後宮編 第12章:偽りの一夜の戦果
※本章には軽度の恋愛描写があります。
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恋愛描写が苦手な方はご注意くださいませ。
朝の陽光が重厚なカーテンの隙間から差し込み、ファールスの世継ぎの寝室を、白く染め上げていた。
豪奢な天蓋の下、乱れ切ったシーツの上には、昨晩の名残りが色濃く残されている。
床にはエメロードの繊細な青いドレスと、アズールの重厚な正装が絡み合うように脱ぎ散らかされ、その近くには銀の杯が転がっていた。
それは、誰もがこの一夜に何が行われたかを確信するに足る証拠であった。
エメロードは、まるで命を使い果たしたかのように、アズールの腕の中で微動だにせず眠っていた。
プラチナブロンドの髪がシーツの上に波打ち、白い肩や鎖骨のあたりに、いくつかの赤い痕跡が残されていた。
朝の支度のため、恐る恐る部屋に入った筆頭女官は、その光景を目の当たりにして顔を真っ赤にし、即座に視線を逸らした。
アズールの寝室に漂う高貴な香油の匂いと、女主人のようなエメロードの無防備な姿。
女官は深く頭を下げ、足音を忍ばせて退出した。誰もが疑わなかった。
あの夜、若きファールスの世継ぎは情熱の限りを尽くし、水の女神を自らのものにしたのだと。
――数時間前。
部屋を閉ざした直後、アズールはエメロードをベッドに叩きつけるように押し倒すと、獣のような眼差しで彼女を見下ろした。
「声を上げろ、エメロード……周囲に聞こえるように、俺の寵愛がどれほど激しいものか、周りに理解させる必要がある」
「なにを、言っているの…………?!」
アズールの舌先が耳朶から首筋へと這い、熱い吐息を吹きかけられるたびに、エメロードは自分の意志とは無関係に声を漏らした。
「ん……っ!」
「そうだ。もっと声を上げろ!」
アズールは、馬鹿らしさを感じながらも、何処か楽しげに、獣のように激しい音と声を演出した。
近衛兵たちは扉の外で固唾を飲み、回廊を通りかかる女官たちは羞恥に頬を赤らめて逃げ出した。
しかし、その実態は、アズールがどれほど彼女の肌を愛撫し、濃厚な口づけで彼女の首筋を腫らそうとも、決定的な一線を越えることは一度としてなかった。
シーツに滲んだ赤いシミは、アズールが自らの小指の先を傷つけた出血による、偽りであった。
アズールは、腰まで達するプラチナブロンドを指先で丁寧に梳きながら、うなされるようにして眠るエメロードの額に、静かな口づけを落とした。
(……このまま、お前のすべてを塗りつぶしてやりたいという衝動を抑えるのが、これほど苦しいとは)
アズールは、己の胸に広がる得体の知れない飢えを自覚していた。彼女に、周囲を欺くための演技を強いた。しかし、その過程で彼自身の理性が、音を立てて崩れ去りそうになっている。
エメロードが身じろぎをして、彼の腕の中にさらに深く潜り込んだ。彼女はまだ知らない。自分がアズールの人生において、どんなに危険で、どんなに甘美な、逃れられぬ毒となってしまったのかを。
アズールは窓の外を見つめた。
周囲の女官たちも、妃たちも、この〝偽りの情事〟を信じ切るだろう。これで、イスファーンの後宮にエメロードに手を出せる者は誰もいなくなった。
あくまで表立っては。
政敵の魔手から守る為には、更に気を引き締めねばならないだろう。
アズールが今ほど勢力を固めるまでに、どれほどの物が失われていったか。シファ妃が産んだ男子は生き残っているジャミール以外は、2人共に半年も生き伸びられず。情熱的に寵愛した妃や女官は身籠った事がわかると、後宮の池に浮かび、あるいは生き延びてもまともに喋る事すら出来なくされていた。
(……この娘の才能は役立つ。だから、守るのは当然だろう)
アズールは腕中に囲い込んだ、無邪気なエメロードの寝顔を見つめていた。
胸の奥で燻り続ける熱も、昨晩の衝動も、まだまだ若い男としては当然感じる欲望だ。そんなものならば、いくらでもコントロール出来る自信はある。
いままでの彼の人生で押さえつけられぬ感情を感じた事などは、一度として無かった。
少なくとも、母の殺害を父に訴え、見捨てられ全てを失った日の絶望感と怒り。記憶にある激しい感情の嵐は、ただそれのみだった。
アズールは自分の内側から湧き上がる何か、を自分の若さ故の欲望だと片付け、硬く蓋を閉ざした。
グー太郎さんに読ませたら指摘がかなり厳しく入り
R15バージョンにがっつり修正いたしました。




