月の下で 3
それから夕方まで歩いて、ようやく山が見えてきた。
私は既にその時にはクタクタで、今にも倒れそうだった。
「まぁ、こんなものだろう」
マリアンナも、近くにあった石の上に腰を下ろした。
「おい。シャルル。荷物を下ろせ」
「え? 下ろしていいのか?」
「ああ。そうだ。さっさと下ろせ」
私は言われるがままに荷物を下ろす。
マリアンナは私が下ろした荷物に近寄ってくると、中から大きな布のようなものを取り出した。
それを大きく広げ、次に、それと同じような大きさの鉄の棒を取り出した。
重さの原因はコイツかと、私が恨めしげにそれを見ている間に、マリアンナは私の隣に手頃な大きさのテントを作っていた。
「お、おお」
「さて、もう寝るか」
「そうだな」
私はもちろんのことマリアンナに続いてそのテントに入ろうとした。
「は?」
マリアンナは不快そうな表情で――何度もいうが、マリアンナには表情というものがないので、決してそんな顔をしたわけではないのだが、その蒼い瞳が、嫌そうに揺らめいたのである――私のことを見た。
「え? なんだ?」
「何だ。お前、私のテントで寝られると思っているのか?」
「いいじゃないか。二人くらい入れるだろう。この大きさなら」
マリアンナは何も言わず、私をその冷たい瞳で睨んでいた。
「じゃあ、何か? 私に外で雑魚寝しろと!?」
「そういうことになるな」
「寝られるわけがないだろう! 私は仮にも元貴族だぞ! こんな草原で……」
「じゃあ、寝なきゃいい」
それだけ言うと、マリアンナはテントの中に入ってしまった。
「おい。マリアンナ? マリアンナ?」
反応はなかった。
確かにこの時、マリアンナのテントに無理矢理押し入ることもできただろう。
だが、私も腐っても貴族。仮にも少女とはいえ、寝込みを襲うような真似は私にはできなかった。
「うぅ……くそ。仕方ないか」
私は大人しくそのままテントから離れ、その辺の草原に横になった。
空を見上げると大きな夜空が広がっていた。
少し前までは、この時間帯なら、飲めや歌えやの大騒ぎであった。
なのに、今聞こえるのは遠くに聞こえる獣の鳴き声……そう考えると、私はいかにも自分が惨めで仕方なくなってきた。
……いや、実際惨めな存在であったのだろうが。
つい最近だというのに、はるか昔の出来事となってしまった在りし日のことに思いを馳せている内に、私はまどろみ始め、そのまま眠ってしまった。




