10話 最強の姫君
「まあ、問題はそこじゃない。『何故マスターゴブリンがこんなもんを持ってたか』って話だ」
「確かにおかしいですね。普通のマスターゴブリンは巨大な棍棒を持っているハズでしょう?」
「ああ。マスターゴブリンの出現した事例は少ないが、大体そうだな。持っていない時もあったらしいが、剣を持っていたのは今回が初めてだ」
「さらに超高機能のオマケ付き。まあ、これだけだったら偶然で片付けられたんだ。これだけだったらな」
「今回のゴブリン大進軍は数が異常に多かったらしいな。俺も見に行きたかったぞ」
「誘ったがお前は部屋から出て来なかっただろう。変な声が聞こえたが」
「悶えてた時だ」
「…………記憶を消したい」
「存在を消してやろうか?」
「冗談だ。とにかく、今回のゴブリン大進軍のゴブリンの数は普通の場合の約10倍近かった。これだけの量ならかなり大規模なゴブリンの村が近くにあるはずだ。昨日、あの後くまなく探したが、大規模どころか小さな村すら見つけられなかった」
「あ、あとキングゴブリンが、弱かったですが結界を使ってました。1部のゴブリンも『ボディブースト』を使ってましたね。でも、死神さんが特異体ではない、と言ってました」
「そうか…………決まりだな」
「何がだ?」
「今回のゴブリン大進軍は、人為的に引き起こされたものだ。恐らく、トロハを滅亡させるためにな。まあ、そこの天才少年と、たまたま居た死神のお陰………待てよ?偶然にしては出来過ぎじゃないか?………リテラ、死神はいつお前と出会った?」
「お、一昨日です。確か昼頃に──」
それから俺は、死神と出会った経緯を伝えた。すると国王は何かを悟ったような顔をして、話しはじめた。
「恐らく、死神はこのゴブリン大進軍が起きる、いや、『起こされる』のを知っていたんだ。そして、それを知られたら不味い事があるんだろうな。だからお前に接触して、あくまでも偶然を装ってゴブリン大進軍を止めた。そうじゃないと辻褄が合わない……しかし、それが死神にとってどう利益が出るのかが理解出来ない……」
「信じ難いな………あの死神が人助けなど……」
「サーシさん、死神さんを知ってるんですか?」
「ああ、昔ある国の国王の態度が気に入らんかったから、とその国の民を死神が皆殺しにした事があったんだ。その時の討伐隊に選ばれて姿を一目見たんだが、震えが止まらなくなったよ」
「わからん………死神……それに、ゴブリン大進軍の黒幕………ああ、頭がパンクしそうだ!」
「…………あ」
「どうした、サーシ」
「何か気になることでも?」
「………いや、100年ほど前に、ランデル大陸で同じように特異体かどうかは解らんかったのだが、火属性の魔法を使うトレントが出現したことがある。火属性魔法は効かないし、近付いたら焼かれるし……大変だったのを覚えている。火属性魔法を使うところ以外は全て普通のトレントと変わり無かったんだ」
「それは興味深いですね。で、それと今回の件に何か共通点でもあるんですか?」
「いや…そのトレントを倒した後、死体を回収しようとしたら何者かが現れて、死体を持って行かれたんだ。その人物は黒いフードを深くかぶっていて顔は見えなかったんだが、圧倒的な存在感があった。恐らくあれは世界にそうそう居ないレベル……『九神』の誰かだった」
「それが死神って事か?」
「………分からない。死神は3位と言われてはいるが、スキル等はダントツの1位だ。存在感や気配くらい消すだろう」
「謎は深まるばかり、ですね……」
「………これ以上進むのは現状じゃ無理そうだ。今日はこれでおしまいだ」
「そう言えば、俺にこの話を聞かせて良かったんですか?」
「別に構わねーよ。第一にお前はこの話に必要不可欠な存在だ。マスターゴブリンと戦ったのはお前と死神だけ、この街に居るのはお前だけだからな。
それに、お前口固いだろ?大丈夫だろ」
「………うっかり口を滑らせるかもしれませんよ?」
「そん時はそん時だ。大体、何にも分かってない事流れたって大したことじゃねーよ」
「………簡単ですね」
「めんどくさいのは嫌いだからな。さて、これでおしまい、と。俺は仕事に戻る」
バルドゥークが立ち上がる。リテラは自分の用事を話していないのを思い出し、慌てて止める。
「あっ、待ってください!」
「何だ?まだ何かあるのか?」
「はい。父上から、『もうリテラは俺よりも強くて修行にならないから国王様が修行させてやってくれ』だ、そうです」
「…………しょうがないな、あいつには借りがある、そのくらいなら安いもんだ」
次の瞬間、扉が騒々しく開き、1人の男が入って来る。男は額に汗を光らせ息を切らし、肩を上下に動かしている。
「騒々しいぞ!」
「も、申し訳ありません!しかし、緊急事態でして!!」
「緊急事態?何が起きた!!」
「第三王女アリス・アヴァラム様が帰って参りました!!只今城に接近中!!」
次の瞬間、バルドゥークの顔色が蒼白になった。サーシは、同情の目をバルドゥークに向けて、バルドゥークの肩に手を置こうと背伸びをして必死に手を伸ばしている。とても可愛らしい。
「あのー、どうしたんですか?」
「………リテラ、最初の修行だ。アリスを手懐けろ。俺はストロフト家の屋敷に避難する。期限は問わない。分かったか?」
「え?あの、どういう……」
「はい、かいいえ、かだけ答えろっ!!」
「は、はいっ!!」
「何がはい、なんだい?ボクにも教えてよ!」
扉の外から聞こえてきたのは、明るく弾むような声だった。声の持ち主はすぐに部屋に入って来た。
まず目に付くのはオレンジの髪。その髪の毛は肩まで伸ばされており、彼女が動く度にサラサラと揺れる。身長は130cmあるか無いか、といったところだろう。歳はリテラとそう変わらないハズだ。服装は、冒険者の様な服に革の鎧を着ている。腰には短剣も差しており、少なくとも王女のする格好では無い。瞳は綺麗な蒼。バルドゥークと同じ色だ。端整な顔立ちをしており、将来は間違いなく美人になるだろう。胸も微かにだが膨らんでいる。
「お、あ……アリス……」
「お久しぶりですお父様。2年ぶりですかね?サーシさんもお久しぶりですね。変わってませんね、やっぱり」
「久しぶりね。1人?」
「はい。……そこの君は?」
「初めましてアリス様。第一貴族ストロフト家次男、リテラ・ストロフトと申します」
「宜しくね!」
手を差し出される。俺はその手を掴んだ。………次の瞬間、俺の体は空中に浮かんだ。
いきなり背負い投げをやられたのだ。いくら俺と言えど全く警戒して無かった事をやられると反応が鈍る。なんとか着地するが、背中に強烈な蹴りを喰らって倒れる。
…………何なんだこの女。
「まだまだだね!しっかり鍛えなきゃ!……さて、父上?」
「ひぃ!……な、何ですかアリスちゃん?」
「そろそろボクに勝てるようになった?」
「いや、だから俺は女、それも娘を殴るなんて絶対にしないって!」
「そんなだから勝てないんだ、よっ!」
「ハブッ!!痛ッ!!あっ!ちょ、やめグハッ!!」
立ち上がりそちらを見ると、娘にマウントを取られてボコボコにされる戦王の姿があった。シーサは椅子に座りそれを遠い目で眺めていた。助けてやれよ。……俺?俺はやだよ。あんないい顔して人を殴ったり、初対面の相手にいきなり背負い投げ仕掛けて蹴りとばすような子とかかわりあいになりたくないから。
そんな事を思っていると、アリスが短剣を抜いてバルドゥークの顔に突き立てた。だが、バルドゥークはそれをすれすれで受け止め、奪い取り、そのまま力任せに立ち上がった。
「このじゃじゃ馬め……」
え?今のじゃじゃ馬で済ませんの?
「また殺せなかったか……」
「いいかアリス!そこのリテラが今日から執事だ!好きにしていいぞ!王はしばらく逃げる!!リザルトに言っといてくれリテラ!さらばだっ!!」
そう言うと国王は窓から飛び降りていった。ここ結構高いんだが大丈夫だろうか。サーシは兵士に何か指示を出し、大剣を軽々と抱えて部屋を出て行った。この場には俺とアリスだけだ。
「……………」
「……………」
気まずい。非常に気まずい。国王が消えざまに放った言葉が何かおかしかった気がする。大体あいつは俺の師匠にならないといけないハズなのだが、何故逃げたのか。そう言えば今日はまだお昼ごはんを食べていない。そんなことを考えながら、国王の言葉を認識しないようにする。
「……ボクにはそんなのいらないんだけどな」
「聞き違いじゃ無かったのか………」
絶望の底に叩き落とされた気分だ……。しかもアリスの目には明らかに敵意が宿っている。俺、何かしましたっけ?
「じゃね」
アリスもそれだけを言い残して去っていった。このやるせなさと脱力感を俺はどうすればいいのだろう。
何だろうか、この気持ちは。全力で泣きたい気分だ。
「どうすればいいかリザルトさんにでも聞こう……」
俺はトボトボと部屋を出た。
─────
「はあ………分かりました。執事になるなら住み込みで働いて貰うので家から荷物等を持ってきて、ラディウス様にも話をしておいて下さい。
大変ですよ、彼女の執事は」
彼は庭で王妃──ミスティア様のティータイムの給仕をしていた。
「分かりました。しかし、何故国王様はあんな事になっていたのですか?」
マウントをとられてボコボコに殴られるバルドゥークが頭の中に浮かび上がる。
「それは……」
「簡単な理由よ!アリスは男が大ッ嫌いなの!」
「はあ……大ッ嫌い、ですか?」
「そう!大ッ嫌い、なの!例えリテラちゃんみたいなカワイイ子供でもね!」
「ちゃん付けはやめてくださいよ、ミスティア様……」
「私も様じゃなくてさん付けかママって呼んでって言ったわ!」
「…………無理です」
「なんでよー!」
この明るい人が王妃のミスティア様だ。金髪の腰まである髪に、透き通るような肌、豊満な胸に美しい水色の瞳。まさに絶世の美女だ。性格はとても明るく接しやすい人だ。初めて会った時は「かーわーいーいー!!」と叫びながら抱きついてきた。正直恐ろしかった。
「何故、そこまでの男嫌いに?」
「わかんないわ。生まれつきかしらね?だって実の父親にもあの有様よ?」
「………殺そうとしてましたからね……」
「アリスは『特異体質』だからバルドゥークでも負けちゃうのよ」
「『特異体質』ですか……」
特異体質とは、普通の人間とは違い何か1つの能力が特化していたり、特殊な能力がある事を指す。恐らく俺の異常な魔力量も特異体質だからだ。
「姫の特異体質はどのようなものなのですか?」
「力が強いの」
「えっ?それだけですか?」
「うん。でも、バルドゥークの倍くらいはあるのよ?」
「ちなみに、国王様はどのくらい力があるのですか?」
「昔、素手で一軒家を解体していましたね。いや、粉砕が正しいのですかね?5分ほどで終わらせていました」
「それの倍、と………なるほど、恐ろしいですね。日常に支障をきたしませんか?」
「いや、普段からそうな訳じゃないのよ。オンとオフを切り替えられるらしくて、普段はオフにしてるらしいわ」
「便利ですね」
「話はここまでにして、荷物を取りに行ってらっしゃい?」
「あ、分かりました。では、失礼します」
俺は二人と別れて城を出て、城壁の西門へと向かう。城は城壁内の南に位置しており、門は西門、東門、南門の3つがある。家があるのは西の森の中なので西門から出るのが一番近い。
ここも顔パスで通してもらう。城壁内には結界が張ってあるのでテレポートやワープが使えない。なので一旦外に出てから使うしか無いのだ。
「到着。テレポートは便利過ぎるな」
ドアを開けて中に入る。リリーやグリードさん達は見当たらない。いい匂いがするからメイズさんが何か作っているのだろう。よく考えたらそろそろ昼食の時間だからな。
「あ、おかえりなさいリテラ様」
「あ、ただいまリリー。父上何処にいるか知ってるかい?書斎にいらっしゃいます」
「ああ、ありがとう。じゃあ俺の服を全部…じゃなくてもいいから何かにまとめて入れておいてくれないか?」
「分かりました……何かあったのですか?」
「まあ、色々あってね。よろしくね」
そのまま二階に上がる。父上は書斎で何してるんだろうか?
「父上。失礼します」
「お、リテラ。どうだった?国王様は引き受けてくれたか?」
「それが……」
俺は起きた事を全て話した。すると、父上は見る間に顔から血の気が引いていった。
「ど、どうしました?」
「アリス姫が帰ってきてるのか……」
「………」
これは確実に前に何かあったパターンだな。
「何かあったのですか?」
「………アリス姫はたしか今8歳だ。2年前のパーティーで私はアリス姫に腕と肋骨を折られたんだ………初対面で。治癒魔法で治してはもらったが……」
「……………」
俺はとてつもなく運が良かったのかもしれない。下手したらあの時に死んでいた可能性もあったのだ。
「彼女はそれで西にある属国に行って成人するまで戻って来ないように命じられていたハズなのだが………」
何故かたった2年で戻って来てるワケか………。あれ?そういえば………
「国王様来てますか?」
「いや?来てないが………」
ドアが突然開き、男が入って来る。横にはグリードさんがいる。もちろん男とは……
「ラディウス!!助けてくれ!!」
「あ、国王様……」
「噂してたら来るなんてタイミングのいい事で……」
「アリスが帰って来たんだ……」
「知ってるよ、聞いたから。とりあえず落ち着けよ」
「ん?あ、リテラ……そうか、全部聞いたのか」
バルドゥークは冷静さを取り戻し話を始めた。どうやら城壁を出る際、門番何故アリスが戻って来たかを知っていて、教えてくれたらしい。
アリスは属国──『アドリガ』に送られて2年近く暮らしていた。無理矢理戻って来る事も出来たのだろうが、流石にそれはしなかった。そんなことをしたら例え第二王女でも処罰を受けるのは確実だからだ。しかし、今から1ヶ月前に事件は起きていた。その国の第一王子がアリスを気に入ったらしく、自分のものにしようとしたそうだ。彼は12歳で、随分甘やかされて育ち、欲しいものはなんとしてでも手に入れようとする馬鹿だったらしい。彼はアリスをお茶会に誘い、彼女の紅茶に眠り薬を入れ捕獲した。
そして手足を縄で縛って自分の寝室に連れて行ったそうだが、それが間違いだった。彼はアリスの『特異体質』がどんなものか知らなかったのだ。結果……目覚めた時に下着だけになっていた自分の姿を見てアリスは激昂。王子を死なないまでも、魔法でもかなり時間をかけないと治せないくらいにボコボコにした。アリスは悪くないが、流石に王子をそんなにした人物を野放しには出来ない、本国に返還した……というわけだ。
王子は死んでもいいと思う。アリスもやり過ぎだとは思うが、女を無理矢理襲うクズは大嫌いだ。
「と、言うわけで泊めてくれ」
「………本当は嫌なんだが、しょうがないな……もしここにアリス姫が来たらお前を絶対に許さん」
「わ、分かったよ……」
「父上、何故国王様に敬語を使わないのですか?」
「言ってなかったか?俺とコイツは古い仲で、ここでは敬語を使わないって決めてんだよ」
「…知りませんでした」
「とにかく今日から執事なんだろ?死ぬなよ」
「そうさせた張本人がなにをぬけぬけと……」
「うるせー!行ってこい!」
「あうっ」
部屋の外に投げ出されてしまった。あんのクソ国王め!アリス様ここに仕向けてやろうか!
そんな物騒な事を思いながら俺は階段を降りていった。玄関ではリリーが荷物をまとめていてくれた。
「母上にも言っておかなくちゃな、母上は何処にいる?」
「奥様は食堂でティータイム中かと」
「分かった」
リリーの言った通り、母上は食堂に居て美味しそうにお菓子を食べていた。恐らくメイズさんが作ったものだろう。
「母上」
「あら、どうしたのリテラ?」
「今日から城で執事をする事になってしまいましたので、行ってまいります」
「そうなの、頑張ってね!」
「はい」
あっさりしてるかもしれないが、別に長い間別れるわけでもない。すぐに会える距離だし、こんなもんだろう。逆にこのぐらいで泣かれたりしても困る。
城に戻るとリザルトさんが色々と教えてくれた。使用人は全員城に住んでいるらしい。2人部屋か3人部屋らしいが、俺は1人部屋だった。ベッドと机、洋服棚だけでシンプルな部屋。ゴテゴテと無駄な装飾が入ったような部屋を想像していたのだが、とても簡素でびっくりした。俺はこういう機能性のいい部屋が好きだから、とても気に入った。用意されていた燕尾服を着て、執事の仕事をひと通り教えてもらった。その後他の使用人の人と顔合わせをして回った。ストロフト家の次男と聞いて、「そのような方に指示など出せません」なんて言う人も居たが、この職場では俺の方が立場は低いんだ。ただのガキとして接してくれとは言ったが、かなりビクビクしていた。偽名を使った方がまだ良かったかもしれない。
「アリス様の部屋は3階にありますので案内します」
「あ、はい。お願いします」
1階の一番右か左に階段は作られており、今俺達は右の階段を登っている。ちなみに使用人の部屋は2階の左半分だ。
2階の階段は真ん中にあるのでそちらに向かう。この城は4階まで存在する。3階は行ったことがあるが4階は無く、何があるかなども知らない。前にそれとなく国王に聞いたがはぐらかされてしまった。
そんなこんなで階段に着いた。するとリザルトさんが立ち止まりこっちを見てきた。
「いいですか?アリス様は部屋に男を入れません、絶対に。……いや、無理矢理入らされる執事も居ましたが、全員重症で出てきました。執事たちはみんなそれで辞めていきました……」
リザルトさんが遠い目をしている。あれ、なんか震えてないか?そんなに酷くやられたのか。
「一つ、部屋には絶対に入らない。一つ、言う事は極力聞く。一つ、部屋に入れと言われたら覚悟を決める。分かりましたか?」
「……………死にたくないです」
「………頑張って下さい」
悲しそうな目でそう呟くと、リザルトさんは階段を上り始めた。俺はその後ろからついていきながら思った。
処刑台に上っていく死刑囚ってこんな気持ちなんだなぁ………
3階に着くと右側から異様な空気を感じた。やはりそっちにアリスが居るらしく、リザルトさんは右に向かった。
「………ここです」
「…………何と言うか、禍々しいオーラが……」
右側の廊下を歩き、1番奥の部屋。その部屋から出る禍々しい雰囲気が、俺には黒い煙がドアの隙間から溢れ出ているようにしか見えなかった。
「私はここまでです……達者で」
「ああっ、置いていかないで!!」
「うるさいよ!」
アリスが出てきてしまった……それを見た時のリザルトの顔は形容しがたいほど恐怖に歪んでいた。多分俺も同じような顔をしているのだろう。俺と見合っているアリスの顔がどんどん不機嫌になっていく。
「リザルト!」
「はいっ!!」
「さっさとボクの視界から消えて!」
「はいぃ!!」
多分この城で1番強いのは彼女だ。
「で、君何しに来たの?」
「あ、執事になるので挨拶をと……」
「いらない消えて」
「いや、でも、しかし……」
「ボクが男嫌いって聞いてるでしょ!いいから消えてよ!!」
「……じ、じゃあ階段の近くにいますんで何かあったら呼んで下さい」
「誰が呼ぶか!」
恐ろしい。なんて恐ろしい娘だ。精神年齢では父と娘くらい差があるのにめちゃくちゃ怒鳴られてしまった。チビりそうになったのは秘密だ。
「はぁ……あの男嫌いどうにかならんのかね……」
階段近くの壁に寄りかかりながらそんなことを呟く。少なくとも敵意をなくしてくれたら嬉しいのだが、あれだけ酷いとそう簡単には治らないだろう。生まれつきあれとは凄い。普通何かしらの原因があるもんなのにな。前世でなんかあったりして。……でも、確かに嫌ってるみたいだが喋ったりはするんだよな。なんでだろうか?
「うーむ………」
「リテラ、どうなった?」
「あ、リザルトさん」
リザルトさんは俺を呼び捨てにしている。俺がそうしろと言ったからだ。職場では上下関係が大事だ。こんなガキの新入りに様やさんを付けていたらリザルトはナメられてしまうかもしれない。多分そんなことは無いだろうが、念を入れておいても損は無い。
「ここに居てお嬢さまが呼んだら行く事になってます」
「うん、それでいいだろう。決して無茶するなよ。ミスが死に直結するからな」
「怖い事を言わないで下さい」
「そうだよ、バカリザルトがぁっ!!」
「ぐああぁぁぁぁ!?」
「お、お嬢さま!!」
いつの間にか後ろにお嬢さまが立っていた!リザルトさんは蹴り飛ばされて階段を落ちていった。安らかに眠れ……。
「ど、どうなさいましたか?」
「トイレだよ!乙女に言わせんな!!」
「ちょっ!?いっ、ぐああぁぁぁ!!」
痛い!!蹴り落とされた!!とてつもなく痛い……階段は最強のトラップかもしれない………ボディブーストの発動が遅れていたら骨の数本は折れていただろう。
落ちた後横を見たら、頭に手を当てて『ヒール』を使っているリザルトさんの姿があった。出血している。
お嬢さまはマジで恐ろしい。国王のクソ野郎、次会ったら本気で一発殴ろう。
「執事って、痛いんですね……」
「…………普通は痛くないんだがな」
俺は打ち身程度で済んだので、また階段の上まで上がって待機だ。リザルトさんは別の場所の治療を始めた。回復魔法の下級である『ヒール』しか使えないらしく、かなり時間がかかっていた。
暫くしてリザルトさんが夕食の時間だからお嬢さまを呼んでくれと言われた。恐ろしいが俺は執事だ。やるしかないんだ!
「あ、あのー、お嬢さま……ご夕食が出来たとの事ですが…」
『………分かった。直ぐにボクの部屋から離れて消えて』
「………………」
即座に離れて階段まで戻る。次は何をされるか分からないからな………。
お嬢さまは直ぐに出て来て、俺を睨みつけてから階段を降りて行った。俺は1分待ってから食堂に向かった。
食堂にはメイドさんや他の執事の方々が給仕をしていた。もちろんリザルトさんもだ。席についているのは4人。王妃のミスティア様、第一王子のシヴァン様、第二王女のリーナ様、そしてアリスだ。結構和気あいあいと話している。
「しかしアリスは本当にいきなり帰って来たわね」
「色々あったんです」
「聞いたわよ、可哀想に……アドリガを攻め落としたい気分よ!」
「あのクズ第一王子をぶっ殺して首を切り落として晒し首にしてやりたいよ!」
おうおう、なんと物騒な話をしているんだ。遊びでも王族が属国攻め落としたいとか言っちゃあかんよ。
「いや、そんな物騒な……」
「お兄様は黙ってて!」
「…………はい」
どうやら兄も弱いようだ。ちなみに俺は第一王子にも第二王女にも面識がある。第一王子の成人パーティーの時に会った。この世界での成人は15歳だ。
王族の食事が終わってから使用人は食事を取る。王族が風呂に入ったら使用人が入る。この職場はこの世界ではかなりいい条件じゃないだろうか。その後お嬢さまの部屋から少し離れた場所で灯りが消えるまで見守ってから自室に戻った。慣れてない仕事はかなりキツく、ベッドにダイブして数秒後には俺は意識を手放していた。
作者の都合で3月下旬まで更新出来そうにありません。詳しくは活動報告をご覧下さい。軍人を楽しみにしてくださってる方、申し訳ありません。




