第7話(中編)――「郭泰を討つ」
郭泰軍の先頭には300人余りが出ていたが、狭い谷へ戻ろうとしても趙嶽の150人が道を塞いでいる。後続の兵はさらにその後ろへ詰まり、人数の多さを生かして横へ広がることができなかった。
郭泰は中央を突破して退路を開こうとした。
「谷の道を奪い返せ。後ろの兵をこちらへ通せ!」
兵が趙嶽の部隊へ向かったものの、狭い場所では一度に数十人しか戦えない。趙嶽は槍兵で道を押さえ、その後ろから弓兵に射かけさせた。郭泰側は人数を送り込むたびに前列が倒れ、思うように進めなかった。
北では賀蘭真が兵糧車を押さえつつあった。守備兵を追い散らした後、馬を外して田家側へ引き込み、荷車そのものを街道へ横向きに並べて退路を狭めていく。
「兵糧は燃やすな。馬も全部取る。郭泰が持ってきた物は、今日から田家の物だ」
賀蘭真の命令で、兵たちは荷車を奪いながら北側の道を固めた。
田朔は高所から各部隊の動きを見ていた。郭泰の旗は南側に残っており、本人も先頭部隊から抜け出せていない。
趙嶽へ新しい命令を送った。
「道を守るだけでいい。余った兵で谷の中を南へ押せ。郭泰の兵を段烈のところへ集めてしまえ」
命令を受けた趙嶽は、後続へ圧力をかけ始めた。谷の中に残った郭泰軍は南へ押され、先頭部隊は段烈の兵との間に挟まれていく。郭泰は兵を立て直そうとしたが、狭い場所へ人が集まりすぎて命令が届かない。
田家側は、敵が混乱したまま密集したところへ弓を集中させた。
前へ出れば段烈。
谷へ戻れば趙嶽。
北へ抜けようとしても賀蘭真がいる。
郭泰はようやく自分の周囲に残った100人ほどをまとめ、田家軍を押し破ろうとした。
段烈も郭泰の旗を見つけた。
「郭泰を取るぞ。ほかの兵は逃がしてもいい。あの旗だけは倒せ」
田家兵が郭泰の周囲へ押し寄せた。
郭泰自身も剣を抜いて戦った。40を過ぎていたが、長く兵を率いてきた男だけあって腕は鈍っていない。近づいた田家兵を2人斬り、段烈と向かい合った。
「田朔の犬が、俺の前へ出てくるか」
「その犬に囲まれているのはお前だ」
郭泰が斬りかかり、段烈が受けた。郭泰は大振りせず、剣を返して続けざまに打ち込んでくる。段烈も無理には踏み込まず、周囲の兵が郭泰側を削るのを待った。
郭泰が横から出された槍を払った瞬間、段烈が踏み込んだ。
最初の一撃が郭泰の肩へ入り、それでも郭泰は倒れずに斬り返した。段烈は身をかわし、続く一撃を胸へ突き込んだ。
郭泰は剣を落とし、その場へ膝をついた。
「俺の2郷を……」
「田朔がもらう。兵も銭も全部だ」
段烈が剣を抜くと、郭泰は前へ倒れ、そのまま動かなくなった。
郭泰の旗も倒れた。
大将が死んだと知った兵たちに、戦い続ける理由はなかった。段烈が降伏を命じると、最初は数人だったものが、やがてまとまって武器を捨て始めた。
北も中央も田家に塞がれている。逃げたところで兵糧もない。何百人もの兵が槍や弓を地面へ置き、戦は終わった。
◇ ◇ ◇
田朔が谷へ下りた時には、郭泰の死体は街道の脇へ移されていた。
段烈から戦況を聞くと、田朔は死体を一度見ただけで命じた。
「郭泰の首を取って先頭へ掲げろ。このまま柳泉郷へ行く」
段烈は血の付いた剣を布で拭いながら答えた。
「兵はかなり疲れています。追撃するなら、せめて少し休ませた方がいいでしょう」
「水と飯を取らせる時間だけでいい。郭泰の本隊はここで潰れた。柳泉郷へ戻って守りを固める兵はいない。今行けば、こちらは戦わずに取れる」
趙嶽も賛成した。
「郭泰が死んだと知れば、屋敷に残った兵も長くは抵抗しないでしょう。明日まで待てば、銭や馬を持って逃げる者が出ます」
「だから今日行く。土地を取る時に、敵が立ち直るのを待つ必要はない」
捕虜は620人余りに達していた。田朔はその場で処分を決めず、武器を集めて見張りを付け、後から段烈と趙嶽に使える兵を選ばせることにした。田家側にも死傷者が出ているため、その確認と治療を朱昭へ任せた。
短い休息の後、田家軍は郭泰の首を先頭に掲げて柳泉郷へ向かった。
夕方には郭泰の本拠が見えた。
屋敷と倉を守る兵は100人にも満たなかった。主力1,000人が敗れ、郭泰本人の首まで掲げられているのを見て、門を閉じて戦おうとする者はいなかった。
田朔は開いた門から屋敷へ入り、まず倉、武器庫、馬小屋、帳場を押さえさせた。
「今夜は誰にも持ち出させるな。銭も銀も兵糧も、明日から朱昭が調べる」
その夜には石門郷からも使者が来た。郭泰が死んだ以上、抗戦するつもりはないという。
「明日の朝、田家の兵を入れる。今まで村をまとめていた者は逃げずに残れ。従うなら、そのまま使う」
使者は頭を下げて帰った。
巴嶺郷では塢を力攻めして一郷を取ったが、今度は1度の戦で大将を討ち、その勢いのまま2郷を奪った。
田朔は勝った後の方が忙しいことを、ようやく知り始めていた。




