその子をわざわざ自分から引き離したりしないだろう。むしろ絶対に手元に置いておきたいはずだ。
「……そうよ。アリスは本当にバルドゥークが嫌いだけど、バルドゥークはアリスを溺愛してるわ。
アドリガに送ったのはバルドゥークじゃなくて大臣たちよ。アリスが居ると国王が仕事を一切しなくなって、国が傾き出すから強制的に引っペがしたの」
なんかもう尊敬の域に達してきた。大臣たち物凄い頑張ってるんだね。
「でも、国王様はアリスお嬢さまを見た瞬間に顔面が蒼白になってましたよ?」
「あー………バルドゥークはアリスを大好きなんだけど、アリスは近付かせてくれないのよ。だからこっそり見守ったりしてるの。で、それが見つかる度に半殺しにされてたりするわ。だからでしょうね」
「あー……」
「で?質問はそれだけ?」
「はい。ありがうございました」
「うん、頑張ってちょうだいね。奪還に成功するまで絶対に帰って来ちゃダメよ?」
………笑顔が黒い。どうやらマジのようだ。
まあ、言われずともそうするつもりだがな。
「………リテラ様」
「リザルトさんにそう呼ばれるのは何時ぶりでしょうか?ずっと呼び捨てでしたもんね」
「も、申しわけございませんでした。しかし、いくら貴方と言えども一応は使用人になったのですから、ああしなければ他の者に示しがつきません………」
「ああ、顔を上げてください!」
土下座して謝ってきた。ちょっと言い方が意地悪だっただろうか?別に俺は怒ったりしてないのに………。他の傲慢な貴族と一緒にしないで欲しいね。
「で、何か用事でしょうか?」
「先程、サーシが呼んでいました。何か、出来たと言っていましたが」
「ああ、完成したのか。ありがとうございます。すぐに向かいましょう」
「あ、あと1つ頼みがあるのですが…」
「仕事を教えて下さったリザルトさんの頼み、ですか。それは断れませんね。一体どんな内容でしょうか?」
「それは、─────です。宜しくお願いします」
リザルトさんは耳元で囁いてきた。それほど聞かれたくないのだろう。
「………分かりました。難しい依頼ですが、やるだけやってみます。……もしかしたら、無理かもしれません」
「それでも構いません。宜しくお願いします」
「頼まれました。では、サーシさんの所に行ってきます。その後両親に伝えに行き、そのまま出発しようと思います。
イリスまでは多少の距離があるし、大国ですから仕事にも時間がかかるでしょう。長く会えなくなると思います。次会えるのが何時かは分かりませんね」
「……ご武運を」
「ありがとうございます。では」
リザルトさんと別れてサーシの元に向かう。
託された『手紙』をボックスにしまい込みながら。
次の更新は三日後か四日後を予定しています。
これからも軍人を宜しくお願いします。




