表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/67

後宮編 第21章:冬至の夜の始まり③

冬至の夜、一年で最も長く、最も闇の深いその刻限。


宮殿の喧騒は遠ざかり、離宮という閉鎖された聖域は、ただ二人の荒い息遣いと、蝋燭が蝋を落とす微かな音だけに支配されていた。

アズールはもはや、自分が何者であるかを忘却していた。


政敵との抗争の苛烈さ、統治者としての重圧、そしてこの胸を焼き焦がし、正気を蝕んでいた焦燥――そのすべてを、一刻も早くこの女の中に叩き込み、魂の底から引き剥がしたかった。

彼にとって、今夜のエメは計画のための駒でも、愛でるべき宝飾品でもなく、この苦痛から自分を解き放つ唯一の出口だった。


「……っ、アズール……?」


エメの不安げな声が、静かな部屋に小さく響く。アズールは、戸惑う彼女の華奢な手首を、大きな手でそっと、しかし逃さぬように捕らえた。

青白い指先に唇を寄せ、そのまま距離を零まで縮める。アズールとエメの視線が絡む。

そこにあるのは、かつて冷静さではない。

飢えきった獣が獲物を前にしたときのような、冷徹なまでの欲望と、切実な渇望が混ざり合った濁った火だ。

エメは、自分を覆う男の顔を見て、初めて悟った。

この夜、自分の身に降りかかるのは〝ごっこ遊び〟ではない。

取り返しのつかないものなのだと。


アズールは彼女を強く抱きしめた。

熱い吐息が互いの肌を掠め、エメの細い身体が震える。彼女の声が、離宮の厚い壁に吸い込まれるように消えていく。


外の廊下に控えていた乳母イザベルは、その気配を察した瞬間、ただ黙して目を閉じ、静かに祈るように両手を組んだ。

エメラルドの瞳が限界まで見開かれ、虚空を彷徨う。アズールの逞しい背中に、彼女の爪先がわずかに食い込んだ。

かつてこれほどまでに余裕を失い、相手の痛みすら顧みることなく求めた経験など、傲慢な支配者である彼には存在しなかった。


彼の衝動は、彼女の心には度を超えた熱量だった。

アズールはエメの細い肩を掴むと、彼女の魂を揺さぶるようにその身体を強く抱きしめた。

寝室に響く息遣いは次第に乱れ、やがてただの断続的な吐息へと変わっていく。

一方的な執着。

一方的な充足。

アズールは、自らを焼き尽くす飢えを癒やすために、彼女という存在を強く揺さぶった。

対してエメは、いまだ無意識に仄かな恋慕を抱いていたアズールが何故これほどまで自分を追い詰めるのか、その意味すら理解できぬまま、ただ嵐に飲み込まれる小舟のように揺れ続けた。


夜は更け、激しい熱が二人の間を満たしていく。アズールにとって、それは永劫に続くような渇望の充足であり、エメにとっては、獣性を剥き出しにした男が自分を追い詰めるという、理解不能な苦行の夜だった。

      

寝室の中には、二人の心身の乖離が重苦しく澱んでいる。

アズールの執着はなお満たされず、エメロードの純粋さは無残に踏み荒らされた。

やがて外が白み始め、夜が終わりを告げても、二人の間に生まれた決定的な溝が埋まることはなかった。

アズールは、自らの理性と引き換えに手に入れた悦楽の余韻に身を任せながら、横たわるエメの姿を満足げに、しかしどこか虚ろな瞳で見つめていた。

その一方で、エメは目覚めることのない悪夢に捕らわれたかのように、ただ静かに唇を噛み締め硬直していた。


冬至の祭りの夜に交わされたのは、愛の誓いではなく、一方的な支配と、それによって引き裂かれた認め難い、あるいは無意識な初恋の終わりの儀式だったのである。


挿絵(By みてみん)


はい…もちろん…こちらも読ませた、グー太郎大先生から大変厳しく叱られました。

なので、何回も書き直してR15バージョンになりました。

「大丈夫。」いただくまで……何回も書き直しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ