#28 進行役
開始の合図が近づき、参加者たちがリング前に集められた。
照明が一段落とされ、闘技場の中央だけが不気味に照らし出される。
鉄製のリングは擦り切れ、無数の傷跡が刻まれていた。
ここで何人が倒れ、何人が二度と立ち上がれなかったのか――想像するだけで背筋が冷える。
その前に立ったのは、長い赤髪の女性だった。
腰まで伸びた赤髪。
鋭い目つきと、場慣れした立ち振る舞い。
この闇闘技場の“進行役”のような存在だと、煌真は直感した。
「今回の試合、ルールは簡単よ」
女の声はよく通り、ざわついていた観客席が一瞬で静まる。
「一対一。能力の使用は禁止。だけど武器は持ち込み自由」
観客から下卑た笑い声が漏れる。
「勝敗条件は一つ。どちらかが倒れるまで。動けなくなった方の負け」
赤髪の女性は煌真を見据え、口元を僅かに吊り上げた。
「……異論は?」
煌真は短く息を吐き、頷く。
「ありません」
それだけで十分だった。
煌真はリングへ向かい、足を踏み出そうとする。
――その瞬間。
「ねえ」
背後から、呼び止める声。
振り返ると、赤髪の女性が一歩近づいてきていた。
そして、ためらいもなく――
ぎゅっと、煌真の手を握った。
「応援してるわ」
低く、しかしどこか楽しげな声。
「こんな所に来る若い子は、嫌いじゃないの」
一瞬、煌真の思考が止まる。
温度。
柔らかさ。
この闇闘技場には似つかわしくない、人の体温。
「……っ」
煌真は慌てて視線を逸らし、耳まで赤くなる。
「だ、大丈夫です……」
小さくそう答え、手を離す。
赤髪の女性はくすっと笑い、指をひらひらと振った。
「生き残りなさい。
そうしたら……また話せるかもしれないでしょ?」
その言葉を背に、煌真はリングへと上がった。
歓声と罵声が入り混じる中、
心臓の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。
――戦いの時が、始まる。




