後宮編 第14章:寵愛という名の嵐
※本章には軽度の恋愛描写があります。
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恋愛描写が苦手な方はご注意くださいませ。
後宮の空気は張り詰めていた。
アズールがエメロードのために命じた後宮の中心、美しい庭の中心。白亜の離宮の建設は、多くの人手が集められ、大規模かつ迅速に進められた。
それは寵愛の証という名目だが、実態は周囲を威圧し、エメロードを外界から遮断するための黄金の鳥籠であった。
第二妃ダーリャは、愛しい夫から完全に切り捨てられた怒りで荒れ狂い、蟄居先の離宮からは陶器の砕ける音と喚き声が絶えない。
お付きの女官らは毎日のように繰り返される女主人からの激しい罵倒にただただ、耐え抜くしかなかった。
第三妃ミルファの部屋には、不穏な影が蠢き、いつ何が起きてもおかしくない重苦しい空気が淀んでいる。
愛らしく夢みがちなやや舌足らずな声音で、ひたすら窓の外を眺めては「アズールさまはお忙しいのね?」と囁く女主人に、南の国より付き従ってきた乳母や一部の女官らは、なんとも複雑な思いでファールスの世継ぎを恨みがましく思うのだった。
そして、正妻シファは、嵐の中心で静かにため息をついた。彼女の膝元では、アズールによく似た息子ジャミールが、一心不乱に筆を動かしている。
描かれているのは、祭りの夜に見かけた水の女神の姿だった。シファは、女主人として後宮の舵取りを任されながら、今まさにすべてが黒い波に飲まれようとしている絶望を肌で感じていた。だが、そんな後宮の悲鳴を余所に、夜の帳は無慈悲に訪れる。
*
「……今宵も、陛下の元へお送りします」
無機質なイザベルの声に導かれ、エメロードは宮殿の世継ぎの寝室へと、足を踏み入れた。その傍らには、彼女を護衛する名目の宦官たちが付き従っている。
それはもはや、王の寝室へ捧げられる儀式のような光景だった。扉が開かれると、アズールが銀製のワイングラスを傾けながら彼女を待っていた。
「来たか」
短い言葉と共に、アズールはエメロードを自身の膝へと引き寄せる。彼の手は、彼女の肩に置かれたまま、動かなかった。
「毒の解析、進みはどうか?」
「え……う、ううん。昨日伝えたとおり、成分の分離が……」
研究者としての思考を必死に繋ぎ止めようとするエメロードを、アズールはどこか楽しげに見つめる。
彼の唇は彼女の耳裏から首筋へと、静かに優しくキスを落としていく。
「……んっ……」
「続きを話せ。お前の声を聞きながら確認したい」
「……成分が、混ざり合ってしまって……」
アズールはエメロードの背に腕を回し、彼女を自身へと引き寄せた。
「もっとだ。声を出せ。今夜の演技は、昨日よりも熱くなくてはならない」
今宵もまた、本宮殿の厚い扉の向こうで、偽りの一夜が幕を開ける。
エメロードの声が、壁を伝って後宮に微かに響き渡る。それを女官より聞いた妃たちは、また一人、嫉妬と憎悪でその心を焼かれることになるだろう。
アズールは、自分の腕の中で身を強張らせるエメロードを見下ろし、冷たい笑みを浮かべた。
彼女が研究の成果に安らぎを見出すたび、彼はそれをアズールという色一色に塗り替えていく。
出口のない夜。二人の演技は、もはや現実の境目すら曖昧にするほどに、深く変化していた。
R15バージョン規約に踏まえて大幅に削除と変更いたしました。
ボリュームが少なくなって申し訳ないです
イチャイチャメインの話しでは無いのですが、第一部は絆を深めるためにどうしても…との気持ちがあり。
書き手が大人視点なので難しい。
R15指定はチェック済みですが。




