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田舎の温泉で――露出して、叱られたあと、優しさに泣いてしまいました

車で山道を走ると、小さな温泉の看板が見えてきました。

舗装された細い道の先に、木造の小さな建物があります。

駐車場には車が二台だけ。

観光地という感じではありません。

近所の人が使っているだけの、古い共同浴場みたいな場所でした。


挿絵(By みてみん)


中に入っても、受付はありません。

壁に、

「混浴では必ずタオルを着用してください」

と書かれています。

私は少しだけ立ち止まって、それを読みました。

着替えるところで服を脱ぎ、そのまま浴場へ出ます。

タオルは持っていきませんでした。


露天風呂には、男の人が一人だけ入っていました。

六十歳くらいでしょうか。

少しお腹の出た、普通のおじさんです。

私を見ると、少し驚いた顔をしました。


「こんにちは」

「こんにちは」


私はそのまま湯船に入りました。

おじさんは、私がタオルを持っていないことにすぐ気づきました。


「あれ、タオル……」

「忘れちゃいました」


私は少しだけ笑いました。

おじさんは困ったような顔をしました。


「まあ……そうか」


それ以上は何も言いませんでした。

でも、一度だけ私の身体を見ました。

すぐに目をそらしました。

少しすると、またこちらを見ました。


(やっぱり見るんだ)


少しして、おじさんが話しかけてきました。


「旅行?」

「はい」

「どこから?」

「東京です」

「へえ、東京から。こんなところまでよく来たねえ」

「温泉、好きなので」

「そうなんだ。ここ、何にもないけど、お湯だけはいいよ」


挿絵(By みてみん)


本当に、ごく普通の世間話でした。

私も、今日はそんなに大げさなことをするつもりはありませんでした。

ちょっとだけ、体を見てもらえればいいかな。

そのくらいでした。


私はゆっくり湯船の中で立ち上がりました。

おじさんの目が、すぐにこちらへ向きました。

私は気づかないふりをして、両腕を上げます。

そのまま、ぐっと背伸びをしました。

足は少しだけ開いて。

お尻を、ほんの少しだけ後ろに突き出しました。


(これくらいでいいや)

(おじさん、ちょっとラッキーだったね)


そのときでした。

後ろで、戸が開く音がしました。


「……あんた、何してるの!」


びくっとして振り返りました。


(まずい、見られた)


入口に、女の人が立っていました。

六十歳くらいでしょうか。

少しふっくらした、いかにも近所のおばさんという感じの人です。

片手には、掃除用のブラシを持っていました。

おばさんは私を見て、それからおじさんを見ました。


「ちょっと! ここ、タオル着用って書いてあるでしょ!」


私は慌てて湯船の中にしゃがみました。


「すみません……」


挿絵(By みてみん)


すると今度は、おばさんがおじさんを睨みました。


「あんたも! なんで注意しないの!」

「いや、俺は別に……」

「別にじゃないよ!」


そこで初めて分かりました。

この二人、夫婦でした。


「それに、あんた。さっき、うちの人の前で何してたの?」


私は答えられませんでした。


「立って、いやらしい格好してたでしょ」

「……すみません」

「私はここ、みんなで掃除したりしてるんだよ。変なことされたら困るの」


急に申し訳ない気持ちになりました。

ただ、少し見てもらうだけのつもりでした。

おじさんがちょっとラッキー。

本当に、そのくらいだったんです。


「タオルは?」

「持ってきてません……」

「最初から?」

「……はい」

「じゃあ、忘れたんじゃないんじゃない」


何も言えませんでした。

その通りでした。


「ちょっと来なさい」

「え……」

「ほら。上がって」


私はゆっくり湯船から出ました。

もちろん、裸のままです。

おばさんはため息をつきました。


「タオル巻いて」


渡された大きなタオルを身体に巻きます。


「着替え、あそこにあるんでしょ」

「はい……」

「それは私が持っていくよ。さあ」


私は何も言えず、そのままおばさんについていきました。

後ろでは、おじさんもそそくさと湯から上がって、着替え始めていました。

外へ出ると、おばさんは私の車を見て言いました。


「あんたの車はここに置いときな。うちの車で行くよ」

「……はい」


私の着替えは、おばさんが持ったままでした。


挿絵(By みてみん)


おじさんが運転席、おばさんが助手席。

私はタオル一枚のまま、後ろの席に座りました。


挿絵(By みてみん)


家までは、本当にすぐでした。

細い道を少し走ると、古い一軒家がありました。

居間には、大きな掘り炬燵がありました。


「そこ座って」


私は言われた通り、端に座りました。

おばさんは向かい側。

おじさんは、その隣です。

おばさんは私の着替えを自分の横に置くと、腕を組みました。


「で。何してたの、あんた」

「……すみません」

「すみませんじゃなくて。タオルも最初から持っていかなかったんでしょ」

「……はい」


おばさんは私をじっと見ました。


「じゃあ、誘惑してたんでしょ」

「……違います。そういうつもりじゃ……」

「じゃあ、なんで裸でうちの人の前に立ってたの。足開いて、腰つき出して」


私は何も言えませんでした。

誘いたかったわけではありません。

でも、見られたかったのは本当です。

その違いを説明するのは、とても難しかったです。


挿絵(By みてみん)


「……見られたかっただけです」

「うちの人に? 何を?」

「……お尻です」


おばさんは少し私を見ました。


「お尻だけじゃないんでしょ」


胸がどきっとしました。

私は膝の上で手を握りました。


「……はい。お尻の穴です」


おばさんの顔が止まりました。


「なんでそんなところを見られたいの」

「……恥ずかしいから、だと思います」

「普通は隠したいんじゃないの」

「……そうだと思います」

「じゃあ、なんで」

「自分でも、よく分からないです」


おばさんはしばらく私を見ていました。


「ほんと、困った子だねえ」


少しして、おばさんが言いました。


「じゃあ、私が見てあげるよ。お尻の穴」

「……え?」

「立ちなさい」


私はゆっくり立ちました。


「そのタオルも取って」


少し迷ってから、タオルを外しました。

おばさんは隣のおじさんに言いました。


「あなたはあっち向いてなさい」


おじさんが背中を向けます。


挿絵(By みてみん)


私は足を少し開いて、身体を前に倒しました。

お尻を後ろに突き出します。

おばさんの顔は、私のお尻から三十センチも離れていませんでした。


(近い……)


「……これ?」

「……はい」


おばさんは、しばらく黙って見ていました。


「何がいいんだかねえ……」


顔が一気に熱くなりました。


(ひーん……)

(私、初めて会ったおばさんに、こんな近くでお尻の穴見られてる……)


少しして、おばさんが聞きました。


「これで嬉しいの?」

「……はい」


自分で答えて、また恥ずかしくなりました。


「じゃあ、もういいよ」


終わったと思って、少し力を抜きました。

そのとき、小さな音がお尻からしました。


(ひーん……)

(私、おならまでしちゃってる)


私はそのまま動けなくなりました。

おばさんも、しばらく何も言いませんでした。


「……あんたねえ」

「……すみません」


(最低な女の子……)


「もう何がしたいの、この子は」


私は何も言えませんでした。


(私、ほんとに何やってるんだろう……)


急に、おばさんに申し訳ない気持ちになりました。

おばさんは、そんな私をしばらく見ていました。


「……もういいよ」


さっきまでより、少しだけ声が優しくなりました。


「タオル巻きなさい」


私はタオルを拾って、身体に巻きました。

おばさんは、横に置いていた私の着替えを差し出しました。


「はい。もう返すよ」

「……ありがとうございます」


服を受け取って、少しだけほっとしました。

これで帰れる。

そう思ったところで、おばさんが言いました。


「その前に、お風呂入りなさい。湯冷めしちゃったし、身体も洗ってないでしょ」

「え?」

「私も入るから」


さっきまで、あんなに怒られていたのに。

今度は、一緒にお風呂に入ることになりました。


(……なんで?)


家のお風呂は、普通の小さなお風呂でした。

おばさんは先に服を脱いで、洗い場に入りました。

私もタオルを外します。


「ほら、こっち座りな」


言われた通りに座ると、おばさんは石けんを泡立てました。


「背中、自分じゃ洗いにくいでしょ」


肩から背中、腰まで、丁寧に洗ってくれます。


挿絵(By みてみん)


「ほんと、なんであんなことするんだかねえ」

「……すみません」

「もう怒ってないよ」


そのまま、おばさんは腰まわりも洗ってくれました。

お尻の穴の周りまで、普通に丁寧に。


(なんか、変な感じ)

(私、初めて会ったおばさんに、お尻の穴洗われてる)


おばさんは気にした様子もなく、


「それにしても、なんでこんなところ見られたいんだかねえ」


と言いました。


「……自分でも、よく分からないです」

「そうだろうねえ」


おばさんは、また背中を洗いながら言いました。


「でもね。好きなことがあるのは、別にいいんだよ」


私は少しだけ顔を上げました。


「ただ、人に迷惑かけちゃだめ。そこだけは、ちゃんとしなさい」


その言い方が、思っていたより優しかったです。

怒られて。

呆れられて。

変な子だと思われて。

それでも、全部だめだとは言われませんでした。


急に、胸の奥がいっぱいになりました。


「おばさん……」

「ん?」

「……ありがとう」


言った途端、涙が出ました。

自分でも、どうしてこんなに泣くのか分かりませんでした。

でも、止まりませんでした。


私は振り返って、そのままおばさんに抱きつきました。


「あらあら」


おばさんは少し驚いて、それから私の背中をぽんぽん叩きました。


「ほんと、不思議な子だねえ」


私は泣きながら、しばらくおばさんにしがみついていました。


挿絵(By みてみん)


「大丈夫、大丈夫」


少しして、おばさんが言いました。


「そのうち普通になるよ」


私は何も言わず、ただ頷きました。


そのあと、食事までご馳走になりました。

おじさんも、もう何も言わずに普通にご飯を食べていました。

私も途中から、少しだけ普通に笑えるようになりました。


挿絵(By みてみん)


帰るころには、外はもう暗くなっていました。

おばさんが車を出して、温泉の駐車場まで送ってくれました。

私が自分の車に乗ると、おばさんが窓越しに言いました。


「気をつけて帰るんだよ」

「はい」

「もう変なことするんじゃないよ」


私は少し笑いました。


「……はい」


挿絵(By みてみん)


PS


あのおばさんには、最後まで、私がどうしてお尻の穴を見られたいのか、よく分からなかったと思います。

たぶん、それでよかったんだと思います。


「そのうち普通になるよ」


帰り道で、何度かその言葉を思い出しました。

でも、たぶん。

普通には、ならないと思います。


ごめんね、おばさん。

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