告白
「お、お嬢様!?」
面食らったソフィアが素っ頓狂な声を出した。
「ど、どうされたのですか?」
「あ、ああ……いや、その……ちょ、ちょっと父上と話したいことがあってな……それで探していたらこの部屋から声が聞こえて……」
アルドンサはそういって私の方を見るが、すぐに顔を反らしてしまった。
「あ……も、もしかして、ずっと話を聞いていたのか?」
私が訪ねると、アルドンサは小さく頷いた。
「そ、ソフィア……そ、その……わ、私とシャルルの二人きりにしてくれないか?」
「え? お、お嬢様、そ、それは……」
「……頼む」
さすがのソフィアも、アルドンサのそんな頼みは断れないようだった。
愛すべき主人と私を二人きりにするという行為に我慢ならないようだったが、堪忍したように頷いた。
「かしこまりました……シャルル様」
「え? 何?」
「……お嬢様に変なことをしたら承知しませんからね」
「は、ははは……しないよ。そんなこと」
そういってソフィアはそのまま去っていった。
途中振り返って私をにらみつけたが、その瞬間、また盛大にコケた。
「……はぁ。よ、よし。これでいいな」
アルドンサは思いつめたように私を見た。
そういえば、先ほど食事の際に急に立ち上がって出て行ってしまった以来だ。
なんだか、少し気まずい感じである。
「……あー……アルドンサ。その……」
「わ、私も! お、お前のことが好きだぞ!」
と、私が先を続ける前に、アルドンサは早口でそう言った。
顔を真っ赤にして、目を潤ませながらそう言ったのである。
「あ……そ、そうか」
「あ、ああ! そうだ!」
なんともよくわからない反応してしまい、また、アルドンサの方もその先をどう続けたらよいものかわからないようで困った顔をしていた。
「……あー……さっきの話聞いていたんだよな?」
「あ……ああ。一応な」
「……どうやら、私は君の許婚になったらしいんだが……」
「そ、そのようだな……」
またしても会話が途切れてしまった。
しかし、私には言うべきことがあったのだ。
許嫁という立場にまでなった今こそ、私はアルドンサに言わなければいけないことがあった。
「あ……アルドンサ」
「な、なんだ?」
「その……君に言っておくことがある」
私がそういうとアルドンサは緊張した面持ちで私を見た。
「実は……わ、私の名前は、シャルル……シャルル・フロベールと言うんだ」
すると、アルドンサはキョトンとした顔で私を見た。
「え? フロベール……ん? 待て、どこかで聞いたことがあるぞ。確か、そんな名前の貴族が……」
「ああ……私は、辺境伯クリス・フロベールの長男、シャルル・フロベールだ」
ついに、ようやく言ってしまった。
暗い廊下の静まり返った空気だけが、私とアルドンサを包んでいる。
アルドンサは何も言わずに私を見ていた。
私も目を反らさずにアルドンサを見ている。
「すまない……こんな大事なこと、ずっと黙っていて……」
「……ふっ。なんだ、そんなことか」
「……え? そ、そんなんことって……」
それまでの雰囲気を破壊するように、アルドンサは呆れた顔で私を見た。
「まったく……改まって何を言ってくれるのかと思えば、お前が実は貴族の息子だったって? はっはっは! 別にそんなことはどうでもよかったんだがな」
「ど、どうでもよくはないだろう……そ、それに気にならないのか? どうして私が、今こんな風に家から追い出されて旅をしているのかとか……」
「そうだな……いや、大体の予想は付く。だがな、シャルル。私は別にお前の素性がどうとか、身分がどうとかそういうのはどうでいいと、前にも言っただろう? 私はそんなことは気にしない性質だと」
「そ、それは、そうだが……私は君にずっとこのことを黙っていたわけだし……」
「……まぁ、それは問題だな。だが、今、お前は私にキチンとそのことを話してくれた。それは、やはりこれから私の許婚になるから、私に隠し事は良くないと思ったから、私にそのことを打ち明けたのだろう?」
そういって微笑むアルドンサに、私は思わず恥ずかしくなってしまった。
そうか。本当にこの騎士様には、私のそんな事情など、些細なことだったのだな……
「……ああ。そうだ」
「はっはっは! よし! ならばいいだろう! シャルル……その……私はあまり束縛するのは好きではないから、言いたくはないのだが……こ、これからは私の許婚として、自覚ある行動をしろよ! わ、わかったな!」
「……ああ。わかった」
そして、私とアルドンサは互いに笑いあった。
こうして私は、アルドンサ・カルリオンの許婚になったのだった。




