後宮編 第22章:冬至の夜の終わり
冬至の最も美しく、張り詰めた月光が、離宮の寝台を冷徹なまでに青く染め上げていた。
その中で繰り広げられたのは、愛の交歓というにはあまりに激しく、情動の奔流そのもののような時間だった。エメにとって、それは自分の心や誇りが、無慈悲に揺さぶられた夜であった。
一方、アズールにとっては、全身を焼き焦がす焦燥と、未知の情動からくる飢えを、ようやく強引に鎮めた束の間の解放であった。
明け方の空気が、寝室に満ちる重苦しい気配を冷たく引き締めていく。
アズールは、ようやく取り戻した冷静な精神の底で、重苦しい充足感と、言葉にできない後味の悪さを味わっていた。
薄まった月光と、まだ青白く頼りない朝陽が混ざり合う淡い時間。隣で眠るエメロードは、まるで力尽きた小鳥のように、その長いプラチナブロンドの髪をシーツの上に羽のように広げている。
「エメ、エメロード……」
宝石の名を呼ぶアズールの声は低く掠れていた。その響きは、いまの彼女には、どこか遠い他人の名前のように響くのではないか。
アズールはラピスラズリの瞳を細め、眠る彼女の顔を覗き込む。
外では、冬至の祭りの名残を惜しむかのように、侍女たちの話し声と、一夜の夢を歌い終えた吟遊詩人のかすかな調べが、冷たい朝風に乗って届いていた。
その音に誘われるように、エメロードの湖水のような瞳が、ゆっくりと開かれた。
アズールが戦慄していたのは、彼女の反応だった。なぜ、と糾弾する言葉も、酷いと拒絶する叫びもない。それは彼女が自分の身に起きたあまりの出来事に、まだ思考が追いついていないという証拠なのだろうか。
それとも、目の前の男に対する絶望と、深い怒りが言葉を奪ったのか。アズールは、研究と草花に囲まれた、清廉な彼女の世界を思い浮かべた。
その無垢な心には、あまりに無体で、荒々しいやり方だったと、今更ながら後悔が胸を突く。
彼は凍えるように冷たくなった彼女の肩を、指先で恐る恐る触れ、布団を掛け直した。
これまで多くの妃や女たちと関係を重ねてきたが、事後の朝をこのような複雑な心持ちで迎えたことなど、一度もなかった。
満足感という名の毒に満たされながらも、アズールは不器用な仕草でしか彼女を労ることができない自分に苛立つ。彼女の静かな沈黙は、雄弁な抗議となって彼を追い詰めた。
アズールは耐えきれず、ゆっくりと寝台を離れ、身支度を整えた。離宮の扉を開け、待ち構えていたイザベルの前に立つ。彼はエメロードの寝室の静寂を背に、冷徹な仮面を取り繕って命じた。
「……あの娘が目覚めたら、手厚く労るように。彼女の身の安全に関わらないことであれば、あらゆる望みを叶えてやれ」
彼は一拍置き、静かに言葉を続けた。
「ただし……彼女の体調を整えるための薬を、即刻用意せよ」
イザベルは主人の言葉の真意を悟り、無表情のまま頷いた。
鳥籠のような離宮を去るアズールの背中は、朝陽に照らされ、どこまでも孤独で冷え切っていた。
こ、こちらも…グー太郎大先生に指摘されて…R15修正バージョン書き直し




