第6話(中編)――「塢を落とす」
戦いが始まって1刻ほどすると、董衡側の抵抗は塢の中央にある屋敷周辺へ追い込まれていた。
田朔は50人を連れて東門から入った。
地面には折れた槍、矢、盾が散らばり、負傷者が壁際へ運ばれている。武器を捨てた男たちは塢の一角へ集められ、田家の兵が見張っていた。
田朔は近くの組頭を呼んだ。
「倉はどうなった」
「火は消しました。3つとも無事です」
「20人置け。誰も近づけるな」
田朔は屋敷へ向かった。
段烈が正面を押し、趙嶽は裏から回っている。
董衡のもとに残っている兵は、すでに50人を切っていた。
正面で再び田家の兵が動いた。
槍を構えた兵が屋敷の入口へ押し込み、董衡側が下がる。裏手からも怒号が聞こえた。
ほどなく、剣を捨てた男たちが次々に外へ出てきた。
最後に趙嶽が屋敷から現れた。
「董衡を見つけました」
田朔は段烈とともに中へ入った。
広間には何人もの男が倒れていた。
一番奥には、血に染まった衣で柱にもたれている男がいた。50歳ほどで、肩から腹にかけて傷を負っている。
朱昭から聞いた董衡の特徴と一致していた。
董衡は田朔を見ると、剣を握った。
「お前が田朔か」
「ああ」
「商人が、俺の土地へ何をしに来た」
「取るためだ」
董衡は剣を杖代わりにして立ち上がろうとした。
「巴嶺郷は俺の土地だ」
「負けただろう」
「役所がお前を認めるものか」
田朔は董衡を見た。
「役所が戦ったわけじゃない。俺の500人がお前の兵を破った」
董衡は立ち上がったが、2歩も進めなかった。
膝をつき、それでも剣を放さない。
「殺せ」
「俺が斬らなくても、お前はもう死ぬ」
董衡が田朔を睨んだ。
「巴嶺郷を……守れると思うな」
「お前よりは守る」
董衡は剣を振り上げようとした。
しかし腕が上がらず、剣が床へ落ちた。
そのまま倒れ、動かなくなった。
趙嶽が確かめた。
「死にました」
田朔は屋敷の外へ出た。
「残っている兵へ降伏させろ。村から連れてこられた者は帰せ。董衡の私兵はまとめておけ」
段烈が尋ねた。
「こちらの死傷者も数えます」
「すぐ出せ」
塢を落としたことより、次に必要なのは自分の兵の損失を知ることだった。
◇ ◇ ◇
夜までに損害がまとまった。
田家側は18人が死に、31人が重傷を負った。軽い傷まで入れると負傷者は80人を超えた。
董衡側では63人が死に、112人の私兵が降伏した。
村から集められていた男たちは名前と村を記録し、武器を取り上げて帰した。
田朔は朱昭へ言った。
「死んだ18人の家族を調べろ。妻子のある家には20貫ずつ出す。それとは別に食糧も渡せ」
「18人なら360貫になります」
「出せ」
田朔は迷わなかった。
趙嶽が112人の捕虜について尋ねた。
「こいつらはどうします」
「段烈と一緒に選べ。使える兵は俺が雇う」
「董衡の兵ですよ」
「董衡は死んだ」
田朔は捕虜が集められている方を見た。
「給金を払う主人がいなくなった。次の主人が俺になるだけだ」
趙嶽が笑った。
「戦って兵を取った後、その兵まで買うんですか」
「使えるなら捨てる必要はない」
「何人残します」
「人数を揃えるな。使える奴だけ残せ」
◇ ◇ ◇
翌朝から塢の中身を調べた。
3つの倉には粟と麦が積まれていた。保存食、塩、油、布もある。
武器庫には槍、弓、矢、刀が残っていた。
馬は27頭。
董衡の屋敷からは銅銭684貫が見つかり、銀や金具も出てきた。
宋淮は銀や金具を確認しながら言った。
「銭へ直せば、全部で1,000貫を超えるだろう」
「戦で使った分は戻るな」
「それより土地の方が大きい」
「分かっている」
田朔は塢の外へ出た。
眼下には村と田畑が広がっている。
粟や麦を積んだ倉だけではない。毎年作物を生み出す土地そのものを取ったのである。
「朱昭」
「はい」
「董衡が持っていた田、倉、家、馬、武器、銭を全部帳面へ入れろ。村ごとの戸数と田畑も調べ直せ」
「分かりました」
「今日から巴嶺郷の物は、俺が数える」
朱昭は返事をして木札を開いた。
田朔は塢の門から村を見下ろした。
昨日まで董衡が見ていた景色だった。
今日からは田朔の景色である。




