王の城へ
そして、昼過ぎになった頃のことだった。
「シャルル様、馬車のご用意ができました」
扉の向こうからサンソンの声がした。
「ああ、今行く」
立ちあがって私は扉を開ける。
厳格そうな執事が相変わらずの無愛想な顔つきで扉の前に立っていた。
「お嬢様は馬車でお待ちです。お急ぎを」
「ああ。わかった」
そのまま屋敷を出ると、屋敷の門の前には、豪華な造りの馬車が既に停まっていた。
馬車の中に入ると、アルドンサも既にそこに座っていた。
王の城へ向うからだろうが、昨日のドレスとは違うが、来ているズボンとシャツは高級な素材のものだ。
「おお、シャルル。さぁ、行こうか」
私が馬車に乗り込み、アルドンサが合図すると、馬車は動き出す。
私は動き出して馬車の小窓から外を見る。
今一度見るクローネの様子はやはり荘厳なものだった。
「ふふっ。先日はあまり街中を見ることが出来なかったからな。どうだ、シャルル。クローネの感想は?」
「ああ……いや、すごいとかし言い様がないな」
「そうだろう? まぁ、これから行く城はこの偉大な都市の中でもさらに豪壮なものだ。楽しみにしておくといい」
「そうか。それは楽しみ……ん? アルドンサ。あれは?」
「え? どれだ?」
と、私が小窓からある建物を指差すと、アルドンサはああ、と納得したようだった。
「あの一際大きい建物だな」
「ああ。あれが、王の城……じゃないよな?」
「違う。あれは、大聖堂だ」
「大聖堂? 大聖堂って……なんだ?」
と、アルドンサは面食らった顔をした。
「シャルル、お前……ジンゼ教を知らないというのか? というか、知らなかったのか?」
「え……その……ブランダでは広く信仰されている宗教があるのは知っていたんだが……私は信心深くない方でな……」
呆れた顔でアルドンサは私を見た。
実際、私がジンゼ教という名前を知ったのはこの時が始めてであった。
ケイン神父の教会にしても、広く信仰されている宗教の教会という認識しかなかったのもそのためである。
ほとほと、貴族時代の私はなんと教養がなかったことだろうかと思い知らされたわけで。
「お前……一応貴族の息子だったんだろう? 信心深いとかそう言う問題じゃない。常識の問題だぞ?」
「す、すまん……どうにも不勉強だったんだ」
「……まぁ、いいだろう。いいか? 陛下の前では絶対にそんな素振りを見せるなよ。この国は今、ジンゼ教によって成り立っているとも言えるんだからな」
「え? そ、そんなになのか?」
「ああ。そうだ。特に陛下がジンゼ教に頼りきりだからな……」
そういってアルドンサは暗い顔をした。
どうやら何かありそうな様子だった。
「そうか……わかった。気をつける。しかし、それにしても巨大だな」
目の前に聳え立つ大聖堂は、まさにその権威を象徴するがごとくに大きなものだ。
「それはそうだ。この街には聖女がいるからな」
「聖女……?」
聖女と聞いて私は思わず顔を顰める。
「違うよ。リリアーヌのような断罪人ではない。正真正銘のジンゼ教の修道女だ」
「修道女、か」
その言葉を聞くと、あの黒いシスターを思い出す。
マリアンナは今どこで何をしているのだろうか……
「とにかく、シャルル。くれぐれも失礼のないようにな」
「ああ、承知した」
私とアルドンサを乗せた馬車は大聖堂を通り過ぎ、そのまま王のいる城へと走った。




