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革命都市 3

「さて。クリスタ姐さんの部屋に入る前に一つ言っておきたいことがある」


 と、エリックは大きな扉の前で改まって席払いをした。


「クリスタ姐さんは結構気難しい人でね。だから、あまり怒らせるような発言は控えて欲しいんだ」

「なぁ。エリック。その……クリスタも断罪人なのか?」


 私がそう訊ねると、エリックはもちろんだといわんばかりに頷いた。


「ああ。そうだ。だから、怒らせると俺でも手がつけられないんだよ。だから、旦那さんもよろしく頼むよ」


 念を押すようにそういってから、エリックh扉をゆっくりと開いた。


 扉を開いた先は礼拝堂になっていた。


 しかし、礼拝堂といってもこれまで私が様々な教会で見てきたそれとはまるで違う雰囲気だ。


 祈りの場、というより、王の部屋という感じである。


 祭壇の上には祈りのための机の代わりに大きな椅子が一つ設置されている。


 その椅子の上で足を組んでこちらを見ている人物の姿があった。修道服に身を包んでいるというのに、随分と下品な座り方をしている。


 そして、その椅子に座っている人物の隣には、見覚えのある修道服を着た少女が立っていた。


「あ……マリアンナ――」


「ああ! 姐さん!」


 エリックは私の声を掻き消すようなわざとらしい大きな声をあげながら、椅子の人物に向かって話しかけた。


 そして、ゆっくりと椅子の人物の方に近付いて行く。


「なんだ。エリック。帰ってきたのかよ」


 ドスの聞いた声でクリスタはエリックに訊ねて来た。


「ああ。姐さん。ちゃんと帰ってきたよ」

「で、革命に必要な戦士とやらは見つかったのか?」

「見つかったさ。ほら。彼ら二人がそうだ」


 そういってエリックは私達に手招きをする。


「シャルル……どうする?」

「どうするって……行くしかないだろう?」


 私とアルドンサは警戒しながらゆっくりとエリックのほうに近付いていった。


「さぁ。旦那さん、奥さん。あれがクリスタ姐さんだ。見た目は怖いけどいい人だからさ。挨拶しなよ」


 エリックに言われてみたクリスタという人物はかなりインパクトのある見た目だった。


 修道服だというのにシスターという言葉を一切連想させないのだ。


 髪は短く切りそろえており、鋭い目つきが私とアルドンサを見ている。


 おまけに片目は眼帯で隠れており、シスターというよりも歴戦の女戦士という感じだった。


「よぉ。俺がクリスタだ。よろしくな」

「あ、ああ……私はシャルル。こっちはアルドンサだ。よろしく」

「ふぅん……で、強いのはどっちなんだ?」

「え? あ、ああ。アルドンサだ。私なんかはとても……」

「ほぉ。じゃあ、少し試してみるか?」


 そういうとクリスタは立ち上がった。

 そして、腰元に下げていた細い鞘から、剣を取り出した。

 その剣は異様な形をしていた。

 アルドンサ含め、ブランダ王国の兵士や戦士が使用している剣よりも遥かに細身なのである。

 その刀身はまるで水が滴っているかのように輝いており、異様な気配を発していた。

 クリスタはその剣の先を、アルドンサに向けた。


「コイツはカタナと言うんだ。面白い形をしているだろう? 東の方の国からの輸入品でな。俺のお気に入りなんだぜ」


 ニヤリと口の端をあげて笑ってみせるクリスタ。


「ほぉ。始めてみる剣だ」


 アルドンサは落ち着いた様子でそれに返答する。


「コイツは切れ味がすごくてね……面白いようになんでも斬れるんだが、困ったことにコイツを使っているとなんでも斬りたくなっちまうんだよなぁ……フフッ。どうだ? お前も斬ってやろうか?」


 クリスタはそう言うとカタナの先をアルドンサの頬に触れさせる。

 しかし、アルドンサは動じなかった。

 鋭くクリスタを睨みつけたままである。


「……ちっ。なんだ。肝が据わってんじゃねぇか」


 クリスタはそう言うとカタナを鞘に収めた。

 私は心の中で大きく息を吐いた。


「あ、あはは……な? だろ? 姐さん。だから、二人をこの都市にしばらく置いてあげてもいいかな?」

「好きにしろ。俺は別にどうでもいい」


 そういうとクリスタはそのまま私とアルドンサの横を通り、部屋を出て行ってしまった。


「はぁ……やれやれ。まったく、面倒臭い女だぜ」


 扉が完全に閉まるのを見届けてから、エリックは掃き捨てるようにそう言った。


「ああ。お二人さん。じゃあ、そういうことだから。この街にも宿屋は一応あるからさ。そこでも使ってよ。俺も少し野暮用があってね。またね」


 エリックも同じように慌しく部屋を出て行ってしまった。

 部屋に残されたのは 俺、アルドンサ、エリス。

 そして――

 私はゆっくりと振り向く。


「……マリアンナ」


 久しぶりに再会した黒い修道服の少女は、相変らずの冷徹さを感じさせる蒼い瞳で、私のことを冷たく見返していたのだった。

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