タイマッサージで――自分で選んだはずなのに、最後は「もう、終わりでお願いします」
電車では、いつもの下着を穿いていました。
バッグの中には、店で着替えるための小さな下着が入っています。
(あとで、あれ穿くんだ)
そう思うたび、少し落ち着かなくなりました。
周りの人は、もちろん何も知りません。
それが妙におかしくて、少しだけ気持ちよく感じました。
最寄り駅で降り、店へ向かいます。
古い、小さなタイマッサージ店でした。
受付にいたのは、四十歳くらいのタイ人男性です。
「ヨヤク?」
「はい」
名前を告げると、更衣スペースへ案内されました。
「コレ、キテネ」
店のTシャツと、ゆったりしたズボンを渡されます。
カーテンを閉めると、私はバッグから小さなポーチを出しました。
中に入れてきた下着を広げます。
白い、かなり小さなものです。
腰の左右をつないでいるのは、細いひも。
前も、普通の下着のような布ではありません。
細いひもが身体の前を通り、最低限の形だけを作っています。
後ろも同じでした。
布らしい布はほとんどなく、細いひもだけが腰へ続いています。
手のひらに乗せると、改めてその小ささが分かりました。
(これ、ほんとに穿くんだ)
私はいつもの下着を脱ぎ、それに穿き替えました。
鏡の前に立ちます。
前から見ても、横から見ても、普通の下着とはかなり違いました。
隠すための下着というより、ひもで形だけを残しているように見えます。
少しだけ迷ってから、その上に自分のズボンを穿きました。
これで外からは分かりません。
カーテンを開けます。
男性が、店のズボンを指さしました。
「ソレ、ハク?」
「あ、これで大丈夫です。動きやすいので」
「ソウ? OK」
マットの上へ仰向けになります。
最初は、ごく普通のマッサージでした。
男性は私の足首を軽く持ち、片脚ずつ位置を整えていきます。
膝を少し曲げたり、外へ開いたりしながら、太ももの前側や内側を手のひらでゆっくり押していきます。
「イタイ?」
「大丈夫です」
右脚を持ち上げられ、膝を曲げられました。
そのまま胸のほうへ、ゆっくり近づけられます。
少し戻す。
もう一度。
今度はさっきより深く入ります。
そのとき、ズボンが太ももの付け根で強く突っ張りました。
男性も気づいたようでした。
「コレ、チョット、キツイネ」
「うん、これきついね」
私は一度、身体を起こしました。
ズボンの太ももあたりをつまみます。
「……脱ぐ、OK?」
男性が一瞬だけ私を見ました。
「ウン、OK。ソノホウガ、ラク」
私は立ち上がり、ズボンのウエストへ手をかけました。
ここまでは、自分で決めたことです。
それでも、実際に脱ぐとなると少しだけ手が止まりました。
ズボンを下ろします。
さっき更衣スペースで穿き替えた、白い細いひもだけの下着が現れました。
普通の下着とは、もうほとんど呼べません。
腰の左右も、前も、後ろも、細いひもでつながっているだけ。
隠すための布はほとんどありません。
鏡の前で見たときより、今のほうがずっとひどく感じました。
自分ひとりで見ていたときは、まだ遊びでした。
でも今は違います。
知らない男性の前に、そのまま出ています。
(こんなの穿いてるって、思われた)
胸の奥が熱くなりました。
(普通の女の子が穿く下着じゃないって、絶対わかる)
男性の視線が、一瞬だけそこへ落ちます。
ほんの一瞬。
すぐにいつもの表情へ戻りました。
(真面目そうって思われてる二十六歳の女の子なのに……)
(そんな私が、知らない外国人のおじさんの前で、こんな下着になってる……)
この下着に穿き替えたのも私。
店のズボンを断ったのも私。
そして今、自分から「脱ぐ」と言ったのも私です。
男性は片脚を曲げ、外へ開きながら、内ももをゆっくり押していきました。
押す。
離す。
少し場所を変えて、また押す。
(いやん……私のあそこ、ぎゅっとされてるところを、こんなすぐそばで見られて……かわいそう……)
反対側の脚も、同じように動かされました。
今度は、何が起きるか分かっています。
内ももを押されるたび、前の細いひもがずれて、敏感なところを擦りました。
「ん……」
さっきまでとは違う声が漏れます。
(やだ……これ、気持ちいい)
見られている恥ずかしさだけだったはずなのに、今度は身体のほうまで反応し始めていました。
「ウツブセ」
私は身体を返しました。
男性は両膝を曲げ、足首を持ってゆっくり引き寄せます。
前ももが伸びて、身体の前側がじわっと引っぱられました。
「イタイ?」
「大丈夫です」
数回繰り返すと、男性は静かに脚を戻しました。
次は横向きになるよう言われました。
男性は背中から腰にかけて、手のひらでゆっくり押していきます。
何度か場所を変えながら押されました。
「ウツブセ」
と言われ、私は身体を返しました。
男性は両脚を曲げ、足首を持って少しずつ引き寄せます。
前ももが伸びて、腰がわずかに浮きました。
そのたびに、後ろの細いひもがお尻の間へ深く食い込みます。
(いやん……)
(お尻、こんなに持ち上がってる)
さらに脚を引かれると、お尻の形まで強調されるのが自分でも分かりました。
(ひも、こんなに食い込んで……)
(お尻の穴まで、絶対見られちゃってる……かわいそう……)
(ひーん……誰も、こんな私だなんて思ってないのに……かわいそう……)
そう思った瞬間、また顔が熱くなりました。
でも今度は、恥ずかしさだけではありませんでした。
見られていると思うほど、少しずつ気持ちまで高ぶっていきました。
「アオムケ」
言われて、私はもう一度身体を返しました。
男性は私の両脚のあいだへ入り、片脚を持ち上げました。
もう片方の脚はマットに残ったまま。
持ち上げられた脚が外へ開くと、男性は脚のあいだから、あそこの奥まで見える位置になります。
(やだ……これ、わんちゃんがおしっこしてるみたい)
男性が脚の角度を変えるたび、細いひもが敏感なところへ擦れました。
「ん……」
(いやん……おしっこしてるわんちゃんが、そのまま発情しちゃってるみたい……)
(ひーん……知らないおじさんに足ひらかれて、奥まで見られて……かわいそう……この子……)
男性は何も言わず、そのまま脚を支えていました。
少し角度を変える。
戻す。
また外へ開く。
そのたびに、私はさっきの想像を思い出してしまいます。
(おしっこしてるわんちゃんが、そのまま発情しちゃってる……)
そう思うほど、恥ずかしさが強くなりました。
なのに、男性は相変わらず淡々としています。
その落差が、余計に落ち着きません。
やがて男性の手が、太ももの上のほうへ移りました。
一度押す。
離す。
もう一度。
でも次は、さっきより少しだけ長く手が残りました。
(……あれ)
私は男性の顔を見ました。
表情は変わりません。
それでも、その手の置き方だけが、ほんの少し違って感じました。
男性の手が、さっきまでとは違う動きをしました。
(……違う)
施術の流れではない。
そう気づいた瞬間、恥ずかしさが一気に込み上げました。
それと同時に、身体が強く反応しました。
「ん……っ」
頭の中が真っ白になります。
恥ずかしい。
なのに、気持ちいい。
その二つが重なって、一瞬だけ、そこに溺れかけました。
(だめ)
その言葉が浮かんだ瞬間、私ははっと現実へ戻りました。
「……だめ!」
脚を引き、身体を起こします。
「もういいです」
「もう、終わりでお願いします」
急いでズボンを穿き、会計を済ませました。
店を出ると、外にはいつもの街がありました。
私は振り返らず、そのまま駅へ向かいました。
PS
あのとき怖かったのは、男性が一線を越えたことだけではありません。
私が、一瞬それを拒めなかったことでした。
恥ずかしくて、怖いはずなのに、その瞬間だけは全部どうでもよくなりそうになった。
あれは今でも、少し怖いです。




