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新しい朝

 アルドンサの許婚になった次の朝。

 私は久しぶりの柔らかいベッドの上で目を覚ました。


「……んっ……朝か」


 ここまでの旅ではありえなかった目覚めよさを感じながら、私はベッドの上で大きく伸びをする。


「シャルル様」


 と、扉の向こうから声が聞こえてきた。

 老執事サンソンだ。


「はい。なんですか?」

「朝食の用意ができております。お部屋で召し上がりますか? それとも、食堂で?」

「あ、ああ……食堂に行くよ」

「かしこまりました。では、食堂にてお待ちしております」


 私はベッドから立ち上がり、身だしなみを整え、部屋を出た。

 そして階段を降り、食堂に向かう。


「おお、シャルル君」


 食堂に行くと、既にそこには大勢のメイドが控えて降り、カルリオン公爵が食事を取っていた。


「おはようございます。公爵」

「うむ、良く眠れたかな?」

「はい。おかげさまで」

「そうか。さぁ、座って食べなさい」


 と、公爵の向かいにはアルドンサも座っていた。

 昨日のようなきらびやかなドレスではなく、旅の間に来ていたいつもとおりの服装だった。


「おはよう、アルドンサ」


 と、アルドンサは私の方に顔を向けると、恥ずかしそうに俯いてしまった。


「あ、ああ……おはよう」


 不審に思いながら私はアルドンサの隣に腰掛ける。


「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」

「え? そ、そんなことは……ない。ない、が……」

「いざ許婚として意識すると、シャルル様と話すのが恥かしいのだそうでございます」


 と、アルドンサの背後に立っていたソフィアが不機嫌そうにそう言った。


「ソ、ソフィア! 余計なことを言うな!」 


 アルドンサがそう言って怒ると、ソフィアはツンとしてそのまま食堂を出て行ってしまった。


「そ、そうなのか?」

「ああ、いや……そういうわけでは……ないのだが……」


 それでもやはりアルドンサは恥かしそうである。

 そんなアルドンサを見ていると、私まで恥ずかしくなってきてしまった。


「ああ、そうだ。アルドンサ、シャルル君。昼頃になったら城へ向かいなさい」


 と、そこでいきなり公爵が話を始めた。


「え? 城、ですか?」

「ああ。陛下との謁見、望んでいただろう?」

「え……王に、謁見することができるのですか?」


 公爵は、ゆっくりと頷いた。


「伊達に公爵なんぞをやっていないさ。こういうことは私が言えばすぐ通るのだよ。ああ、それとアルドンサ。こんなところで渡すのもどうかと思うのだが……サンソン。持ってきてくれ」

「はい。かしこまりました」


 公爵がそういうと執事が一旦食堂から出て行った。

 そして、布に包まれた何かを持ってすぐに戻ってきた。

 サンソンは、それをアルドンサの前にそっと置く。


「父上、これは?」

「お前が望んでいたものだ。さぁ、見てご覧」


 アルドンサは布を解く。

 中から出てきたのは、細身の剣だった。

 鞘には美しい装飾が施されており、素人目にも業物だということがわかる。


「こ、これは……カルリオン家の家宝……! よ、よろしいのですか?」

「ああ。お前が今まで大事にしていた剣に取って代わるもので思いつくのは、それが一番だと思ってな。もっとも、それさえもあの剣の代わりになるとは思えないがな」

「父上……」


 その時私はようやく、アルドンサが折れてしまったあの剣の代わりに、このカルリオン家の家宝を賜ったのだと理解した。


「……ありがとうございます。父上。これからも、カルリオン家の名に恥じない騎士として精進いたします!」

「ああ、いや、まぁ……あまり危険なことはしないでくれよ?」


 公爵は不安そうにそう言ったが、アルドンサは新しい剣に惚れぼれとしていて、公爵の心配そうな様子も目に入っていないようだった。


「……さて、私からは以上だ。城へは馬車を手配している。後はサンソンに任せているからね。今日は、私は少し用事があるので、失礼するよ」


 そういって公爵は食堂を出て行った。


「……良いお父上だな」


 私は未だに剣を見て嬉しそうにしているアルドンサにそう言った。


「あ、ああ……そうだな」


 恥かしそうにアルドンサは返す。


「しかし、まさか王との謁見がこんなに早く実現するとは……さすがは公爵だな」

「それはそうだろう。ブランダ一の名門貴族だ。さすがの国王もその申し出を無下にはできまい」

「その王なんだが……どういった人物なんだ? 私は実際に会ったことはないので、噂でしか聞いたことがない。なんでも、相当厳格で、圧倒的な男性らしいが……」

「何? 厳格……だと?」


 アルドンサは目を丸くした。

 しかし、私も同じような反応をしてしまう。


「え……ち、違うのか?」

「あー……シャルル。それは、先代の国王のことを言っているんじゃないか?」

「え? 先代? それって……」

「ああ、いや、いいんだ。実際に会って話したほうがいい……ただ、くれぐれもご機嫌を損ねるようなことだけはするなよ?」


 アルドンサの言葉に私は、いつも通りの嫌な予感を覚えるのだった。

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