↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

波の出るプールで――見えないところまで、波に任せてしまいました

第15章(仮)波の出るプール――確定本文


夜、ベッドの上で、興味のない動画をなんとなく流していました。


内容はほとんど頭に入ってきません。


画面を見ているのに、考えていたのは別のことでした。


河川敷のことを、思い出していました。


金網。


向こう側に集まった男の人たち。


伸びてきた手。


そして、身体を引き寄せられた瞬間。


胸が、少しだけ速くなりました。


(……怖かった)


あのときは、本当に怖かったです。


腕を外せなかったこと。


何人かが金網の端へ走り出したこと。


思い返すだけで、身体が硬くなります。


もう、あそこには行けません。


同じことをもう一度やりたいとも思いませんでした。


それなのに。


布団の中で目を閉じると、別のものまで一緒に思い出してしまいます。


金網の向こうに、何人もの顔が並んでいたこと。


その人たちの視線が、全部こちらに集まっていたこと。


指先が届くか届かないか、そのぎりぎりを、自分から何度も行き来していたこと。


そして、最後に捕まったこと。


あのまま逃げられなかったら。


金網の向こうへ引き込まれていたら。


あの人たちの住んでいるところまで連れていかれて。


何人もの男の人に囲まれて。


全員の相手をさせられていたら。


そこまで考えたところで、私は布団の中で脚を少し縮めました。


(……やだ)


本当に怖い。


あんなところには、もう絶対に行けません。


なのに。


想像しただけで、身体の奥がじわりと熱くなりました。


でも、実際にあんな危ないことをするのは嫌です。


普通の場所で。


普通の26歳の女の子が。


たくさんの人に、お尻やお尻の穴を見られちゃうこと。


そんな、ちょっと可哀想な状況。


私が欲しいのは、それだけでした。


私は、スマートフォンを手に取りました。


なんとなく、いろいろな場所を見ていきました。


画面を眺めながら、指が止まりました。


波の出るプール。


大きな施設の写真には、水面いっぱいに人がいました。


波の出るプールは、普通のプールより混んでいました。


波が出れば、人はもっと密集する。


しかも、あれだけ人がいれば、潜ることなんてできません。


(……気づかれないかも)


挿絵(By みてみん)


数日後。


私は、そのプールにいました。


水面いっぱいに人がいました。


(うわっ……すごい)


思っていた以上に、ぎゅうぎゅうです。


波が出るたび、あちこちで身体が揺れていました。


私は、プールに入り、人の波の中へ入っていきました。


黒いビキニ。


下は、左右を細い紐で結ぶタイプです。


少し奥まで進むだけで、もう人との距離が近い。


前にも、後ろにも、横にも誰かがいます。


挿絵(By みてみん)


やがて、波がくる時間になりました。


最初の一波で、身体がふわっと浮きました。


(あ、結構強い)


次の波が来ると、足元をさらわれました。


身体がふわっと浮いて、足が底から離れます。


踏ん張ろうとしても踏ん張れず、両脚が自然に左右へ開きました。


そのまま後ろへ押されて、お尻が、すぐ後ろにいた人の腰にぶつかりました。


「すみません」


反射的に言いましたが、相手は笑って軽く手を上げただけでした。


挿絵(By みてみん)


周りでも同じようなことが起きています。


ぶつかって、離れて。


また波が来て、別の人と近くなる。


誰も気にしていません。


私は水面を見下ろしました。


胸が、少しだけ高鳴りました。


やがて、波がおさまりました。


さっきまで揺れていた人たちも、何事もなかったようにその場に残っています。


挿絵(By みてみん)


私は、左腕につけていた小さな防水ポーチに触れました。


次の波が来るまで、少し時間があります。


一度だけ、周りを見ました。


誰も私なんて見ていません。


私は水の中に両手を沈めました。


右の紐をほどいて。


左も、ほどく。


黒い布を水の中でそっと外しました。


一瞬、心臓が大きく鳴りました。


それを小さく折って、腕のポーチに押し込みます。


ファスナーを閉めました。


水面から上だけを見れば、さっきまでと何も変わりません。


でも、水の中では違いました。


腰から下には、もう何もありません。


水が直接、あそこやお尻の穴に触れるのを感じます。


周りには、こんなにたくさんの人がいるのに。


誰も、私が水の中でどんな格好をしているのか知りません。


私は、そのことがおかしくて、少し笑いそうになりました。


しばらくして、また波が始まりました。


今度は、さっきより少し大胆になってみました。


身体をうつ伏せ気味にして、お尻を少し後ろへ突き出します。


波が来ると、その格好のまま身体がふわっと浮きました。


(わっ……)


足が底から離れる感覚が、なんだか楽しい。


そのまま流されて、誰かの身体にぶつかります。


今度は身体をひっくり返すようにして、仰向けに近い格好になりました。


両脚を、わざと少し大きく開きます。


水の中で、あそこが無防備に開いている。


(いやん、見られちゃう……)


そんなことを想像しながら、次の波を待ちました。


波が来るたび、ふわっと浮いて、流されて、また誰かにぶつかる。


怖いことなんて、何もありません。


私はだんだん、波に浮かされることそのものまで楽しくなっていました。


挿絵(By みてみん)


波が少しおさまりました。


私は息を整えながら、なんとなく左腕に目をやりました。


さっき水着を入れた、防水ポーチ。


(……え?)


ファスナーが半分くらい開いていました。


ぎょっとして、すぐにポーチをつかみました。


慌ててファスナーを開き、中を確認します。


何もありません。


もう一度、指を入れて確かめました。


空でした。


挿絵(By みてみん)


「……え?」


黒いビキニの下が、なくなっていました。


その瞬間でした。


大きな波が来ました。


「わっ――」


完全に不意を突かれました。


足が底から離れ、身体が持ち上げられます。


さっきまでなら、それを楽しんでいたはずなのに。


今度は体勢を立て直すこともできず、身体がくるりと一回転しました。


慌てて足を底につけ、顔を水面に出します。


心臓が、どくん、と鳴りました。


(今……)


周りを見ました。


すぐ近くに、何人もの人がいます。


(見られた……?)


すぐ横に、若い男の人たちのグループがいました。


髪を明るく染めた人。


ネックレスをつけた人。


みんな二十歳くらいでしょうか。


何人かで、何かを言いながら笑っています。


さっきまでは、まったく気にならなかった人たちでした。


(……まさか)


一人がこちらを向いた気がしました。


その瞬間、また大きな波が来ました。


「あっ」


今度も、不意打ちでした。


足元をさらわれ、お尻がふわっと水面近くまで浮き上がります。


次の瞬間、そのまま横へ押し流されました。


どん、と。


お尻が、グループの一人の腰にかなりの勢いでぶつかりました。


「す、すみません」


でも、その人がどんな顔をしたのか、見るのが怖くて見られませんでした。


挿絵(By みてみん)


急いで、その場から離れました。


人を避けながら、不自然なくらい早足で水の中を進みます。


ふと、プールサイドを見ると、若い監視員がこちらを見ていました。


(……え)


私は目をそらして、さらに離れようとしました。


その途中で、また波が来ました。


「あっ」


歩いている最中だったので、踏ん張れませんでした。


身体がふわっと持ち上がり、そのまま完全に仰向けになります。


一瞬だけ、下半身の前側が水面から出たような気がしました。


(やだっ……)


慌てて身体を起こします。


そして、もう一度プールサイドを見ました。


監視員が、まだこちらを見ています。


今度は、じっと。


挿絵(By みてみん)


(……見た?)


(見つかっちゃったら……)


監視員が笛を吹く。


私を指さす。


そして、プールから上がるように言われる。


(……やだ)


水着の下をつけていないまま、あの階段を上がる私。


水から出れば、もう隠してくれるものはありません。


監視員に連れられて、プールサイドを歩かされる。


何百人もの人がいる前を。


みんなが振り返る。


(違うんです……)


頭の中で言い訳しました。


(流されちゃっただけなんです)


でも。


自分で脱いだことを、私は知っています。


そのことまで分かってしまったら。


警察を呼ばれて。


事情を聞かれて。


誰かがスマートフォンで撮っていて。


SNSに流れて。


ニュースになって。


『大型プールで、26歳女性――』


そこまで想像したところで、ぞくっとしました。


(もう会社行けない……)


(社会復帰できない……)


怖い。


ものすごく怖い妄想なのに。


身体の奥が、じわりと熱くなりました。


私は、監視員から目をそらしました。


視線を逃がした先に、家族連れがいました。


ゴーグルをつけた子どもが、水の中へ潜ります。


「こら、ここ潜っちゃダメって書いてあるでしょ」


お母さんに叱られて、すぐに顔を出しました。


私は、その様子を何気なく見ていました。


そして、遅れて気づきました。


(……潜れるんだ)


胸が、どくん、と鳴りました。


誰も潜らないと思っていました。


だから安心していたのに。


私は反射的に、両手で腰まわりを隠しました。


顔を上げると、さっきのお母さんがこちらを見たような気がしました。


私は慌てて手を離しました。


(……今の、変だった?)


頭の中で、お母さんが険しい顔でこちらへ戻ってきます。


『ちょっと、あなた』


『何を隠してるんですか』


私は答えられません。


『まさか、水着つけてないんですか?』


周りに聞こえるような声で言われる。


『ここ、子どもも来るプールですよ』


(違うんです……)


『何考えてるんですか』


何人かが、こちらを振り返る。


『いい歳した大人が、変態みたいな露出して。恥ずかしくないんですか』


(やめて……)


『監視員さん! この人、水着もつけないで入ってます』


今度は、もっと大勢が振り返る。


可哀想な26歳の女の子。


大勢の人の前で、隠すことも、逃げることもできずに立っている私。


(……やだ)


想像すればするほど、下半身の奥が疼きました。


そのとき。


少し離れたところで、子どもの声が聞こえました。


「パパ、これ何? 浮かんでたよ」


何気なくそちらを見ました。


子どもの手に、黒い布がありました。


(……あ)


心臓が跳ねました。


父親がそれを受け取り、両手で広げました。


「ん? 女性の水着だな。……ずいぶん小さいな」


私の水着でした。


見つかった。


私は水の中を、ゆっくり二人の方へ近づいていきました。


「あの……」


父親がこちらを向きました。


「すみません。それ、私のです。流されちゃって」


言った瞬間、顔が熱くなりました。


父親は、


「あ、そうなんですね。どうぞ」


と、水着を差し出しました。


水着を受け取ると、私はすぐに父親に背を向けました。


水の中で急いでボトムを身体に当てます。


右の紐を結んで。


左も結ぶ。


ようやく、元に戻りました。


私はそのまま、人の間を抜けてプールの出口へ向かいました。


そして、何事もなかったようにプールを後にしました。


挿絵(By みてみん)


PS


帰り道。


ふと、考えました。


あのまま、水着が見つからなかったらどうなったのでしょうか。


タオルは、プールから百メートルくらい離れたところにあります。


水着をつけていないまま、そこまで歩くのは流石にできません。


そうしたら。


監視員の人に事情を話して、助けてもらうしかなかったのでしょうか。


(……それも、やだ)


そう思ったのに。


想像すると、また少しだけ胸がどきどきしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。