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後宮編 第23章:本物の寵姫の要求状

冬至の最も長い夜が明け、アズールは再びファールスの世継ぎとしての仮面を完璧に被り直していた。

政敵との全面対決を目前に控え、彼は死に物狂いで準備に没頭した。

あの夜、自分を焼き焦がした激しい情動と、内側から理性を溶かした熱病のような衝動は、まるで幻影のように霧散したかのように見えた。


側近や官吏たちは、かつての冷徹で合理的な主が戻ったことに安堵した。

しかし、彼らは同時に、アズールが執務の合間にふと視線を彷徨わせ、後宮の方向、とりわけあの庭園の離宮の気配を無意識のうちに探っていることに気づいていた。

主の瞳には、かつてないほど濃い暗雲と、何かを待ちわびるような飢えが潜んでいた。


そんな緊迫した日々の中、イザベルが執務室を訪れた。

彼女の手には、優雅な便箋とは程遠い、ただの羊皮紙の断片が握られていた。

それはエメからの手紙と呼ぶにはあまりに無骨で、剥き出しの紙には、彼女の筆跡でデカデカと箇条書きが綴られていた。

イザベルの表情は、長年アズールに仕えてきた彼女にしては珍しく、言いようのない複雑さに染まっていた。

アズールは期待と不快感が入り混じる表情で、その紙を受け取った。


「エメロードからか?……ついに、何かを望んできたのか」


アズールが紙に目を落とすと、そこには無機質な要望が羅列されていた。


一、最高級の研究材料(特に稀少な鉱物と酸性試薬)

二、南国にのみ生育する幻の蝶(鱗粉が必要なため)

三、後宮は息が詰まるため、月一度の護衛付き外出許可(市中のバザールで実地調査を行うため)


アズールは絶句し、紙を指先で弄んだ。

寵愛を受けた妃が求める贅沢品や宝石、あるいは自分への甘い言葉などは一切ない。

まるで遠征先からの物資補給を求める将軍のような文面だった。

アズールが呆然としてイザベルを見上げると、彼女はただ、溜息を深く飲み込み、静かにこう言った。


「あの方にとって、後宮は牢獄でしかございません。

ですが、その牢獄においてもご自分の学究の道を諦めるおつもりはないようです。……あの方は、そういうお方でございますから」


離宮のエメロードはと言えば、あの夜からしばらくの間、誰とも口を聞かなかった。

鏡の中に映る自分を見つめ、痛みと屈辱、そしてアズールの荒々しい熱を思い出すたびに、怒りでエメラルドの瞳が鋭く燃え上がった。


なぜと問いたださなかったのは、それが無意味だからだ。

彼は問いに答える男ではない。

エメロードの魂は痛いほど理解していた。


「おめでとうございます。これで名実ともに陛下のお寵姫となられました」


イザベルの無機質な祝辞を受け流し、アズールが望むものは何でも与えると言い置いたことを知ったとき、エメロードの心に芽生えたのは、感謝ではなく怒りのみだった。


直後、有無を言わさずに飲まされた苦い薬草茶。

あの独特の香りを嗅いだ瞬間、彼女の本能が警告を鳴らした。

彼女は周囲の目を盗み、カップの底にわずかに残った茶葉を袖に隠した。

それは、後宮を暗躍する毒の解析を行う際、自らの手で分析を試みるためだった。

結果は残酷なまでに明白だった。


「……避妊効果か。

アズール貴方は、ここまで徹底的に、私の意志を奪うのね」


アズールによる不条理な蹂躙、強制された避妊、そして常に監視されているという理不尽。

エメの中で、怒りが臨界点を超えて爆発しようとしていた。

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