↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長安の悪党、乱世を喰らう  作者: ひまえび
第三章――「金で兵を買う」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/142

第4話(中編)――「今日から俺の兵だ」

 385年12月中旬。


 田家の屋敷裏では、朝から男たちの声が響いていた。


 段烈は新しく来た者たちを何日かかけて調べていた。


 槍を使わせ、弓を引かせるだけではない。長く走らせ、夜番をさせ、指示された場所を勝手に離れないかも見た。


 田朔は選別に口を出さなかった。


 4日後、段烈が帳場へ来た。


「43人のうち27人なら使えます」


「16人は駄目か」


「兵だったと言っているだけの者もいました。博打の借金を抱えている者が3人。酒を飲まないと手が震える者が2人。命令を聞くより自分で勝手に動きたがる者もいます」


「いらんな」


「残した27人はどうします」


「雇え」


「これで184人です」


「あと16人だ」


 段烈が笑った。


「200人に揃えるつもりなんですね」


「184人という数字は気持ちが悪い」


「兵は帳面の数字ではありませんよ」


「給金を払う時は数字だ」


 その日の午後、別の一団が田家を訪ねてきた。


 14人だった。


 以前、北へ向かう軍にいた者たちで、部隊が散った後は荷運びや用心棒をしながら暮らしていた。


 段烈が7人を選んだ。


 翌日には、田家の商隊で臨時護衛をしていた男から9人が常雇いを希望した。


 段烈は全員を知っていたため、その場で採用を認めた。


 兵はちょうど200人になった。


 ◇ ◇ ◇


 12月15日。


 田朔は200人全員を屋敷裏の広場へ集めた。


 朱昭が作った名簿には、名前、出身、以前の仕事、得意な武器、家族の有無まで記されている。


 田朔は名簿を持ったまま男たちの前へ出た。


「今日から給金の日を毎月15日にする」


 男たちが田朔を見る。


「商隊へ出ていて15日に戻れない者は、出発前に渡す。怪我で働けない者も、治る見込みがあるならすぐ切らない。商隊へ出ている間の飯は田家が持つ」


 後ろで朱昭と玉蓮の手伝いをする者たちが銭を並べ始めた。


「その代わり、勝手に民家へ入って物を取るな。商人を脅して銭を取るな。田家の兵だと名乗って好き勝手をする奴は追い出す」


 段烈が横から付け加えた。


「追い出されるだけで済むと思うな。盗みなら盗んだ分を返させる。逃げても探す」


 何人かが姿勢を改めた。


 田朔は続けた。


「俺が欲しいのは、一番喧嘩の強い奴じゃない。銭を受け取った分だけ働く奴だ。それができるなら、俺は毎月払う」


 給金の支払いが始まった。


 商隊の護衛で働きのよかった者や、組頭を任せる者には役目に応じて上乗せする。それ以外の兵にも、決めた額をその場で渡した。


 列の途中で、57人の元兵士たちが初めて田家から通常の給金を受け取った。


 前回は、受け取れなかった3か月分だった。


 今回は、これから働く田家の兵としての銭である。


 年長の男が給金を受け取ってから田朔へ言った。


「本当に15日に払ったな」


「毎月そうすると言っただろう」


「前のところでも最初はそう言われた」


「俺が払わなくなったら、その時に文句を言え」


「言っていいのか」


「俺の方が約束を破ったならな」


 男は笑った。


「分かった。なら働く」


 その言葉を聞いていた周囲の兵たちも笑った。


 田朔には、それで十分だった。


 忠義を口で誓わせる必要はない。


 毎月15日に銭が出る。


 商隊へ行けば飯が出る。


 怪我をすれば治療を受けられる。


 その暮らしが続けば、男たちは簡単にはほかへ移らなくなる。


 ◇ ◇ ◇


 兵が200人になると、朱昭の仕事も急に増えた。


 砦の倉には粟、麦、乾肉、飼葉、武器を入れ、何がどれだけあるか帳面へ記していく。


 賀蘭真(ホーラン・ジェン)は馬を見て回り、騎馬で使える兵を20人ほど選んだ。


 馮彩児(フォン・ツァイアル)も砦と漢中を行き来し、買い足す馬を賀蘭真と一緒に選んでいた。


「この馬は脚が弱いわ」


 彩児が1頭の前脚を見ながら言うと、賀蘭真も同じ場所を確かめた。


「長く走らせなければ使える」


「荷を運ぶならね。騎馬に回すのはやめた方がいい」


「俺もそう思う」


 近くで聞いていた段烈が田朔へ言った。


「この2人に任せた方が、俺が馬を見るより早いですね」


「なら任せろ。お前は200人を見る方に頭を使え」


「旦那は簡単に言いますが、100人から200人になると全然違いますよ」


「だからお前に任せている」


「給金は旦那、兵は俺ですか」


「そうだ」


「一番面倒なところだけこっちへ来ていますね」


「銭を払う方も面倒だぞ」


 段烈は笑った。


「それならお互い様ですね」


 砦には常時40人を置くことにした。


 漢中の屋敷と倉に30人。


 残る130人は商隊護衛と訓練に回す。


 配置は固定せず、段烈が交代させる。


 砦の地下には銀、武器、予備の銭を置いたが、外から見える場所には粟や飼葉、縄、予備の車輪など、商隊の中継所に見える物だけを並べた。


 田朔は砦を城のように飾る気はなかった。


 役に立てばよい。


 ◇ ◇ ◇


 その夜、田朔が屋敷へ戻ると、崔玉容(ツイ・ユーロン)は自室で帳面を見ていた。


 腹はまだ大きく目立つ時期ではないが、食事の好みには変化が続いている。


「また帳面を見ているのか」


「あなたに言われたくないわ」


「疲れるなら玉蓮に任せろ」


「屋敷の支出だから私が見るの。今日は兵の給金を払ったのでしょう」


「ああ。200人になった」


 玉容は筆を置いた。


「1か月で100人から200人ね」


「仕事があるから増やした」


「来月は300人と言い出さないでしょうね」


「稼がせる仕事があれば増やす」


「やっぱり言い切らないのね」


 田朔は玉容の前へ座った。


「子どもが生まれる時に、家の周りへ200人いた方が安心だろう」


「200人が産婆の代わりになるわけではないわよ」


「敵が来た時には役に立つ」


「漢中の屋敷へ敵が攻めてくる前提で考えないで」


「来なければそれでいい」


 玉容は田朔を見て笑った。


「あなたは本当に心配の仕方がおかしいわね」


「心配していることは分かっただろう」


「それは分かる」


 田朔は玉容の腹へ手を伸ばした。


「具合はどうだ」


「今日はよく食べられたわ。医者も問題ないと言っている」


「ならいい」


 玉容は田朔の手へ自分の手を重ねた。


「兵も大事でしょうけれど、無茶な商売はしないで」


「何の話だ」


「このところ、金を増やす速度がおかしいもの。あなたが大きな金を持てば持つほど、もっと大きなことを考えるでしょう」


「分かっているじゃないか」


「褒めていないわよ」


「俺は子どもが生まれるまでに、もっと増やす」


「何を?」


「銭も兵もだ」


 玉容は何も言わず、田朔の肩を軽く叩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。