騎士の御供
マリアンナが失踪し、シャルルとアルドンサと二人での旅が始まった。シャルルはアルドンサに優しいといわれ、そんな自分を作ったのがマリアンナとの旅だということを改めて認識する。
私達はそれから街を出て再び王都への道を歩み出した。
アルドンサは鎧をセルバンテスの背中に乗せ、軽装で私の隣を歩く。
「しかし……なぜマリアンナはお前を置いていなくなったんだろうな?」
アルドンサが何気なく聞いてきた。
「……さぁ?」
「さぁ、って、わからないのか?」
「まぁな……アイツは気まぐれなんだよ。気まぐれというか……アイツの考えていることはわからん」
「はっはっは……そうか。では、信じて王都に向かうしかないのだな」
そういうことになる。まったく、ほとほと情けない話である。
かといって、それ以外に何ができるのかと聞かれれば何も思いつかない。結局私は王都に向かうしかないのだろう。
「まぁ、元気を出せ。私が付いているのだ。あまり深く考えずにのんびり行こうではないか」
「のんびりは……ダメだが」
「あ……そ、そうだな。急いでのんびり行くか」
アルドンサは恥ずかしそうにそう言った。
なんというか……アルドンサは見ていて飽きないヤツである。
「ところで、アルドンサ。この先にも街はあるのか?」
「え? ああ。そうだな……小さい街はいくつかあるはずだ」
「そうか。では、食糧の補給などは心配ないんだな」
「そうだな。しかし……シャルル、一つ聞いていいか?」
「ん? なんだ?」
するとアルドンサは少し間を置いてから私のことを真っ直ぐに見つめて来た。
「な、なんだ?」
「お前……どうしてマリアンナと一緒に旅をすることになったんだ?」
「……え?」
アルドンサは緊迫した面持ちで私を見て来た。
そういえば、アルドンサには未だに私自身が放蕩息子で会ったがために家を追い出されたことを話していないのだった。
「あ……そ、それは……だな……」
「こうして二人きりで旅をする以上、お前のことはなるべく知っておきたいからな。さぁ、話してくれ」
「あぁ……いや、その……今は、ちょっと……」
「何? 話せないのか? 私になら話してくれるだろう?」
そういって私に詰め寄ってくるアルドンサ。
本当は言ってしまえば良いと思う。
だが、不安があった。アルドンサは私の身分を考えずに接する所が良いと言った。
しかし、もし仮に私が単純に従者ではなく、貴族の息子だと知ったら、アルドンサの私への見方も変わってしまうんではないか……
私はそんな臆病な考えから、アルドンサに真実を告げることができなかったのである。
「……すまん」
私の言葉を聞くと、アルドンサは怪訝そうな顔で私を見たが、その後で溜息をついた。
そして、私から離れる。
「……仕方ない。無理にとは言わない。お前が言いたくなった時でいいよ」
「あ……ああ。すまない」
するとアルドンサはニヤリと微笑んで私を見た。
「だが、いずれ言ってもらうからな。なにせお前は私の夫になってもらう男なのだからな」
「あ……あはは……そうだな」
そういって頬を紅くして嬉しそうに言う辺り、アルドンサはかなり本気のようだった。
私としても別に構わな……って、いやいや今はそんなことを考えている場合ではないのだ。
とにもかくにもマリアンナを探しに行かなければならないのだから。
私は今一度自分にそう言い聞かせ王都までへの道を急ぐことにしたのであった。
そして、三日間ほど、私とアルドンサは歩き続けた。
アルドンサもマリアンナ同様、野宿のための用意はしていたので、なんとか外であっても寝ることは出来た。
疲れた時はセルバンテスに乗せてもらい、それまでのマリアンナとの旅とは比べ物にならないほどに快適な三日間だった。
「……ふぅ」
そして、三日目。私の少し後ろを歩いていたアルドンサが立ち止まった。
「アルドンサ?」
「あ、ああ……はっはっは……大丈夫だ。少し疲れただけだ」
いくら騎士とはいえ、アルドンサもか弱い乙女だ。疲れてしまうのは仕方ない。
「そうか。じゃあ、今日はここらへんで休もう」
「え……いや、だって、お前、まだ全然歩いていないぞ?」
「いいんだ。確かにマリアンナを早く追いたい気持ちはある。だが、女性に無理を強要してでもそれをやろうとは思わないよ」
私がそういうとアルドンサは目を丸くしたようだった。
そして、私自身も少しかっこつけすぎたと思ってしまった。
「あ……いや、すまん。気にしないでくれ」
「……ふふっ。ああ、そうだな。じゃあ、お前に甘えてそうさせてもらおう」
私達はその日はそこで野宿することにした。
二人で焚き火を囲んで座る。火が燃えているのを見るとなんだかぼぉっとしてきてしまった。
「なぁ、シャルル」
「ん? どうした?」
アルドンサが話しかけてきた。
「お前は……私のことを迷惑だと思っていないか?」
「……へ?」
いきなりのよくわからない質問に私は戸惑う。
アルドンサは少し落ち込んでいる様子だった。
「……いきなり現れて、お前達の間に入って……なんだか私はお前とマリアンナの関係を壊してしまったんじゃないかって思うんだ」
「アルドンサ……」
「マリアンナだって、私が来なければお前を置いてどこかに行ったりしなかったんじゃないか? 私はお前の大切な人を……奪ってしまったのではないか、って思うんだ」
そういってアルドンサは目を伏せた。
私は何を言うべきか迷って暫く黙った。
そして、考えをまとめてから口を開く。
「少なくとも私は迷惑だとは思っていない」
「……シャルル」
「君は王都までの案内人だしな。それに、君がいなければ、騎士として君がこれまで歩んできた旅路の話も聞けなかった。だから、私は少なくとも君に出会えてよかったと思っているよ」
アルドンサは顔を上げて私を見ると柔らかく微笑んだ。
どうやら不安は拭えたようである。
「……お前は、優しいな」
「あ、あはは……そうかな? まぁ……この旅をしてきて色々なことがあった。昔よりは優しくなれた気がするよ。昔はこんなじゃなかったさ」
「そうなのか? でも、酒の席での私のあんな突拍子もない話をちゃんと聞いてくれるし、やっぱり今のお前は優しいよ」
優しい、か。
皮肉なことに、その優しい私を作ったのは、無慈悲なマリアンナなのだ。
目の前で行われていく惨劇を見て行くうちに、私は無自覚に人に対して優しくなっていたのかもしれない。
どうしようもない私がやさしくなれたのだ。だったら、マリアンナだって――
「……ホントに……優しいよな」
「アルドンサ?」
すると、なぜかアルドンサがしゃくりあげて涙を流していた。
「ど、どうしたんだ? いきなり」
「あ……いや、すまん。ちょっと……変なことを思い出してしまって……なんでもないんだ。気にしないでくれ」
「気にしないでくれ、って……大丈夫なのか?」
アルドンサは涙を手で拭い、目をゴシゴシすると、満面の笑みを私に向けてきた。
「はっはっは……大丈夫だ。まぁ、私にもお前と同じように、今は言えないことがある、ということだ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。でも、いずれきっとお前には、話したい」
そういって私を見つめるアルドンサ。
思わず私の胸が高鳴った。胸の高鳴り。死ばかりを経験してきた私の旅で久しぶりに味わう感覚だ。
そして、そのままアルドンサは私の方にゆっくりと近付いてくる。
「あ、アルドンサ?」
「シャルル、私は――」
その時だった。草むらからガサガサと音がした。
「ひっ!?」
と、アルドンサは思わず私に抱きついてきた。
「な、なんだ?」
草むらから出てきたのは――ただの野うさぎだった。
私とアルドンサは思わず顔を見合わせる。
そして、アルドンサは自分の行動に気付き、顔を真っ赤にした。
「あ、あはは……大丈夫ですかな? 騎士様?」
「あ……う、うるさい! くそっ……いいところだったのに……!」
「いいところ?」
「あー! もう! 私は寝る! お前もさっさと寝ろ!」
そういってアルドンサは布切れに包まると、そのまま背中を向けて横になってしまった。
思わず微笑んでしまいながらも私はそんなアルドンサを見る。
「おやすみ、アルドンサ」
「……ああ。おやすみ、シャルル」
そして、私は焚き火を消して同じように横になった。
空には無数の星が広がっている。この夜空の下にマリアンナもいるのだろうか。
「マリアンナ……」
思わずその名前を口にしてしまったことに後悔しながら、私は目を閉じたのだった。




