アリシアの古城 1
アルカの町についたアルドンサとシャルル。そこでアルドンサは町長から化物退治を依頼される。突然飛び出してくるものと怖い物が苦手な騎士とシャルルは、町の郊外にある古城へと向かうのだった。
「……ふぅ。ようやく街か」
私とアルドンサは入口を前にして立ち止まった。
アルカの街。入口の看板にはそう書いてある。
「ようやく休めるな。さて、入ろう」
私とアルドンサはそのまま街に入る。
すると、その視線の向こうから一人の男性が走ってきた。
「あ! そ、そこの方!」
男は大急ぎでコチラに走ってくる。そして、私達の目の前で立ち止まり、ぜぇぜぇと息を荒くしていた。
「な、なんだ? どうした?」
「はぁ……はぁ……あ、アンタ方、旅の人?」
「え? あ、ああ。そうだが……」
そして、男は私とアルドンサを見比べてから、馬のセルバンテスの方にまで目をやる。
すると、アルドンサを見た瞬間目を輝かせた。
「アンタら、騎士か!」
「え……ああ、私ではなく、こっちの――」
「はっはっは! いかにも! 吾輩こそ、無敵の騎士、アルドンサ・カルリオンだ!」
男はアルドンサの自己紹介に戸惑っていたようだったが、すぐに気を取り直してアルドンサのほうに近付いて行く。
「そうでしたか……騎士様! どうか、私の……いえ、この街の憐れな民をお救いください!」
そして、男は頭を下げた。
私とアルドンサは何がなんだかわからず顔を見合わせた。
「……ああ。すまない。どういうことだ? 詳細がわからないと救いようがないのだが……」
「ああ! そうでした! ささっ。私についてきてください! 町長の所に案内しますよ」
そういって男は先を歩いて行ってしまう。
「……どうする? シャルル」
「どうするって……助けを求めている民がいるのだ。ほうっておくわけにはいかないんじゃないか」
「ふっ。そうだな。シャルルがそう言うならそうしよう」
とはいったものの、私もアルドンサもよく理解しないままに男の後を着いて行ったのであった。
男について行くと私達は本当に町長の家へと案内されてしまった。
町長は白い髭をたくわえたいかにも老齢の男だった。
「すいません……騎士様をこのようなところにお呼びしてしまって」
「構わない。で、なぜお前達は私に助けを求めているのだ?」
すると、町長は少し口篭った後で、決意したように口を開いた。
「その……騎士様に化物退治をしていただきたいのです」
「何? 化物?」
アルドンサも面食らったようだった。
化物……私が思い出したのは、かつてスパニ村の森で見たあの巨大狼だ。
この町にもそんな化物がいるというのだろうか?
「ええ……我々はすでに何十年も、その化物によって苦しめられているのです」
「ほぉ。で、その化物とは一体どんなヤツなのだ?」
「……正体はよくわかりません。ですが、人襲うやつなのです。既に何人かのものを退治に向かわせたのですが、一人として戻ってきませんでした」
「そ、そうなのか……」
私には、アルドンサがゴクリと生唾を飲み込む音がしっかりと聞こえた。
「ええ……頼みます! 騎士様! お礼はいくらでもいたします! どうか、化物退治をして我等をお助けください!」
町長と、その周りに居た男達が頭を下げた。
無論、こんな風に頼まれては、アルドンサが断るはずもない。
「はっはっは! わかった! この私に任せるがいいぞ! で、その化物はどこにいるんだ?」
「ええ……町から少し離れた場所にある城にいます……」
「城? 城があるのか?」
「ああ、いえ。すでに何年も前から廃墟になっている城です。そこをねぐらとしているらしく、夜になると化物はそこから出歩いて我々を襲うのです」
「そうか。よし。わかった。では、吾輩がその化物を軽く退治してくるから、キチンと凱旋の準備をして待っているのだぞ!」
「はい、よろしくお願いします、騎士様……!」
再び町長は頭を下げた。
まったく……こんな依頼引き受けてどうするというのだ。
私はアルドンサを見る。
案の定どこか困ったような表情をアルドンサは向けていたのであった。
「……はぁ」
そして、私とアルドンサが町から離れた古城とやらに向かう途中で、アルドンサはようやく後悔の溜息をついた。
「で、どうするんだ? 化物、退治できるのか?」
「あ……そ、それは、だな」
「だが、言っていたよな、アルドンサ。かつて君はドラゴンや魔術師とも戦ったと、古城に巣食う化物退治くらい簡単なんじゃないか」
私が少し意地悪くそういうと、アルドンサは頬を膨らませた。
「あ、ああ! そうだ! 簡単だ! 簡単に化物くらい退治して見せるさ!」
「そうか。なら、安心だな」
すると、アルドンサは今までの無理をした表情から一転してなぜか私に対し申し訳無さそうな顔をする。
「その……すまん」
「ん? なぜ謝るんだ?」
「だって……これではマリアンナ捜索が遅れてしまうではないか」
アルドンサはすまなそうにそう言った。
「ああ……いや。いいんだ。おそらくマリアンナと一緒でも、この町に寄れば化物退治を依頼されるだろうからな」
「何? 断罪人は化物退治も請け負うのか?」
「ああ。実際に私はそれも見たからな」
「え……化物って本当にいるのか?」
アルドンサは顔を青くして私に訊ねてきた。
やれやれアルドンサは純粋で優しい少女だとは思うが、どうにもマリアンナと違って頼りないな。
といっても一応剣の腕は確かなのだ。あまり怖がる必要もないと思うのだが。
「……もしかして、アルドンサ。君……結構怖がりなのか?」
「え? あ……そ、そんなわけないだろ! あ、あはは……」
「でも、この前も草むらでウサギが飛び出してきただけでも驚いていたし……」
「あ、あれは……わ、私は! 相手が人間だとわかっているなら大丈夫なんだが……しょ、正体不明の存在には弱いのだ! あ、後! いきなり飛び出してくるのとかも禁止だ! わかったな!」
そういってアルドンサはそっぽを向いて行ってしまった。
まぁ、大丈夫であることを願うしかないのか……
私は顔を上げる。
そこには、まるでそれ自体が不気味な存在のようにたたずむ古城が聳え立っていたのであった。




