一章 三
観月祭。
それは、瑞穂大国の年中行事の一つである。
一年で一番きれいな満月が見えるという桂花月十五日に月を愛でながら、その年の実りに感謝する。
その行事に古くから伝えられる昔話が混じり、十五日を中心とした一週間はあちこちで催しが開かれていた。
いつ誰が作ったのかも定かではない、古い昔話。月から来た姫君と老夫婦の物語である。
あるところに、子宝に恵まれなかった老夫婦がいた。二人は毎晩月に向かって祈った。子どもを授かりますように、と。
ある日、翁が竹細工を作る為の竹を狩りに山へ出かけると、光る竹の根元におくるみに包まれた赤ん坊を見つけた。老夫婦は、連れて帰った赤ん坊を育てることにした。
赤ん坊はやがて美しい女性に成長し、村の若者から貴族まで多くの男性の求婚をうけた。村の若者の一人とは懇意な間柄になったものの、彼女はそのすべてを退けた。
彼女は前世の約束で地上で育ったものの、月の国の姫君で、十八になった年の桂花月の満月の夜、月に帰らなければならなかったのだ。
老夫婦も貴族も必死に姫君を止めようとしたが、姫君は月の国へ帰ってしまった。
それからというもの、老夫婦は毎晩月に向かって祈った。
少女とまた会えますように、と。
それから一年が経った日のこと、翁がいつものように竹を狩りに山へ出かけると、十九年前に赤ん坊を見つけたその場所で少女と再会した。
少女は懇意な青年と結婚し、老夫婦ともども幸せに暮らした。
物語の少女が「月影の姫君」と呼ばれることから観月祭は「月影の日」とも呼ばれ、月に願ったことが叶うといわれるようになった。
観月祭の一カ月ほど前から街角に竹の枝が飾られ、人々は願い事を書いた短冊を吊るす。
同時に各地で願いを叶える催しも行われる。
天望試験もその一つであった。